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ちょっとやっかいな(?)M&A

●10年ほど前に

会社分割を使った事業再生を図りたいとご相談にいらっしゃった企業さんがありました。当時は金融機関も会社分割を事業再生の一つの手法として認知し始めた頃で、その法人さんも創業時の生業とそれを活かした他分野での事業の2部門があり、売上高は数億円ですが利益もある程度出ていましたが、債務償還には追い付かないCF、といった会社分割を使った事業再生スキームにピッタリの案件でした。ただ、社長さんが悩みに悩み、取り組みには至りませんでした。

●3年ほど前にひょっこりと再度

ご相談にいらっしゃいました。売上高はほぼ10倍程度に伸びていて利益も増加していました。金融機関の協力も得て借り換えなどでしのいできましたが、設備投資などで負債も増加してしまい条件変更弁済の状況に陥っていました。金融機関から今後の計画の提出やら様々な要望を出され、今度こそ会社分割で再生を図りたいとのご相談でした。ただ、10年前とは金融情勢も変わってきており、「事業再生➡改善計画の立案と実行による支援(再生)」がメインとなっていました。

そこで経営改善計画策定支援事業を活用し

経営改善計画を策定しました。その過程で創業時の事業を廃止する決断を計画に盛り込み、その他にも様々な行動計画を策定、その実行を図りました。

1年間のモニタリング期間を設け計画の上振れを待って、15年間の長期返済に借り換えることで正常返済化を図ることが出来ました。

この間に既存取引の大手銀行と手を切りました。その大手銀行は、リスケの度にグチャグチャと文句を言ったり、資金繰りが苦しいのに外貨預金や定期積立をしたり、果ては証券取引等をなかば条件として提示してくるので、弊社がご紹介させていただいた地銀さんと保証協会、公庫の協調で取り組みを成功させたわけです。

収支面では計画を上振れる実績を残し、

リスケ債権から正常債権に回復できたのですが、計画策定中に様々な問題を拾い上げることになります。一番の問題は後継者がいなこと。

そのうえで創業時の事業を廃止し、他分野での事業展開が主たる事業となった為に社長自身がその分野に疎く、その部門を統括する役員の統制が出来ていないことなどが大きな課題となっていました。社長としては娘婿をもらい継がせたいと考えていましたが、その娘さんも30後半に差し掛かるという切羽詰まった問題でした。

その為、社長のご希望が事業継続から事業の売却(M&A)へと移っていきました。

そこで再度事業価値の算出を行なったのですが、計画策定時は内緒にされていた負の部分が表面化してきました。棚卸在庫の調整は既に把握しており計画策定時にも実態BSに反映していましたが、何と売上高の半分程度は取引先に強要された架空の売上でした

M&Aが課題としてあがった時には大手M&A会社や各県にある公的なセンターへの登録なども視野に入れましたが、税務申告はちゃんと行っているとはいえ売上高の半分程度が粉飾という事態ですので、一般的なM&Aの交渉相手が見つかるとは思えません。

お先真っ暗な状況でしたが、

同じ元請から粉飾を強要されている元請との取引業者がいることがわかりました。更にはその企業さんが自社の既存取引に加えて当社を買い取ることで事業の幅を増やしたいと考えていることもわかりました。早速折衝を行なったのですが、金額面で折り合いがつかず一旦話は流れてしまいました。

それから2年ほど経ち、

業績は順調に計画数値を上回り、粉飾する売上高も減少傾向に向かい始め、後継者や労使の問題のみとなりました。ただ、社長は2年の間に体調を崩すことも多くなり、更には粉飾を強要していた元請先の業績も悪くなりはじめ、先行きに対する不安が増していました。そうしたところ以前断られた企業さんから再度M&Aのお話が舞い込んできました。先方も2年ほどの間に業績を伸ばし、小さな会社を買い受けたりしたようですが当社規模の会社を買い受けて更に規模を大きくしたいと考えた様でした。

譲渡側は「高く」売りたい

わけですし、譲受側は「安く」買いたいわけです。その価値算出の過程で粉飾などがあれば、当然信頼も揺らぎ価格は「安く」なってしまうわけですし、そもそもM&A自体が流れる可能性も高いわけですから、同じ取引先から同じ様な粉飾を強要されている企業であれば、対等なテーブルにつくことができます。社長の「終活」としても最大のチャンスといえます。

しかしここから社長の優柔不断さが存分に発揮されます(涙)。

当初のご相談時も悩みに悩み取り組みに至りませんでした。今回は毅然とM&Aを成就させるとは決めたものの、その本質が「早く」買ってもらって「終活」を終わらせたいというものだったのです。何度ご指導させていただいても、ご一緒に先方と面談する時はこちらの条件をしっかりと伝えることが出来るのに、面談後に直接先方から電話がかかってくる度に条件を下げられて納得してしまうのです。先方は日本の会社ですが海外の方が経営されており、社長の「早く」「売りたい」気持ちを逆手に取り、自分に有利な条件で話を纏めようとしているのは明白でした。

最終的には

これ以上の先方の無理には付き合わないと社長に決めて頂き、覚書の締結に至りました。その席でもまだ当社に不利な条件面を提示してきた為に、社長に「もうやめましょう」と言ってもらいました。その結果、当日持参した条件面にて覚書の締結に至りました。帰りに新幹線で「もっと強く交渉していてもよかったな。。。森井先生の言う通りでした。。。」と、社長がぼそりと言いました。

結果的に先方はどうしても当社を買い受けたかったのです。そしてその兆候は面談時に常々感じられるものでした。

条件面では最終的に私が試算した金額の半分程度の譲渡金額となりました。

その金額は当社の借入金を全額返済したもののみです。当然、現預金や資産と負債の相殺により手持ち資金は残りますが、社長のご希望していた金額には遠く及ばないものです。

様々な条件下でのM&Aがあると思いますが、売り手側は自らの定めた確かな企業価値をいたずらに下げるのではなく、

これ以下の価格や条件では当該M&Aを進めないというラインをしっかりと決める事。

サポートするプロ(M&Aアドバイザー)の意見をしっかりと聞くこと

が重要になります。

特に「終活」を目的としたM&Aではなおさらではないでしょうか。

我々サポートする立場としては

最終的にはご依頼者の進みたい方向(今回であれば何はともあれ借金の完済と手残り資金)へ向かう様なアドバイスが重要で、その為にも我々の確かな事業価値の算出も必要です。

今回のケースは売り手側の足元を見られ、

売り手自身がそれと気づいても、「終活」が一番の目的であるはずなのにそれを忘れ、自身にとって最低限のラインでも「M&Aの成就」を目的としてしまったところが敗因です。私自身今後の取り組みで、如何にご相談者にその目的を維持させることが出来るのか、という課題をいただいた案件となりました。ただ、社長は現在様々な肩の荷を下ろされ、晴れ晴れとしたお顔をされています。せめてもの救いですね。

執筆者

森井 将経(もりい まさつね)

経済産業大臣認定 経営革新等認定支援機関 
岐阜県商工会連合会 エキスパート登録
㈱中小企業経営支援センター
㈱ウィンズ・パートナー / ㈱ASBY不動産 代表取締役
NPO法人 東海事業支援機構 理事 / LLP経営支援パートナーズ 代表

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