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③事業価値を高めた上で事業承継を

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佐久間 信司

■会社内紛を防ぐ

中小・零細企業で経営者が亡くなると「お家騒動」がよくおきる。金銭で分けられる資産などそうないのに,それを知らない他家に嫁いだ娘が遺産分けを要求してくる例が間々ある。また事業を支えてきた兄弟であったにも係わらず、先代が亡くなったとたん仲違いしてどちらかが会社を出てしまうケースなどが「お家騒動」の典型例だ。

長年弁護士をしていると,実はこの手の紛争は「うま味のある仕事」だ。というのは紛争の経済的価値が大きく解決した時の報酬が高額になるからだ。今回は事業承継への対応が不十分だったため紛争となった案件に多数関わってきた弁護士の立場からみて,事業承継をうまく運ぶための知恵や,創業者はどういう視点で,どのような措置を講じておくべきだったか,思いつく点を述べてみたい。

■財産承継での工夫

事業承継では財産や株式の承継と,現実の事業体の承継の二つを同時にうまくやらなければいけない。まず財産・株式の承継からみてみよう。

中小企業のオーナーには跡を継がず家を出た子は「相続放棄するのが当然だ」と考えてみえる方が結構いるが,こんな考えでは絶対に後継者への財産承継はうまく行かない。幾ら可愛い娘や息子で結婚に際しそこそこの財産分けをしたからといって,それで相続権を放棄する保証など全くない。結婚して独立すれば子どもにも別の利害関係人ができる。遺言書の作成や遺留分対策は必須だ。

後継者以外の相続人にも遺留分は渡さざるを得ないという前提で,後継者にできるだけ事業用資産を集中させる工夫をするべきだ。でないと相続争いで後継者が足を引っ張られる。そして遺産のなかで自社株の評価が高い場合は,会社法を使って黄金株・議決権制限株式など種類株式の制度を作ったり,後継者以外の相続人から株式を買取ったりできる対策・道筋を立てておくべきだろう。後継者に会社財産や議決権をうまく承継できて初めて後継者による事業経営の基盤ができることをオーナーは銘記しておくべきだ。

■後継者の将来も考える

次に現実の事業体の承継の面を考えてみよう。事業承継では後継者の能力・資質の評価を誤らないことと,後継者の足を引っ張る社内勢力がある場合,その対策をどうしておくかが重要だ。

中小企業の場合は世代を跨いで事業を順調に拡大発展している企業は少ない。体験から「企業の寿命も30年か!」と思い知らされる倒産例も少なくない。後継者が家業以外のいわゆる名誉職に精を出したり,安易に新規事業に進出したりして事業を傾ける例が後を絶たない。経営者たる者,最後の大仕事が的確な後継者の指名だということを肝に銘じてほしい。親族後継者の能力いかんでは外部から有能な経営者を招聘することを追求するべきだ。

また事業承継を考える場合,採算の成り立つ事業あるいは将来性のある事業しか承継させてはいけない。親の希望だけで事業を継がせては後継者を不幸にする。事業承継すれば後継者は必ずといっていいほど会社の金融債務の個人保証にならざるを得ない。それは、後継者が人生を賭けた選択となる。

■事業の再構築を

永年事業を遂行してくるとどうしても企業運営上の膿のようなものが溜まる。この事業の負の部分は事業承継の際にきちんと処理して承継させるべきだ。会社の資産・負債を時価ベースでの精査が必要だ。債務超過の事業を安易に承継させてはいけない。それでもどうしても承継させたい場合は、事業譲渡や会社分割その他のスキームを活用し事業価値を高めてから後継者に承継しないといけない。膿を出さずに承継するといずれ後継者の事業は病巣が拡大し破綻する。先に事業再生をして,その後で事業承継するという鉄則を守るべきだ。

中小企業の経営者にしてみれば、自分の会社は子ども同然だと思っているだろう。その気持ちはよく分かる。しかしその子どもが元気に育つ子か,病気がちの弱い子なのかによって事業承継の方向性や内容は全く異なる。力のある事業承継コンサルの応援を得て,後継者の実力や希望に相応しい承継スキームを立てなければならない。ひとりでも多くの経営者が、意義ある事業承継の実現に力強く邁進してほしい。

 

 

佐久間信司(さくましんじ)

弁護士。愛知県弁護士会所属(37期生)
NPO法人 東海事業再生支援センター理事
JSK事業再生研究会正会員
名古屋第一法律事務所パートナー
調停委員、保護司を兼務。最近は、中小企業の事業再生や事業承継に力を入れている。

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