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老舗印刷会社が作ったノートは、なぜTwitterを中心に口コミが広がり、売り切れが続出したのか

コラム・連載

東京の印刷会社「中村印刷所」さんが販売している方眼ノート。

この方眼ノートが突如として売れ始め、生産が追いつかないぐらいの売れ行きになりました。

(画像引用:Amazon製品ページ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B010KXKRRM/ より)

きっかけはTwitterでした。

それまで今一つの売れ行きだった、お祖父様のノートを宣伝するために、お孫さんがTwitterを利用して、何気なく方眼ノートの宣伝をしました。このツイートは2016年1月1日につぶやかれましたが、瞬く間にリツイートを繰り返し、爆発的に認知が広がりました。(※1)

その結果、これまで残っていた在庫は売り切れ、2016年1月7日現在、生産が追いつかない状態になりました。きっかけとなるツイートは1月1日に公開されたので、わずか1週間で在庫が全て売り切れた計算になります。

通常のノートと、どこが違ったのか

通常のノートは、「無線綴じ」という製法を使って作られています。無線綴じは、安価に作れること、製造の際にノートのページ数の調整がしやすいという特徴があり、そのためノートによく利用されています。

その一方で、無線綴じで作られたノートは、あるページを開いた際に微妙な段差ができ、180度の見開きにならないという特徴がありました。(※2)

180度に見開いて使えるノートの製法としては、「糸かがり綴じ」という製法があります。この製法は古くから使われており、綺麗な見開きができるという特徴があります。一方で、工程数が増え、加工時間もかかるので、コスト、納期とも増加します。(※3)

中村印刷所さんのノートは

・従来のノートの製法である「無線綴じ」を利用しながら
・ほぼ180度の見開き状態を作ることができた

という点が新しく、特許を取りました。

なぜ話題になったのか

今回のきっかけは、お孫さんの「宣伝」ツイートがきっかけでした。

Twitterを利用した宣伝は、いろいろな企業がいろいろな形態で行っており、今では特別な手法ではありません。また、水平開きにできるノートは、多少価格が高くなりますが、これまでも存在していました。

それでは、なぜこのツイートがこれほどまでに広がり、反響を呼んだのでしょうか。

お祖父ちゃんを応援したい、という純粋かつ簡潔な応援メッセージだった

すでに削除されていますが、元のツイートの文章は以下の様なものでした。

【拡散希望】
うちのおじいちゃんノートの特許とってた…
宣伝費用がないから宣伝できないみたい。Twitterの力を借りる!
どのページ開いても見開き1ページになる方眼ノートです。欲しい方あげるので言ってください!

短い文章ですが、ツイート主 @measann さんの、お祖父様に対する愛情が伝わる内容です。純粋にお祖父ちゃんを応援したい、そのためにささやかだけどTwitterを利用して広告してあげたい、ということがひと目で分かる内容になっています。

製品自体が画期的であり、かつ、物語があった

今回のノートは、先述の通り

・無線綴じという従来の方法を改良し、特許を取ることができた
・結果、従来よりも安価に、水平開きのノートを作ることができた

という特徴があります。いわば、製品それ自体に、もともと力があったと言えます。製品のメリットが、Twitterを通じて爆発的に伝わったのが成功要因のひとつであることは間違いないでしょう。

加えて、ノート自体に「物語性」があったように感じられます。中村印刷所さんのウェブサイトを見ると

・印刷一筋でビジネスを営んできた会社である
・小さな町会社ながら、特許を取れるほどの技術力、開発力がある

である事がわかります。東京の下町にある町工場から、新しい技術による製品が生まれる。それはみんなが使いたくなうようなものだった…という流れは、まるでドラマのような物語性があります。

善意の輪が広がった

ツイッターを宣伝に使うケースは、今では特段珍しいものではありません。それにもかかわらず、ここまで注目を浴びることになったのは

・ツイート主 の@measann さんのツイートは、お祖父ちゃんを応援したいというものだった
・製品の特徴が分かりやすかった
・このため、フォロワーが善意からリツイートを繰り返していった
・結果、善意の輪というべき情報拡散がなされた

ことが大きかったようです。

これらの情報を整理すると、今回の情報拡散は製品の良さと善意が組み合わさり、効果的に拡がっていたと言えそうです。

ソーシャルメディアとオウンドメディアの組み合わせによる成功例

今回起こったことを、少し視点を変えてネットマーケティング的に考えると、「ソーシャルメディアとオウンドメディアが絶妙に噛み合った事例」 と言い換えることができるでしょう。

オウンドメディアとは、ウェブサイトやブログなど、自分で運用を行うメディア。ソーシャルメディアとは、Twitter や Facebookなどの、いわゆるSNSを指します。

ソーシャルメディアで情報が拡散し、興味を持った人がオウンドメディアを訪れ、製品やサービスの中身を確認し、購買を行っています。今回の動きは、2つのメディアがうまく噛み合った、成功事例ということもできるでしょう。Twitterには拡散力がありますが、それだけでは「180度見開きになる」「特許を取っている」という、詳しい特徴までは伝えきれません。ウェブサイトには詳しい情報が記述されているため、これらの特徴が理解できますが、訪れる人がいないと、そもそも情報は伝わりません。ソーシャルメディアとオウンドメディア、両方が噛みあったからこそ、販売につながった、と言って差し支え無いでしょう。

今回のような成功事例はレアケースではありますが、「絶対に起こらない」というものでもありません。今回の事例からは、以下の様なことが学べます。

強みがあるなら、それを真摯に伝えてみる

サービスの知名度や、規模の大小にかかわらず、もし自分が持っているサービス・製品に強みがあるなら、それをストレートに伝えることで、誰かに届く可能性は高まります。華美な装飾や過剰な宣伝よりも、真摯で簡潔な言葉のほうが、むしろ誰かの心に響くことがあります。

小さな情報でも発信してみる

情報の重要さは、人によって異なります。今回の例で言うと、発信された情報は「180度見開きができるノート」でした。ノートに興味が無い人にとってはピンと来ない情報だったかも知れません。ですが、イラストや図面を描く人にとっては、とても重要な意味を持った情報であった、ということが可視化された例でした。

自分にとっては小さな情報に思えても、まずは発信してみないと始まらないし、誰にも伝わりません。伝えたいと思った情報は、まず伝えてみることが大事だといえます。

ソーシャルと自社メディアをうまく組み合わせる

ソーシャルの拡散力と、オウンドメディアによる丁寧な説明は、うまく組み合わさると、とてもよい情報発信になります。ソーシャルだけ、オウンドメディアだけでなく、両者をうまく組合わせて情報発信を行うことで、情報の伝わり方は何倍にも増幅されるでしょう。

まとめると、以下の3点となります。

・強みがあるなら、それを真摯に伝えてみよう
・取るに足らない情報でも発信してみよう
・ソーシャルと自社メディア(ウェブサイト、ブログ、オウンドメディア)をうまく組合わせてみよう

自分も情報発信の威力や大事さについて、今回の事例を参考にしていこうと考えています。

(※1) togetter 【「おじいちゃんがノートの特許とってた。どのページを開いても見開き1Pになる方眼ノート」→「欲しい!」「どこで買えるの!?」と反響が殺到!】より

(※2)Wikipedia 「無線綴じ」より

(※3)「製本の引き出し」 製本お役立ち便利帳より