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【6回シリーズ】
中小企業に対する基盤強化税制の上手な活用の仕方
(2)財務力という経営基盤の強化
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1. 内部留保と同族会社の留保金課税
財務力の強化は「自己資本の充実」といっていいでしょう。
自己資本の充実は、新株の発行(増資)によるか、事業による税引き後利益の内部留保によるしかありませんが、日本の大半を占める株式非公開の同族支配の中小企業を考えれば「内部留保による自己資本の充実」が財務基盤の強化とほぼ同義と考えていいでしょう。
そこで、中小企業の自己資本の充実を図り、その経営基盤の強化に資するため、租税負担の適正化に必要な税制として「留保金課税の不適用」という税制がもうけられています。
同族会社に対する留保金課税という制度は、法人の各年度の所得の金額(会計上の利益に税法上の規定による加算減産をした後の税金の計算の対象となる金額)に対する法人税の他に、配当や役員賞与として社外に交付されなかった利益の内部留保分に対して、それが一定以上の金額の場合に、別に課税することを言います。
それだけを見れば、企業の利益の内部留保という健全な行為に対して懲罰的に課税する制度のように見えます。
日本の税法では、法人は本来の課税相手ではなく会社の利益は会社の所有者である株主に配当されて個人の所得となるとして、これに課税することを想定している(法人は平均税率、個人は累進税率で、しかも法人税率より高い)から、配当段階では法人・個人の二重課税の調整をする仕組みを持っています。にもかかわらず、少数の利害を共通にする株主に支配されている「同族会社」では個人の課税回避を目的として配当をせず必要以上に会社に利益を留保している場合に、通常の法人税の他にその留保金額に対して税金を加算するという「同族会社の留保金課税」制度があります。
これは昭和25年に創設された歴史ある制度でありながら、現実に健全な自己資本の充実に対しては、その意欲を殺ぐ存在となっていたといえるでしょう。
少なくとも中小企業の財務基盤の強化に反する税制でしたので、中小企業の基盤強化税制のひとつとして、このおかれていました。
2. 経営革新と留保金課税不適用
「留保金課税の不適用という規定がおかれていました」というのは、この平成18年の税制改正で留保金課税の仕組みが抜本的に見直され、三つあった留保金課税不適用のうち二つがなくなってしまったからです。
同族会社の留保金課税不適用には、@「中小企業新事業活動促進法」に規定する同族会社の中小企業者で設立から10年以内の会社 A「中小企業新事業活動促進法」に基づく経営革新計画の承認を受けた会社 B資本金の額が一億円以下の同族会社で、前期末の自己資本比率が50%以下の会社の三つがありましたが、Aを除いて不適用規定は廃止されました。
では、残された、中小企業新事業活動促進法の経営革新とは何でしょうか?
中小企業の基盤強化税制の背景にある「経営基盤の強化」という中小企業政策の新たな視点は、実は、平成11年12月3日の新・中小企業基本法の公布、施行の日に生まれました。
同法の3条 基本理念には以下のような記載があります。
「中小企業については・・・・・・独立した中小企業者の自主的な努力が助長されることを旨とし、その経営の革新及び創業が促進され、その経営基盤が強化され、並びに経済的社会的環境の変化への適応が円滑化されることにより、その多様で活力ある成長発展が図られなければならない。」
中小企業基本法の改正は、長い間続いた日本の企業社会に対する見方と中小企業に対する国や行政のスタンスの基本が大きく転換したことを意味します。
すなわち、それまでの経済の二重構造を背景とした「大企業との格差の是正」、「中小企業という弱者救済」保護行政の考え方から、積極的で前向きな中小企業の新たな産業や分野での事業の創造、或いは市場への挑戦を支援するという考え方への転換です。
そして、自由競争・自己責任・適者生存の企業社会を前提として、【自ら頑張る中小企業を選択的に応援する】という基本姿勢の下で、“経営革新支援”と“創業支援”を明確な政策の柱として明示したのです。
ですから、中小企業政策の中心にある経営革新の支援と一体の「同族会社の留保金課税の適用除外」は、平成20年3月31日までに開始する事業年度まで適用期間が延長されました。
「同族会社の留保金課税の適用除外」の特例を受けることの意味は、単にそれだけに止まらず、帰属する業界の競争の激化や社会及び市場環境の変化などを克服し、経営革新に向かうことにこそ大きな意味があります。
経営革新とは、新たな商品又はサービスの開発又は生産もしくは提供、新たな商品やサービスの生産又は市場への提供方法の開発導入など新たな事業への挑戦的な取り組みをいいます。
是非、中小企業新事業活動促進法に基づく経営革新計画の作成し承認を得て、その計画の事業実施によって付加価値生産を高め、効果的な内部留保による経営基盤の強化に望んでいただきたいと思います。
すでに自己資本率が30%を越えて高い水準にあるか、同族株主等からの借入金債務が多い中小企業については、特に経営革新計画の承認申請をお勧めしたい。
3. 留保金課税要件の緩和と自己資本充実の促進
経営革新計画承認企業を除く留保金課税の不適用規定が廃止になった代わりに、特に中小企業者である同族会社に対する留保金課税の制度内容そのものが見直され、留保金課税の要件が緩和されました。
では、同族会社の留保金課税要件はどこまで緩和されたのでしょうか?
法人税法がいう同族会社とは、株主等とその同族関係者(株主の親族や特殊関係のある個人や法人)を一グループとして、3つのグループが保有する株式又は出資金の合計金額の発行済株式総数又は出資金額の総額に対する割合が50%を超える会社をいいます。
平成18年度の法人税法の改正では、同族会社の留保金課税の要件において、この“3つの株主グループ判定”を“一つの株主グループ判定”にすることで、留保金課税の対象となる同族会社の範囲を小さくしました。
この判定で留保金課税の対象となる同族会社を「特定同族会社」とし、資本金の額又は出資金の額が一億円以下の中小特定同族会社には、留保金課税額を計算するときの「留保金控除額」を拡大することによって実質的な制度の緩和を行いました。
旧制度と改正の内容は以下の比較表の通りです。
但し、ここでいう自己資本比率の分子には同族株主等からの借入金債務が含まれることとなっているので、資本金は少ない代わりに、同族株主から資金を借りて経営しているというところは、その分も自己資本に含めて計算されるので注意して下さい。
| 旧制度の留保控除額 |
拡大された留保控除額 |
1、所得基準:所得等×35%
2、定額基準:1,500万円
3、積立金基準:資本金×25%−利益積立金
いずれか多い金額 |
1、所得基準:所得等×50%
2、定額基準:2,000万円
3、積立金基準:改正なし
4、自己資本比率基準:自己資本比率30%に達するまでの金額
いずれか多い金額 |
経済産業省の平均的な中小企業の数値に基づく試算によれば、この緩和によって5%程度の配当を行った場合に、留保金課税の追加的な課税を受けることはないとされています。

4. 新会社法と同族会社の定義
旧商法の規定でも自己資本の取得については平成13年改正で規制が緩和され、いわゆる金庫株の解禁ということで自己株式を保有することが自由となりました。
新会社法では更に、その取得に関する手続き面で緩和が進んだことに加えて、新会社法で活用の幅が広がる種類株式、中でも取得条項付株式、取得請求権付株式の普及や「相続人等に対する株式の売渡請求」規定などの運用によっても自己株式の保有が中小企業でももっと一般に行われるようになることが想定されます。
同族会社、特定同族会社の判定は、発行済み株式総数から自己株式分を除いて行いますから、自己株式の取得によって判定が変わることもあります。
ですから、同族会社、特定同族会社の判定に際しては、自己株式の保有株数に注意が必要になります。
<例>
発行済み株式総数 1000株 同族グループ保有株式450株:持ち株割合45%
同族以外の株主から200株の自己株式を取得⇒450÷(1000−200)>50%
もう一つ会社法の施行に関係して、同族会社の判定上注意を必要とする事柄があります。
それは、保有株数による判定だけではなく、議決権による判定が追加されたことです。
これも会社法施行後の種類株式の活用が広がることを想定したものです。
平成18年度の法人税法改正の中でも特に話題となっている「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」規定は、実質一人会社に対する課税の強化として、適切かつ適法な対応が必要とされていますが、その対応策の一つに一部同族グループによる支配(90%以上の株式保有)を同族以外の株主の持ち株割合を上げることによって変えるという検討が行われているところも少なくありません。
つまり、法人税法上の形式的な同族支配状態を変えるために経営支配権に影響の少ない議決権を制限した株式発行を促進する要因となる可能性があるということです。
議決権制限株式は、新会社法の施行ではじめて認められた制度ではなく、平成13年度改正で配当優先権とは関係なく議決権制限株式を発行できることとなったものですが、会社法で中小企業の多くを占める株式譲渡制限会社の議決権制限株式の発行数に制限がなくなりました。
議決権の制限は、一定の事項についてのみ議決権のない株式や全く議決権のない株式のことを言います。
例えば、保有株式数では同族会社にならない場合でも、次の4つの議決権のいずれかで50%超であれば、同族会社に該当することになります。
裏返せば、次の4つの議決権を制限した株式を発行して持ち株割合を変更しても、同族会社(特定同族会社、特殊支配同族会社についても同じ)の判定上に影響がないということになります。
- 事業の全部または重要な部分の譲渡、解散、継続、合併、分割、株式交換、株式移転又は現物出資に関する決議に係る議決権
- 役員の線に及び解任に関する決議に係る議決権
- 役員報酬、賞与その他職務の対価として会社が供与する財産上の利益に関する事項についての決議に係る議決権
- 剰余金の配当又は利益の配当に関する決議に係る議決権
※ 次回、(3)「人材力という基盤強化」 7/12(水)公開予定
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