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『新会社法』 〜 6回シリーズ 〜
6.小さな会社でもコンプラ(遵法)や内部統制は本当に必要ですか?
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わが国日本では、ほんの少し前まで「まじめに法律=ルールを守る人間」を見下す傾向にありました。いわく「融通の利かないやつ」、「青臭いやつ」、「堅物」、「くそまじめ」などの言われ方をしたものです。逆に、ルールの穴をうまく突いたり、法律は有るものの運用が甘い抜け穴を活用したりする人物を高く評価する傾向にありました。それらは、「抜け目のない人物」、「賢い大人」、「現実主義者」、「世渡り上手」などとやや褒められたりもしたものです。
良く思い出してください。自分はドウだったのか。身の回りにいた上司や同僚、仕事で大もうけした友人・知人、尊敬する父や祖父、そういった方々は、どちらに類する人だったのでしょうか。何れにしても、実に多くの人が「赤信号、皆で渡れば怖くない」とばかりに法律よりも現実を優先させ、その一方で、ルールに厳格な人を「集団の和を乱す人物」として遠ざけてきていたように思います。
表題のコンプラとは、コンプライアンス(Compliance)のことです。日本語訳としては「順法」とか「遵法」と表現しますが、著者としては「遵法」が好きです。法を尊ぶ(たっとぶ)と解釈したほうが、法に順ずる(じゅんずる)よりもしっくりします。ただ、語学的には「順法」が正しいという説が強いようです。それはどちらでもいいのですが、ここ数年の変化として遵法性を欠いた行動や発言に対する風当たりが強くなってきていることを感じるはずです。
今年の出来事ですが、ホテル経営を成功させたことで著名なある経営者が、ホテル建築に係る法令違反を指摘されました。その際の謝罪記者会見で「時速60キロ制限の道を67〜68キロで走ってもまあいいかと思っていた」と法令違反にも開き直ってみせた行為が社会の猛反発を受けました。IT産業の寵児と謳われ小太りのタレント兼経営者は、M&Aと株価操作係る粉飾決算で逮捕されました。物言う株主の代表者であり、その道の第一人者を自負していたファンドマネージャーは、インサイダー取引で起訴されました。この結果、裁判の行方はこれからのこととしながらも、彼らが受ける社会的な損失には計り知れないものがあります。
法律の遵守に関して、何かが変わりつつあります。それは、一歩進んだ「法治国家」になろうとしているように観えます。これまでの日本は、法律があっても現実(商慣習や地域の習慣、経済合理性、行政の都合など)を優先していたように思います。法律は国会等の立法機関で作成・施行されますが、違反の取り締まりは行政に依存しています。いわば役人の都合で法律は運用されていました。そのことに、国民も政治家(村の議員さんも含めて)慣れきっていて歪みを自覚できなくなっていました。しかし昨今は、その現実を優先させる(行政都合の取締り)機会や範囲が急速に萎んでいます。言い換えるならば、行政統治国家から法治国家に移りつつあるといえます。飲酒運転や駐車違反などの道交法も含め、法律違反には相応のペナルティーを科せられる社会になりつつあります。
1) 会社法と決算公告義務
1-1) 社長さんへの提言
この項でまず申し上げたいのは「社長さん! コンプライアンスなどは気にせずに、成り行きで経営していませんか?」という問いかけです。
その象徴が、会社法(同法440条)で規定する「決算公告」に対する義務違反です。現実には、同法に当該義務違反に対する罰則過料として100万円と明記されているにもかかわらず、90%以上の株式会社において決算公告義務違反(決算公告しない)が行われています。
何故110万社以上の会社が、法律違反を犯すのでしょうか。
何人かの経営者に聞いてみました。
第一の理由は「現実に罰金過料が課せられないから」でした。
次の理由は「問題があって見せたくないから」です。
ここでいう問題とは、いい加減に作成した「決算(書)」であったり、「赤字が大きく恥ずかしい」であったり、「儲かっていることを社員や取引先に知られたくない」だったりします。まさに古いタイプの大人の回答です。
こんな言い訳が通用しない世の中がそこまで来ていることを早く認識するべきです。
1-2)会社法施行と会社経営
日本の株式会社数は、120万社といわれています。他に有限会社が約160万社。他に会社や法人といわれるものには、合名会社や合資会社があり、さらにNPO法人、社団・財団、学校などの公益法人、道路公団などの特殊法人、国民生活センターなどの独立行政法人などを含めることもあります。
ここでは、法人の種類を伝えることが趣旨ではなく、株式会社の社長(代表取締役)さんの仕事について提言したいのです。
株式会社も有限会社も「法人」と呼ばれます。法人は、われわれ自然人である人間とは異なり、法律によって社会的な存在が認められる「団体」であり「人格」でもあります。会社の根拠となる法律(根拠法)によって始めて社会的な存在を認められています。その法律は、株式会社は商法で有限会社は有限会社法などでしたが、これらを元に新たに「会社法」が今年2006年5月に施行されました。
やや難しい話に思えますが、要は株式会社の社長さんの仕事に直結する新法=「会社法」ができた、ということです。
新法というとこれまでになかった法律が新たにできるというイメージですが、これまで商法や有限会社法、証券取引法等でばらばらに規定していた会社に関する法律を「会社法」という新しい法典として整備した、というのがより実態に近いイメージです。
この新法の施行を通して、経営者の課題が2つほど見えてきます。
- 株式会社の根拠法である会社法(旧商法)について経営者として充分な理解をしなければならないこと。
- 法律が変わることへの準備や対策をしなければならないということ。
この2点は、何れも経営者としては、見逃せない重要な課題といえます。そんなこともあり今年は、多くの出版社から「会社法」に関する本が出版されています。機会を作って、近くの本屋に行ってビジネス書のコーナーを覗くと良いでしょう。本屋に行くのが面倒ならばWeb本屋(amazon.co.jpなど)で「会社法」をキーワードにして検索すると良いでしょう。物凄い数の書籍がヒットします。
ここで改めて経営者の方にお尋ねします。
- 株主総会と取締役会は、商法に準則して実施していますか?
- 商法の趣旨に則った形で、この2つの機関と監査役は機能していますか?
- 経理会計は、税理ではなく商法に準じた処理をしていますか?
- 会社の決算は、公開する義務が課せられていますが、速やかに決算公告していますか?
これらのことは、司法書士や税理士などの専門家と言われる先生方に任せ切の社長が多いはずです。しかし、ここで良く考えてほしいのです。経営責任は当然ながら経営者(社長さん、取締役)にあり、ひとたび違法行為の摘発となれば、処罰の対象となるのは、専門家の先生方ではなく取締役の皆さんです。IT寵児の小太り社長の例を出すまでも無く、経営責任を追及される代表格が、社長さんです。専門家の先生方は、手続きの代行者であるとみなされています。特段の契約が無い限り、士業の専門家が経営を受任することは稀なことです。
会社設立をしたことのある皆さんに、思い起こして欲しいことがあります。
誰かと次のようなやり取りをしませんでしたか?
「会社の設立ですね。株式ですと、役員は3人以上必要です。何人の方が居ますか? 監査役も必要ですね。必要な書類としては○○○です、○○○までに用意してください。どのような事業ですか? 今お伺いしたことを元に、定款やら議事録やら設立に必要なものの原案はこちらで作成しますので」こんなやり取りです。
会社設立の事態は、このような具合にプロフェッショナルに、かつ事務的に進んだはずです。決算公告についても、顧問税理士等から強く勧められたり、指導されたりしたケースは少ないはずです。
少し穿った解説をするならば、この国の士業(専門家)は、縦割りで他の専門領域をできるだけ侵さない、という倫理観を持っています。
いやな言い方をするならば、金(料金)にならないことには手を出さない人たちが多いともいえます。
しかし、専門家に文句を言う前に、経営者としては自ら学ぶべきだった、と反省することが大切です。
1-3) 経営者は、経営執行として責任追及される
確かに、経営者が学ぶべき領域は広過ぎるともいえます。今回の会社法に限らず、人を雇用するなら労働関連法を、税法や業界法も、マーケティングや戦略論も学ばなくては、一流の経営者にはなりえないというのでは大変なことです。
しかし、やり方がないわけではありません。
経営者の皆さんは、これらの経営テーマの骨格や核心だけを掴めば良いのです。その上で、専門家を適時に利用し、取締役会を通じて取締役や従業員を活用します。
本来、社長業とはこのようなもののはずです。社長が成り行きで会社を経営していたのでは、確かな成長は望めません。
会社法の施行をひとつの契機として、「多くの会社が決算公告を実施する」こんな単純なことが時代の分岐点になると考えています。
1-4)新会社法によって混乱する「会社の信用」
新会社法によって、容易に株式会社を設立できるというメリットが生まれます。また、資本金の極めて少ない会社や役員ひとりの会社への組織(機関)変更もできます。
この変化をチャンスと捉えると、積極的な事業運営や戦略的な経営改革が可能です。しかし一方で変化には、チャンスという側面と同時にピンチ(危機)という側面も併せ持っていることにも注意しなければなりません。
容易に株式会社を創業できるということは、悪意を持った者による「安易な創業」も可能にしているということです。小額な現金取引から近づき、徐々に信用度を高め債務を大きくしたところで倒産や夜逃げをして債権回収を逃れる取り込み詐欺(パクリ屋)などの犯罪グループの仕事が新会社法によって、しやすくなると考えられます。商号規制も緩和されることから、新規の取引にはこれまで以上の注意を必要とするでしょう。
このように新会社法の施行によって、多くの会社が新規取引先の信用力に注意を払うようになるはずです。これは、これから市場を開拓し成長しようとする企業にとっては、見過ごすことのできない経済慣習の「一大変化」と考えなければなりません。なぜなら、自社の信用性や正当性をこれまで以上に開示しなければ、市場から排除されかねないからです。
この対策として、決算公告の実施を勧めます。現行の商法においても新会社法においても、株式会社には決算公告の義務が課せられています。しかし、現状では遵法性の検査がほとんどないことや罰則規定の適用が甘いことから、90%以上の会社が決算公告をしていないといわれています。新会社法の施行によって間違いなく、決算公告の実施を最低条件としながら、積極的な財務情報の公開が信用力のアピールに役立社会情勢となりました。
2)アカウンタビリティー(説明責任)というコンプラ
2-1)会社法で企業会計はどう変わるのか
商法第32条2項に「商業帳簿の作成に関する規定の解釈については、公正なる会計慣行を斟酌すべし」と規定されています。この商法で規定する“公正なる会計慣行”とは何なのか? “斟酌すべし”とはいかなる態度を求められているのかということです。
多くの中小企業における会計の実態は、法人税法を拠り所としながら、その他の事務については一般的な簿記会計の経験によっています。しかし、法人税法は会計基準(指針)ではありません。むしろ、法人税法そのものが公正妥当な会計処理によって作成された「確定決算」を前提として成り立っているものです。また、“斟酌すべし”という表現においては、強制法規である商法に相応しくない「曖昧な表現」といわざるを得ませんでした。
この点が新会社法では、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」とされ、相応に具体的なものとなりました。これを受ける形で「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」とは如何なるものなのかを具体付ける基準の統一化に向けて、いくつかの動きがあります。この動きを理解するためには、商法改正の履歴を少し遡って説明する必要があります。
平成14年の商法改正で、官報や日刊新聞による決算公告に代えて、インターネットのホームページ上で可能となりました。この改正時点での衆参両議院では、以下のような付帯決議がなされていることに着目する必要があります。
「株式会社の大多数を占める小規模会社においても、計算書類の公開の制度趣旨が十分に理解され、その実施が図られるようその趣旨の周知徹底を図るとともに、この制度を定着させるための環境整備に努めること。加えて、今後計算関係規定を省令で規定する際には、証券取引法に基づく会計法規等の適用のない中小企業に対して過重な負担を課して経営を阻害することのないよう必要な措置をとること」とされました。
会社法制を形骸化させている代表的な要因が「計算書類、すなわち、決算書の公告・開示の不履行」であり、これを改めることと、中小会社における適法かつ適正な会計の品質向上は、一体をなす事柄として当時から認識されていたことなのです。新会社法、第431条の「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う」によって商法の“斟酌すべし”は“従うものとする”へと変化したのです。
では、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」どのように規定されてきたのでしょうか。
2002年6月発表の中小企業庁の「中小企業の会計に関する研究会」を契機として、日本税理士会連合会「中小会社会計基準」(2002.12)や日本公認会計士協会「中小企業の会計のあり方に関す研究報告」(2003.6)と会計に係る各界から研究成果が発表されました。
これ等の研究は、2005年3月22日に設置された「中小企業の会計」の統合に向けた検討委員会(財団法人財務会計基準機構)によって、統一化に向けて動き出しました。この検討委員会は、企業会計基準委員会(ASB)から2名、日本税理士会連合会と日本公認会計士協会から、それぞれ3名、そして日本商工会議所から1名で構成されています。またこの委員会には、オブザーバに中小企業庁・金融庁・法務省を迎えて、基準化・統一化に向けた検討がなされました。
その成果は、2005年8月に「中小企業の会計に関する指針(以下『本指針』)」として発表されました。「本指針」によれば、その目的は、中小企業が、計算書類の作成に当たり、拠ることが望ましい会計処理や注記等を示し、中小企業に、本指針に拠り計算書類を作成することを推奨すること、としています。とりわけ、会社法施行後における会計参与を設置する未上場の中小会社が、計算書類を作成する際の統一的な拠り所となることが明白です。
本指針においてしばしば、“指針”や“望ましい”“推奨”といった曖昧とも受け取れられかねない表現が使われていますが、これに惑わされてはなりません。これ等は、日本の企業会計基準の先輩格である企業会計原則や、上場企業が準拠する証取法の財務諸表規則に配慮した表現となっていると考えるべきものです。「一国にもう一つの基準、すなわち、ダブルスタンダード」はありえないという原理原則から導かれた表現方法といえるのです。
しかし現実には、中小企業がその数において圧倒的なメジャーです。その実態を踏まえて、中小企業のための会計基準として生まれたのが、「本指針」といえます。従って、「本指針」は、今後の決算公告に適う適法な決算の基準となることは言うまでもありません。
2-2)会計の原則と決算公告
株式会社の会計を会社法が規定する目的は、会社の財政状態及び経営成績に関する情報を株主と会社債権者へ提供することにあります。会社法の第431条「会計の原則」では、従来の商法における“公正なる会計・・・”という表現を“一般に公正妥当と認められる会計・・・”に改正し、企業会計の適法な慣行の幅を広げました。2006年2月においては、企業会計の慣行となるべきものとして「中小企業の会計に関する指針」を想定しながら、一方で商法が“斟酌すべし”としていた記述を“従うものとする”に改正し、適法な会計のあり方についても明示しました。
また、同法の第432条「会計帳簿の作成及び保存」においては、「適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない」として、適時性・正確性についても明文規定がなされました。さらに、2005年11月28日に発表された「株式会社の計算に関する法務省令案」では、(会社法)第435条「計算書類等の作成及び保存」で、規定する計算書類について、貸借対照表、損益計算書に加えて、計算書類に株主資本等変動計算書と「個別注記表」が求められることが明らかにされたのです。この「個別注記表」が計算書類として規定されたこと、更にそれらの注記が、計算書類の公告の対象となったことは、従来の税務会計中心でやってきた多くの中小企業にとって、決算の実務において大きな影響をもたらすと考えられることから、事前の対策や検討が必要となります。
ただし、株式会社の計算に関する法務省令82条には、注記の省略に関する規定が設けられています。「公開会社でない株式会社」は、下表に示す「個別注記表」のうち5と9を除く注記事項の全部又は一部を省略することができます。決算公告についても、同様に省略できることになります。ここでいう「公開会社でない株式会社」とは、すべての種類株式について譲渡制限をしていない株式会社のことで、俗に言う「株式上場をしていない会社」のことではありません。
この注記省略規定があることで、会社法を「甘い法律」と考える向きもありますが、会社法に共通した特徴として「規定の選択性の幅の広さ」があります。この任意選択性に、個々の株式会社の意識レベルや取り組みの水準の高低を示す重要なポイントが隠されています。選択の余地のない義務(規定)ならば、進んで法を犯そうとする会社以外は規定に従うことになります。
会計原則などというと専門家の領域のように感じてしまうかもしれませんが、経営者はルールに準じた会計を行うことと、その結果の説明責任を負っています。たとえ難しくても学び理解しなければなりません。理解したなら準用しなければなりません。会計参与制度も含め専門家は、経営者として上手に使いましょう。それが「お縄にならない」容易で行きやすい「道」といえるでしょう。
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