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新会社法

『新会社法』 〜 6回シリーズ 〜

5.新会社法の活用で節税やコスト削減はできますか?

  

BFL経営財務研究所 杉田 利雄
SAS-Web Partner
NPO電子決算公告推進協議会 理事



経営における会社法の活用目的は、積極的な経営や最適な経営戦略の構築に本来の姿があります。例えばそれらは、銀行借り入れよりも有利な資金調達のためであったり、短期間に目標を達成するための企業買収であったり、時代とともにノンコアとなった事業の売却や分割であったりします。従って会社法は、節税やコスト削減を目的としたツールや手法ではありません。

では「小規模な会社が、地道に事業を進めていく上では、会社法の活用を検討しなくいいのか」という、疑問が浮かびます。この疑問に対しては「会社法は使いようによって、節税やコスト削減にも有効に機能するもの」と回答できます。この前提には、人件費は最大のコストという概念があります。会議で人が集うことや、会議のための開催案内を作成したり、議事録を作ったりすること、法令に定められた書類を作成しこれを届けることなど、大いに人的なコストがかかっています。会社法を理解した上で、会社の機関設計などを最適化することによって、これらの人件費コストや一部の税コストを軽減することができます。

会社法は、主に株式会社について規定しています。この株式会社とは一般的には、資本市場から広く資本家(投資家)を募集し多くの資金(資本金)を調達する事業方法を想定しています。形態はさまざまですが、誤解を恐れずに言うならば上場会社や上場を目指す会社を前提としている法律体系となっています。もちろん、上場する会社は全体の5%にも満たないわけで、会社法は従業員0というような極小の会社も対称にしています。しかし、会社法が想定する会社のスタンダードは、株主が資金を供与し、これを取締役が運用し、従業員を雇用しながら事業目的を推進することです。その上で、株主や取締役といった役割毎のルールや罰則などを規定しています。従って、株主が1-2名であったり、実質的な役員が1名だったり、従業員がいなかったりするのであれば、それにあわせた機関設計を行い登記すべきです。そうすることによって、会議の回数を減らせたり、役員改選の機関を延ばせたりします。コスト削減につながります。

1) 機関設計と法人格

会社法による会社の機関設計については、当コラム2回目の「会社法の施行でビジネスが混乱するって本当ですか?」で解説しています。ここで要約するならば、旧商法に比較して相当自由な機関設計が可能になりました。そのため、以前とは比較にならないほど、会社の目的や規模などに合わせた会社運営が可能になりました。

会社法では、法人の形態を株式会社と持分会社の2分類にした上で、持分会社の種類として合名会社と合資会社、合同会社の3区分としています。株式会社もあえて分類するならば、資本金額5億円以上の大会社とそれ以外の中小会社の2区分、またそれぞれにおいて全ての株式に上と制限をかけている株式譲渡制限会社とそれ以外の株式公開会社の2区分で、都合4つに区分されます。

その結果法人は、株式会社で4区分、持分会社で3区分の合計7種となります。経営者は、この7種から事業の目的に合わせて法人形態を選択することになります。株式会社を選択した場合は、その機関設計が重要な判断となります。しかし、その前に本当にその事業は「株式会社」という形態で良いのかという判断があります。ここでは、会社法における7種類を取り上げていますが、それ以外にも有限責任事業組合(LLP)や特定非営利活動法人(NPO)などもあります。これらも含めた検討と判断が必要です。

1-1) 日本版LLP(有限責任事業組合)

法務省が「会社法」を成立させた一方で、経済産業省は、「有限責任事業組合制度に関する研究会」を通じて日本版LLP(Limited Liability Partnership)を創設させました。会社法の中に、日本版LLC(Limited Liability Company、出資者全員有限責任の人的会社)がありながら、別の法律として日本版LLPが規定されていることに違和感を持つかもしれません。これは、LLPが「民法上の組合」のカテゴリーに入ることから、会社(法人格)ではないとの判断に起因しているようです。
LLPは、英米等において会計事務所や法律事務所、デザイン事務所、IT産業等で「組織運営が非常に自由な共同事業体」として幅広く活用されている制度です。日本はこれらを参考にし、組合出資者の有限責任を確保する民法組合の特例制度として立法したようです。

日本版LLPは、会社法の規定する法人と比較して次のような特徴を持っています。

  • 出資者全員の有限責任:出資者は出資金の範囲で責任を負う。
  • 内部自治の徹底:組織内部の取決めは自由行える。(株主総会や取締役会等を設ける必要は無い)
  • 柔軟な損益配分:組合員の事業貢献度に応じて、出資比率と異なる柔軟な損益分配を行うことが可能。
  • 構成員課税(パススルー課税):LLPには課税されず、その出資者(受益者)に直接課税される。

経産省が主導する日本版LLP制度と、新会社法による「合同会社(日本版LLC)」は、ほぼ同じ特徴を有する制度ですが、LLCは法人格を有することから、国税庁の見解として税務上の取扱いに差異が出てきます。
現行の法人税法では、「法人格を有する団体には法人課税を行う」という原則があります。この原則を変更しない限り、LLC(合同会社)に構成員課税(パススルー課税)が適用されません。何故なら、合同会社(日本版LLC)はあくまで商法上の会社であり、商法上の会社は全て法人格を有するからです。

日本版LLPは、現行税制でも構成員課税を行なっている「民法上の組合」(法人格を有さない)をベースとして、「有限責任事業組合」の法制化されたようです。ただ、日本版LLPには、租税回避防止のために一定の仕組みが組み込まれています。先ず、組合員の損益分配の割合は、総組合員の同意により別段の定めをした場合を除き、各組合員の出資の価額に応じて定めるものとし、本来自由であるべき損益の分配に一定の制限を課せられています。

また、出資者の共同事業への参加(業務執行の決定には、原則として総組合員の同意が必要)を義務付けています。これは、民法組合制度を利用した租税回避行為の典型例であるレバレッジド・リース(出資額を大きく上回る借金をして、航空機や船舶を購入し減価償却費を分配して、損益通算を行うことで節税効果をあげる)に類する利用を回避するための措置となっています。このようなケースでは、大多数の出資者は資金を出すだけで経営に参加していないことから、平成17年度の税制改正で、1)組合員所得に関する計算書の提出、2)出資額を超える組合損失は必要経費や損金に算入しないこととなっています。

しかし日本版LLPは、「総組合員の同意による別段の定めがあれば」自由な損益分配が可能であり、また、パススルー−課税も適用されることから、さまざまな事業形態の創業を経産省は期待しているようです。経産省では、日本版LLPを産業活性の一助とするためさまざまなLLP活用ケースを自省のWebサイト(http://www.meti.go.jp/)に掲載しています。経産省のWebサイトは、巨大な情報量のため簡単にはLLPに関する情報をゲットすることができないかもしれません。そんな時には、サイト内検索というブラウザの機能を活用するといいでしょう。

2)事業(法人)の形態や機関設計に連動するコスト

会社法が口語体としてわかり易くなったり、定款自治が拡大されたりしたといっても、経営上のメリットやダメージがなければ、会社法の研究や対応に関わる必要がありません。ここでは、会社法の変化(商法から会社法へ)に着目して経営課題の対応や採りうる企業戦略について考察します。

2-1) 登記に関するコスト

取締役と監査役は、登記事項です。登記事項とは、法務局に所定の手順に則って作成された書類に登記用の印紙を添えて提出し受理されることを言います。そのため書類作成や提出を司法書士に外部委託すると費用が発生します。これとは別に印紙代を必要とします。取締役と監査役には任期があり、重任であっても登記を必要とします。これを怠ると罰金が課せられます。会社法では、監査役を置かない設計もできます。また、取締役の任期を最長10年まで延ばすことができます。取締役の人数は、最低1名でも良いことになりました。コスト優先で、会社の形態や機関設計を行うのは愚考といえますが、コストも視野に入れた判断も必要です。

2-2)税に関するコスト

法人を含む事業者の税は、資本金の大きさや事業所の数、年間取引高(売上)などでおおむね決まります。つまり、法人の形態にはほとんど影響されません。しかし、資本金が1000万円と1001万円では、法人住民税の均等割に11万円[(2万円+5万円)−(5万円+13万円)]の差が出ます。これ以外にも、消費税の納付やLLPのパススルー課税の活用などの影響が考えられます。詳細は、お近くの税理士に相談ください。

2-3)コンプライアンス

法人は、法律で認められた社会的な人格です。そのため様々な法律が課せられています。その中のひとつに「決算公告義務」(会社法440条)があります。決算公告は、株式会社に課せられたルールですので、持分会社やLLPにはその義務はありません。決算公告を官報で行うと、最低でも5万円以上の費用が発生します。わずかなコストですが、判断材料にしたいですね。