
■IT投資減税の年度内廃止の決定
2003年にスタートしたIT投資促進税制(IT投資減税)が、2005年度末(2006年3月末日)で廃止されることが決まった。政府・与党(政府税制調査会、首相の諮問機関)があたかもIT投資減税の廃止を決めたとする報道もあるが、これは、期限切れとなる法案について、「延長不要」と答申したに過ぎない。元々が時限法案で2005年度末に期限切れとなるIT投資減税については「延長する必要はない」と2006年度の税制改正答申を小泉純一郎首相に提出した。
IT投資減税は、パソコンやファクシミリ、ソフトなどを購入した企業を対象とした減税処置で、取得価格に対する税額10%控除か特別償却50%を選択できる。2003年度から3年の時限措置のため、電子情報技術産業協会(JEITA)は「廃止になれば国内企業の国際競争力が低下する」として存続を要望していた。また日本経団連の奥田会長も、「日本のIT化はまだまだ遅れている」として期限を延長するよう求める発言を行っていた。しかし、政府税調は、研究開発促進税制と合わせ「時限措置の間に企業の研究開発や設備投資は総じて順調に増加した」として延長は不要と結論付ける答申だった。
■廃止は決定されたが終わったわけではない
IT投資減税は2005年度末(2006年3月末日)で廃止されるが、言い方を変えると、今年3月末決算までの会社は未だ使える減税処置ということだ。IT投資減税は、税引前利益がプラスの会社もしくは利益を出すことの可能な会社には、たいへん魅力的な税制処置といえる。
ここでは、IT投資減税の概要のみを解説する。
IT投資促進税制の対象者は「青色申告書を提出する法人又は個人(事業を行う者)」と極めて広い。 減税方法は、税額控除(10%)と特別償却(50%)を企業側の意思で自由に選択できる。また、資本金3億円未満の企業に限られるが、リース投資も税額控除(10%)ができる。
税金の話しは、少しばかり難解に思えるが、中小企業においては、年間で140万円以上のIT機器投資をするか、70万円以上のソフト投資をした場合には、減税の対象となる。これが、IT投資減税の骨格だ。
減税の活用方法には、税額控除と特別減税がある。税額控除と特別減税の何れかを採るのかは、会社側の自由な意思で選択できる。どちらを選択したほうが有利なのかは、会社の方針や経営状況によって異なり、減税額(IT投資額)が大きいようであれば税理士等の専門家に相談することを薦めたい。
■IT減税の廃止の背景
IT投資減税が延長されなかった理由のひとつに「IT減税は役割を終えた」という見方がある。これは減税の対象をパソコンやファクシミリなど多くのIT機器に広げたこととで、「ITのインフラ整備は大体終った」という見解と思われる。このことは、IT投資減税に変わる新しい税制施策が、インターネット活用やパソコンの情報セキュリティー対策向かっていることからも推察できる。
ハッカーなどによる不正アクセスや、パソコンからの情報漏洩事件が続出していることから、企業の情報管理強化を促進する狙いが経産省等にあるようだ。代替措置となる投資減税は、企業の国際競争力向上を目的に不正アクセスやスパイウエア、情報漏れを防ぐ目的でデータベース管理ソフトなどを購入した場合、購入額の10%程度を法人税から控除する案を検討しているようだ。
政府の新減税施策が、中小企業のインターネット活用や情報セキュリティーを支援しようとするものであり、このことには大いに賛同したい。しかし、だからと言って「中小企業のITインフラ整備が終わった」とする見解に対しては、にわかに賛同しがたい。中小企業のITの普及状況に係る統計情報を見るたびに、現実との乖離の大きさを感じる。中小企業、取分け従業員10人以下程度の小企業のIT活用促進(支援)は、まだまだ誰かが続けなければならないものと思う。
■IT投資減税のケーススタディ
・資本金1,000万円の会社が、減税対象資産を400万円投資した
・IT投資減税適用前の、利益(課税所得)が600万円
■税額控除を選択したときの税効果
【税額控除額】 400万円(投資額)×10%=40万円
【適用前法人税額】 600万円×22%(ケースの法人税率)=132万円
【税額控除限度額】 132万円(法人税額)×20%=26.4万円
◆税額控除限度額の判定(繰越額の計算)
【税額控除限度額の判定】税額控除(40万円)>控除限度額(26.4万円)
【次年度繰越額】 40万円−26.4万円=13.6万円 (次年度に繰り越し)
◆納付法人税額の計算と減税効果
【納付法人税額】 132万円(適用前税額)−26.4万円(当期控除額)=105.6万円
【当年の減税効果額】 26.4万円(※1)
■特別償却を選択したときの税効果
【特別償却額】 400万円(投資額)×50%=200万円
【課税所得】 600万円(減税適用課税所得)−200万円(特別償却)=400万円
◆納付法人税額の計算と減税効果
【特別償却適用前法人税】600万円×22%(ケースの法人税率)=132万円
【特別償却適用後法人税】400万円×22%(ケースの法人税率)= 88万円
【当年の減税効果額】 132万円−88万円=44万円(※1)
■税額控除と特別償却の税効果比較
・上記のケースでは、
◆税額控除の減税効果・・・・・・・26.4万円
◆特別償却の減税効果・・・・・・・44万円 (差額17.6万円)
となり、特別償却が有利に見えますが、次に示すとおり減価償却(特別償却を含む)の仕組みを踏まえた経営判断も必要になる。
- 特別償却は、通常の減価償却(普通償却)を前倒しする仕組み
- 従って、特別償却を適用した場合は、初年度負担は 減少するが、翌年以降は、普通償却がない分だけ、税負担が増加することになる。言い換えると、特別償却をしてもしなくても、何れ減価償却費は必ず損金算入される。長期的視野に立つと、「税額控除」を選択した方が税効果は、有利になることが多い。これに対し、税額控除は、翌年以降において普通償却の損金算入ができるというメリットがある。
★実際の税務判断は、顧問会計事務所などの専門家と相談することをお勧めします
(※1)法人税以外の事業税や市民税はどうなるのか
- 法人は、国税としての法人税のほかに、事業税や都道府県民税などの地方税を負担する
- 都道府県民税は、法人税額を基準に課税計算し、税額控除と特別償却の何れも連動して減額となる
- 事業税は、課税所得金額を基準に課税計算し、特別償却を用いたときにだけ減額される
■リースの場合は、どうなるのか
・上記ケースを元に、リース総額が500万円となった場合を想定する
【税額控除の算出】 500万円(リース総額)×60%×10%(控除率)=30万円
【控除限度額】 600万円×22%(ケースの法人税率)×20%(限度率)=22万円
【税額控除限度額の判定】 税額控除(30万円)>控除限度額(22万円)
【次年度繰越額】 36万円−22万円=8万円 (次年度に繰り越し)
【納付法人税額】 132万円(適用前税額)−22万円(当期控除額)=110万円
★リース投資が減税対象となったことは、多分初めてのこと。大いに活用すべし、と言いたいが、
リース融資を含む金融情勢が中小企業に対して厳しいものとなっている。
金融機関から見て、融資可能な財務体質にすることが先決。
■140万円未満のIT投資でも減税の道はある
IT投資促進税制では、140万円未満のIT投資は対象外となるが、資本金1億円以下の法人を対象にした
少額資産の損金算入制度(中小企業支援税制)も施行される。
この税制は、IT投資減税とは逆に、少額資産を対象にしている。
30万円未満の減価償却資産(ITに限らない)を投資年度に全額を損金算入(即時償却)できる。
適用期限は、15年4月1日〜18年3月31日であり、この間に年間利益が見込めるのならば、
積極的に利用して、企業の財務体質を強化したい。
■赤字の場合は、IT投資減税を使えないのか
減税とは、課税に対するものであることから、赤字企業は対象外と考えるべきだ。
しかし、赤字の場合は絶対適用できないわけでもない。
IT投資減税を適用しても良いが、意味がないことが多い。やや難解な説明になるが、考え方を示す。
◆先ず、減価償却の特別償却・・・
- 特別償却は、制度上は可能
- この場合、当該会社は、赤字ですので、元々法人税は0円
- これに加えて、経費(減価償却費)を増やすので、赤字が更に増加する
- 従って、赤字の上に特別償却も行うことを選択する会社は、ないといって良い
※赤字は、繰り越せるが、意味のない選択だ
◆税額控除・・・
翌年の利益が見込めるのであれば、税額控除を適用した上で、
今期は税額控除が0円として、来期に全額を繰り越す
来期、利益が出たなら、この繰越を適用し、税額控除を受ける
以上のことから、IT投資減税の恩恵を受けるためには、税引前利益を出すことが前提となっている。利益を出す経営構造に改革し、積極的にIT投資減税を活用することが王道である。IT投資減税を活用することによって、通常の年と比較して、内部留保額が多くなり、資本の充実を図ることができる。資本の充実こそが、多くの中小企業にとって掲げるべき目標のひとつだろう。
※平成18年税制改正により、4月1日以降も減税施策が継続する場合があります。
|