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エグゼクティブ対談 【第34回】小菅 正夫氏(旭川市旭山動物園 園長)

危機から出発し、原点を深く追究した旭山動物園の奇跡(3/4)

“自然の姿”という原点を見失わない

眞柄旭山動物園はまだ進化の途中ということですが、将来の姿はどう描かれているのでしょうか。

小菅ひと言でいえば、動物が動物らしく生きている場所です。いま取り組んでいる大きなテーマは「共生」です。「自然に生きる」と「共に生きる」は本来ひとつのことだと思います。

 たとえば「あざらし館」では、同じ空間にアザラシがいて、水鳥やオジロワシがいて、水中には魚たちがいます。食べる・食べられるという関係にありながら、それらが共に生きていくというのが自然の姿です。先ほどのクモザルは、世界最大のネズミといわれるカピバラと一緒です。

 従来の動物園ではキリンはキリン、ダチョウはダチョウとそれぞれ種ごとに区別して飼育してきました。共生の観点からいえば、あれは間違った姿を提示しています。

 どんな生物も、他種とかかわりあって生きています。例外は人間ぐらいでしょう。人間だけが他の動物と離れて暮らすから、たまに自分たちの生活圏にシカが迷い込んだりすると大騒ぎになる。自然界からみたら当たり前のことが問題になるわけです。

 どんな生き物も共に生きている。その姿を伝えるのも動物園の役目です。ゾウとキリンのように一緒にできない組み合わせもありますが、キリン、カバ、シマウマ、ダチョウは一緒に暮らせます。動物に無理させない、自然な姿があるのです。

眞柄そういう光景は他の動物園でみたことがありません。面白いですね。「共生」のほかにどのようなテーマがありますか?

小菅動物が本来の姿で暮らすという、それぞれの生活文化を伝えていくことは大切です。

 たとえば、旭山動物園では06年4月にゾウが死にました。そのとき多くの人から「次のゾウはいつ来るんですか?」と質問されたので、「ゾウはもう飼いません」と答えたんです。そうしたら驚かれました。動物園にはゾウがいて当たり前というイメージがありますからね。

 しかし、これまでのようなゾウの飼い方は間違いです。ゾウの生活スタイルに合わせた飼い方には、ものすごく広いスペースを確保しなくてはいけません。ゾウは1頭で飼っても繁殖できませんし、オスとメスの1頭ずつでも自然な姿ではありません。ゾウはもともと夫婦で暮らす動物ではないからです。

 野生のゾウを観察すると、さまざまな年齢のメスが集まった群れがあって、そのまわりに少し距離をおいてオスが暮らしています。オスは群れに入りません。それがゾウたちの自然な生活です。この生活ができるようなスペースがないかぎり、ゾウは飼うことはできません。

 キリン、カバ、シマウマ、ダチョウなどを共生展示し、広いスペースを確保したところでゾウ本来の暮らしができるようにしたいと考えています。「アフリカ生態園」をつくり、そのなかに「ゾウの大地」をつくる。そうなるといずれはメスの群れで育つ子ゾウの姿がみられるでしょう。

眞柄ゾウたちの生活文化を再現する環境が整うまでは飼わないと。

小菅反対に「それなら、ゾウはもう飼わないほうがいいでしょう」という意見もあります。しかしそれは、ゾウをみたことがある大人の意見です。これから生まれてくる子どもたちにも、ゾウはみせてあげたい。近隣に他の動物園がない旭川の子どもたちは、とくにそうです。

 いくら映像や写真でみられるといっても、あの大きな体が目の前にある迫力にはとうてい及びません。あの量感からくる衝撃は、みなさん子どものときに経験したでしょう。私は父親に肩車されてみたゾウの大きさをいまだに憶えていますよ。

 地球の歴史は7トンもある巨体をつくりだした、という感動は小さなときにぜひ味わってほしいですね。

眞柄エサを求めて活動するような行動展示も、動物本来の姿ですね。

小菅行動展示では、動物たちの自然な発意を大切にしています。人間が無理にやらせることはありません。どの行動も生活のなかでふとした拍子にやることばかりです。飼育係には、その瞬間を見逃さない眼が必要ということです。

 たとえば、オランウータンがエサをとる行動もその1つです。昔の狭い檻は周囲に樹が植えてあって、オランウータンが檻から手を伸ばして葉っぱをちぎって食べていたんですね。その行動を飼育係がじっと観察していました。手の届く範囲は腕を伸ばして葉っぱをとります。その範囲をとりつくしたら、こんどは木の枝を使って、引き寄せてから葉っぱをとるんですね。しかも、鉤状になる枝だけ残して、よけいな枝は取り除いてある。

 「そこまで頭をつかってエサをとるのか」と気づいた飼育係は、檻の外にエサを置いて、オランウータンがどうやってとるのだろうと実験をはじめました。そうしたら枝を使ったり、自分が敷いていた毛布を使ったり、いろいろと工夫する。それはすべてオランウータン自身の自然な発意です。そこを活用することで、オランウータンの知恵を知っていただける展示ができるわけです。

眞柄旭山動物園では動物にエサを与える時間を「モグモグタイム」と呼んでイベント化し、来場者にもたいへんな人気ですね。ふだんの観察から本能的な行動をとらえ、うまく引き出しています。

小菅どれも自然な行動です。ある状況をつくったあとは、動物たちの発意にまかせる。クマは訓練すれば自転車乗りもできますが、それは動物園の行動展示ではありません。

 生態の解説は、ショーとは違います。その区別を明確にしないと、旭山動物園の基本コンセプトが台無しになるでしょう。おもしろければ何でもやる、来場者が増えれば何でもやるというものではありません。

眞柄その線引きを越えないように、小菅園長が細かくチェックされているのですか。

小菅口うるさく指示することはありません。私がいわなくても、スタッフたちはみんなわかっています。私が「どうしてそんなこと考えるの?」と思うようなことはまずありません。そういうチームで運営していることが大きいですね。

眞柄小菅園長も現場の叩き上げですし、共通のベースがしっかりできているからでしょうね。チーム内でミッションがぶれない。

小菅この仕事は何のためにあるのか。お客さまあっての動物園といっても、お客さまをただ喜ばせればいい、というものではない。そこを間違えないことです。動物本来の姿を伝える活動という意識は強いですよ。

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対談目次

1)研究一筋から動物園運営へ目をむける

2)動物園は人間にとって絶対に必要か?

3)“自然の姿”という原点を見失わない

4)500年後に評価される仕事

小菅 正夫氏 ゲスト:小菅 正夫氏
旭川市旭山動物園
園長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

プロフィール

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