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エグゼクティブ対談 【第34回】小菅 正夫氏(旭川市旭山動物園 園長)

危機から出発し、原点を深く追究した旭山動物園の奇跡(2/4)

動物園は人間にとって絶対に必要か?

眞柄博士号までめざしていた方が、来場者数やコストなどを気にかける経営的な立場になるには自己変革も求められますね。そのまま研究の道に進みたいという迷いはなかったでしょうか。

小菅迷いはありませんでした。そのような運営状況にかかわらず、就職してからずっと自由な研究をやらせてもらったと気づいたら、感謝の気持ちが大きかったですね。恩返しの意味でも、頑張ろうと。

 この小さい動物園で、私はきっちり研究をやらせてもらいました。本州の大型動物園で働いている人に話しても、「よくそれだけ好き勝手にやらせてもらえるね」とたびたび言われました。

 園長となった現在も、現場のスタッフたちには同じ思いがあります。どんどん研究してもらいたい。「自由な研究をやらせてらえてありがたい」という気持ちは大きなモチベーションですよ。

眞柄しかも旭山動物園は、研究の成果が実際の飼育や施設にどんどん活かされますからね。

小菅博士号は60歳になって引退してからでもいい、と思いました。動物園がなくなる、つまり自分の立っている場所がなくなるということのほうがはるかに重大です。そうなれば、研究も何もできなくなりますから。

 もし、旭山動物園が世の中に「絶対に必要なもの」であれば、なくなるはずはありません。しかし、「動物園は人間にとって絶対に必要か?」と問われたら、正直なところぐらつきます。

眞柄そこは確固たる信念が必要ですね。私も子どもが生まれてから動物園に連れていきましたが、大型遊園地やテーマパークができたあとは、どうしても古めかしいという印象がありました。

 いちばん気になったのは、動物たちに元気がないことです。あまり動きまわらないし、目が活き活きしていない。

 旭山動物園ではどの動物も元気ですね。エサをとるときの動きなど実に活発で、目も活き活きしている。最初のインプレッションが明らかに違うし、かつての動物園はいったい何だったのかと不思議な気分になりました。

小菅動物がエサをとる活動などをご覧いただくのが「行動展示」ですが、これには飼育係の体験や研究が随所に活かされています。

 飼育係はいつも動物たちと面とむかって対峙しているわけです。そのときに受ける迫力はすごいですよ。あの存在感。そこが伝えられないと、眞柄さんのおっしゃるように、ただ動物がいるだけになる。飼育係は、動物たちの本当の顔を知っているわけです。

眞柄旭山動物園では、動物が人間と対等の位置にある、あるいはそれ以上という感じがしますね。

小菅昔の動物園は「人間が見物してまわるとき、動物がどこにいてほしいか」という発想でつくられていました。私たちは「動物がどこにいたいか、何をしたいか」から発想します。たとえばホッキョクグマが、この限られたスペースで何をしたいのか。よく考えて、彼らの活動を可能にする施設をつくっているわけです。

眞柄チンパンジーの赤ちゃんがいる屋内施設で、私はそれを感じました。ロープにぶら下がって遊ぶチンパンジーが私たちの頭上をひゅっと通るんですね。彼らの生活圏にわれわれのほうが入り込んだという感覚でした。

小菅クモザルの施設には、樹の枝を模した金属製の遊び場があります。見物している人の頭上にあって、サルがオシッコすると下にいる人にかかるぐらいです。

 ところがお客さまのほうは、動物園にいるのだからまさかそんなことはあるまい、という安心感があります。動物園は人間のためにある施設だという意識が100パーセントなくならない。頭の真上にクモザルがいるのに、注意をそらして別のところへ目をむけたりすると、オシッコをかけられますよ。

 動物は身のまわりにいつでも意識を拡げて注意しています。視線をむけていなくても、実はそこに意識を集中していることがある。人間だけが一点に視線を集中し、身のまわりを意識できなくなります。

 いつも動物を相手にしていると、動物と同じ感覚になるんですね。サルの檻に入って一頭のサルを追いかけているときも、つねにほかのサルにも注意しています。まわりの動きが把握できないと危険ですからね。動物とつき合っていると、いろんなことが学べますよ。

眞柄動物を眺めるだけではなく、彼らの生活圏に入り、われわれ人間が忘れている感覚を取り戻すということでしょうか。従来の動物園とは位置づけがまるで違います。

小菅みなさんに「なるほど、これが動物の世界か」と感心してもらえるといいのですが、実際にオシッコをかけられたお客さんは怒りますね。「なんで、こんな頭の上までサルが来てるんだよ!」って。そのレベルの危機管理まで動物園に求められると、動物と人間を遠ざけていく方向に進むしかありません。

眞柄オランウータンが2本の塔を行き来する施設にも、排泄物に注意するように看板がありますね。

小菅あそこで浴びた人はまだいません(笑)。「空中散歩」の設備は16メートルの高さがありますから、落ちてきても「あぶない!」とよけられます。クモザルの遊び場は地上5メートルですから、落ちてきてからよけるのは無理ですね。

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対談目次

1)研究一筋から動物園運営へ目をむける

2)動物園は人間にとって絶対に必要か?

3)“自然の姿”という原点を見失わない

4)500年後に評価される仕事

小菅 正夫氏 ゲスト:小菅 正夫氏
旭川市旭山動物園
園長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

プロフィール

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