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経営を語る

エグゼクティブ対談 【第32回】潮田 資勝
(国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 学長)

社会ニーズをとらえた大学院教育への試み(3/5)

実社会で役立つプラクティカルな学問を重視

眞柄眞柄 JAISTでは新世代教育にむけて、08年度から「新教育プラン」の導入が予定されています。JAISTのWebサイトを拝見すると、そのポイントとして次の3つが掲げられています。
 @ 学生のキャリア目標の実現を支援します。
 A 学生の意欲や経験、能力等に対応します。
 B 幅広い専門知識、高度な応用力、確かな実践力を養成します。
 第1に学生のキャリアパスを意識されていますね。拝見してたいへんユニークなアプローチだと思いました。

潮田これまで日本の大学では、学生を訓練するというスタンスではなく、教授たちが自分に教えられることを自由にばらまくようなところがありました。私立大学は若干違うかもしれませんが、「研究大学」と呼ばれた旧帝大系はそれが顕著でした。JAIST新教育プランは、学生を本当に鍛えるところに重点を置いています。

 JAISTには「世界最高水準の豊かな学問的環境を創出し、その中で次代の科学技術創造の指導的役割を担う人材を組織的に育成することによって、世界的に最高水準の高等教育研究機関として文明の発展に貢献する」という基本理念があります。

 この理念を少し噛み砕いて、学生にも理解されやすいように示したのが「JAIST新教育プラン」です。つまり、私たちの理念と学生の希望をつなぐインタフェースのようなものです。

眞柄私が興味深かったのは、「社会的ニーズに対応した実践的授業科目」という項目にプロジェクト・マネジメントがあることです。私どものIT業界で近年よくいわれるのが「プログラマーはいるが、プロジェクト・マネジメントができる人材がいない」ということです。人材不足で多くの案件が受注できずにいるのは各社の深刻な問題です。まさしくいまの社会ニーズに対応したカリキュラムですね。

潮田JAISTのような新しい大学には、さまざまな学生たちが集まってきます。彼らのモチベーションは何かといえば、第1は良い就職先が見つかることです。「自分は将来、学者の道に進むんだ」と考えている学生は数パーセントではないでしょうか。

 しかし日本の大学院教育は、教授たちが自分のクローンをつくるように進めてきました。学生や企業が大学院に期待することを考えると、実に無駄です。

 新教育プランでは、各学生のキャリア目標に対応できように5つの教育プログラムを用意しています。そのなかで、よりプラクティカルな知識やスキルを身につけてもらおうと、「タイプE」というキャリア目標をつくりました。タイプEの「E」はエンジニアリングのことで、「企業等で最先端の研究開発をリードし、マネジメントできる高度な専門技術者」を指しています。

 卒業後は企業に入り、いずれは自分でプロジェクトを立ち上げ、マネジメントできるように訓練しておきましょうというプログラムです。

 例えば、企業のなかで研究をどう進めていくか、その成果をどう事業化していくか、どうやって人を動かすか……実社会に役立つプラクティカルな知識やノウハウを身につけた人材を送り出す。いわば、非学者的人材です。こちらのほうが実際はマジョリティですから。

 ただ1つ重要なことは、最もプラクティカルな知識は、身につけたとたんに陳腐化してしまうことです。大学院で研究したことも入社2〜3年もすれば、そのパラダイムが使えなくなることが多い。だからこそ、基礎となる理論をしっかり勉強しておく必要があるのです。

眞柄プラクティカルな側面を重視するのは、従来からある大学院のイメージからは想像できないアプローチです。これまでは社会的ニーズから少し距離を置いているようにみえました。

潮田日本の大学院が社会ニーズと無関係でいられたのは、社会から干渉されずに放っておかれたせいでしょう。企業から「大学院出のドクターは採用しても使いものにならん」と批判されることはあっても、企業が大学院に変革を望んだことはほとんどありません。私は東北大学で電子工学を教えていたので、大学院に対する企業の目線はよく知っています。

眞柄企業ではドクターよりも、マスターのほうが使いやすいといわれますね。研究の基礎はできているし、会社の指示にも素直に従うと。

潮田日本企業でドクターが使いづらい理由は2つあります。

 1つは大学院とドクター修了生の側の問題で、研究室という特殊な環境に長期間いたこと。たいてい大学4年から教授の研究室に入り、学者然とした雰囲気のなかで6年間も過ごします。そのうち、自分が研究したこと以外はやりたくないと考える人間ができあがってしまう。

 もう1つは企業側の問題で、研究開発の現場にドクターを持つマネジャーが少ないこと。自分がドクターでなければ、自分より研究歴が長い部下を使いこなせません。もちろん、学歴はなくても高い技術力とマネジメント能力があれば良いでしょうが、実際は難しいところです。博士号を持つ人がいるにしても、大学院で研究したのでなく、就職してから取得した人が多いですね。いわゆる「論博」です。

眞柄仕事の研究成果を論文にまとめ、自分の出身大学などから博士号をもらうかたちですね。それでは、大学院出のドクターは使いにくいと。

潮田企業内にも、研究者として実績があり、見識が高く、技術を広範囲に見渡せる……そのようなマネジャーがもっと増えてほしいと思います。この前提に立って、仕事で実践的に使える学問を身につけるのが「タイプE」のカリキュラムです。

 それに企業側だけでなく、学生のほうにも目的意識を強く持ってもらいたいですね。私がよく話すのは「漫然とJAISTに入学してくるな」ということです。卒業後に何になるのか、どんな職業に就きたいのか、自分でしっかり考えてこいと。

 もちろん大学院側も、その希望をかなえるために教えるという目的の明確さが大切です。

眞柄JAISTのような大学院大学を運営するうえで、一番の課題は何でしょうか。

潮田最大の課題は、良い学生を集めることです。その意味で地方都市にあり、周囲に何もない環境はどうもプラスに働きません。いまの学生は都会にある大学に通いたがり、自然環境に恵まれているから勉強に専念できる、とは考えないですね。

 教育・研究評議会と経営協議会でも、どうすれば良い学生を呼び込めるかと話し合いますが、そこで一番の問題となるのは、各大学の大学院で良い学生を囲い込んでしまうことです。

 JAISTの構想ができた80年代は、全国的に大学院が不足していました。高度な研究を積んだエンジニアをたくさん世に出さないと、アメリカはじめ外国との競争に勝てない、といわれていたのです。

 ところが、90年代に入ってから、国立大学では旧帝国大学を中心に、大学院重点化が進みました。教育研究を従来の学部中心から大学院中心に移そうという動きです。

 その結果、大学院に入学を希望する人数より、大学院の定員のほうが多くなってしまった。各大学は定員を充足したいから、学部生たちをそのまま自分たちの大学院へ進ませようとします。囲い込みですね。これでJAISを志願してくる学生数は実際に減少しました。

 昔から日本の大学では、最も優秀な学生を研究室に残して、教授は自分の後継者に育てようとします。優秀な人材は大学に残り、他の大学院に入るのはそれほど優秀ではない学生だというイメージがありました。

 アメリカの大学は逆です。たとえばカリフォルニア大学なら、優秀な学生が教授から「東部の大学院へ行ってみろ」といわれるのが普通です。

眞柄JAISTに入学する学生たちの出身地はどのようになっているでしょうか。

潮田北陸地方の出身者が25%、関東25%、関西15%前後といった割合です。海外からの留学生は20%です。留学生は中国、ベトナムが多いですね。

眞柄ベトナムはいま教育にかなり意欲的だと聞きますが。

潮田そのとおりです。しかもベトナム人は、日本人との相性がとても良いという印象があります。JAISTはハノイのベトナム国家大学内に事務所を持っていて、インターネットでテレビ会議ができるシステムもあります。

 デュアル大学院という取り組みもはじまっています。ベトナムの学生はマスター1年目をハノイで学び、2年目をJAISTで学ぶというしくみです。日本で2年目を修めた学生にはJAISTの単位を与え、ベトナムに戻ってもそれは認められます。学生はベトナム国家大学とJAISTの両方でマスターを取得できることになっています。

眞柄ベトナムは日本の勤勉さをお手本にしているとよく聞きますね。

潮田そのようですが、最近の若い日本人をお手本にされると困りますね。むしろ私の考え方は逆で、日本の学生にベトナム人の勤勉さを学んでもらいたいと思っていますよ。

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対談目次

1)アメリカでの豊富な経験を活かし、大学改革に取り組む

2)米ソ冷戦下のアメリカで物理学を志す

3)実社会で役立つプラクティカルな学問を重視

4)ドクターがミリオネアになるアメリカの社会

5)人生はすべて実験、マネジメントもその1つ

潮田 資勝氏 ゲスト:潮田 資勝氏
国立大学法人
北陸先端科学技術大学院大学 学長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

プロフィール

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