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眞柄潮田学長は物理学の世界ではたいへん著名ですが、本日は北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の学長として、大学設立時のお話から、現在取り組まれている新世代教育など裏側のご苦労についてお聞きしたいと考えております。 著名な物理学者ということで少し緊張していましたが、最初のご挨拶でたいへんフランクに話しかけていただき内心ホッといたしました。さすがに長くアメリカに住んでおられた方だという印象を持ちました。
潮田日本で物理学者というと、醸しだす空気が一般の人と違うというイメージがありますからね。私からみても、ちょっと近寄りがたい方はいますよ(笑)。 眞柄潮田学長は高校卒業と同時にダートマス大学に留学し、以来25年間をアメリカで過ごされたとうかがっています。大学卒業後にペンシルバニア大でドクターをとられたあと、カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)で教職に就かれています。 85年に日本に戻り、東北大学電気通信研究所とJAISTで教授を務められ、04年にJAISTの学長に就任されました。アメリカでは学生と教授を経験され、日本では国立大学の教授と学長を経験されたわけです。 このようなご経験を持つ潮田学長からみて、日米で大学運営のシステムを比較すると一番の違いはどこにあるのでしょうか。 潮田日本の国立大学は、ひと言でいえば中央集権型の“律令国家”の機関です。「文部科学省に箸の上げ下げまで指図される」といわれましたが、それだけ独立性に乏しかったわけです。 04年4月に国立大学が法人化されてからは独立性が多少は出てきました。ただ、おもしろいことにいまは事務職員や教授のほうが、自分たちで新しい取り組みをはじめるのをためらう傾向が見られることです。 私が「こんなことをやってみたらどうだろう」と提案すると、事務職員からは「東大でやっているか尋ねてみます」とか「前例がないか調べてみます」とかいう返事がほとんどです。「このアイディアは良いですね、ぜひやりましょう」と自分で価値判断して積極的に取り組む姿勢はあまりみられません。 新しい提案には、まず「よそでやっているか」を考える。2番目に「前例があるか」、3番目に「ルールに則っているか」、そして最後が「やったほうがよいか」です(笑)。 眞柄大学にかぎらず、日本ではそういった横並び意識や前例主義は根強いですね。 潮田ですから、逆の順序で考えてくれといつも頼んでいます。まずは「やったほうがよいことなのか、わるいことなのか」を考える。次に「ルールの範囲内でやれることなのかどうか」を考える。もし取り組む価値があるのにルールに引っかかるなら、「ルールをどう変えたらよいか」を考える。他校の動向や前例を調べるのはそのあとです。 眞柄潮田学長は90年の設立時からJAISTにかかわってこられたそうですが、学内の状況をどのようにご覧になっていますか。 潮田研究機関として、教授陣は粒ぞろいだと思います。大部分が理工系ですから、学長としてもマネジメントがやりやすい面があります。サイエンスという同じ畑の人間が集まっているという意味で。 JAISTをつくったとき、文科省にはかなり大きなアンビションがありました。その根底には、旧帝大のような伝統的な大学は改革が難しい、それなら新しい大学をつくろうという考え方があったと思います。 大きく2つの面で新しい試みがありました。 1つは教育スタイルです。基本的にはスクーリングで、アメリカの大学院に近くなっています。 2つめは教授会にメスを入れたことです。従来の国立大学が変われない最大の理由は、教授会が存在し、学内のことは何でも自分たちで決めるというしくみだったことです。教授会は、教員という労働者の集まりであると同時に、学校運営というマネジメントの部分も担っていました。企業でいうなら、社員が自分たちで組織運営や就業規則を決めていたのと同じです。それが「大学の自治」と呼ばれてきたものですが、これでは新しいことはなかなか決まりません。
眞柄教授会は同時に2つの顔を持っていたと。 潮田そこが曖昧でハッキリしていませんでした。法人化以後は学長主導で運営されることになりましたが、JAISTでは設立時からそのしくみができていました。法人化後は役員と教職員を分け、教職員は会社員と同じように被雇用者という立場なのです。 学長のほうも、以前は学長選挙で選ばれていました。企業でいえば、社員が選挙によって社長を選ぶのと同じです。いまは学長選挙をなくした代わりに、意向調査というのを実施しています。いきなり選挙をなくすと反発が大きいですから、教職員たちの意見にも耳を傾けるというしくみです。 学部長や研究科長と呼ばれるポストも、伝統的な大学では学部内選挙で決めていました。JAISTでは以前から学長が指名しています。 眞柄命令系統がトップダウンで、ガバナンスが明確。その点では、潮田学長のアメリカでの経験が活かされますね。 潮田「カリフォルニア大学ではどうやっていたかな」と考えて、うまく機能していたしくみは取り入れています。 眞柄教授の評価という点ではどうでしょうか。私どもの会社では、部下が上司を評価し、その結果は上司の1つ上のマネジャーに報告されるしくみがあります。私がハワイ大学に通っていたときも、学生が教授を評価するしくみがありました。教授の評価にはどのような視点があるのでしょうか。 潮田カリフォルニア大学の場合は、4つの評価軸がありました。教育、研究、学内運営、そして学外活動を同等に評価するということになっていましたが、実際には研究が重視されるなど、運用面でいくぶん差はついていたと思います。 JAISTでも同じような評価制度を試みているところです。 ただアメリカの場合は、定期昇給がないことが前提です。何もしなければ給料は横ばい。日本の場合は定期昇給があるため、評価の反映が目立たなくなります。私が「定期昇給をやめようか」と言い出したら、「そんなこと考えるだけでも怖ろしい」と反対されましたよ(笑)。 眞柄お聞きしていると、潮田学長のお考えには納得できる点が多々あります。企業に勤めている方には理解されるのではないでしょうか。 潮田それだけ、アメリカ流のシステムが日本に浸透してきたということでしょう。人事システムでも、管理運営システムでも。ただ、日本ではすぐ感情論に走ってしまうのが難しいところです。 眞柄ルールがまだ曖昧だから、感情論に流れるのではないでしょうか。 潮田お互いにクールに評価する土壌がないのは確かです。黙っていても昇級していたところへ、急に評価の視点を取り入れたらナーバスになるのも無理ないでしょう。 |
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