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エグゼクティブ対談 【第30回】セルジオ越後
(日光神戸アイスバックス シニアディレクター)

人とのつながりが、仕事と人生に広がりをもたらす(5/5)

過保護すぎる日本では、強いスポーツ選手は育たない

眞柄ところで、今も「サッカー教室」という言葉が出ましたが、セルジオさんは長い間、少年サッカーに携わっておられますね。ブラジルをはじめとした海外と、日本の教育の違いを肌で感じておられると思いますが。

セルジオ「さわやかサッカー教室」(アクエリアス・サッカークリニック)で全国を回ったのをはじめとして、もう50万人以上の少年にサッカーを教えてきました。そこで感じるのは、日本の物事の教え方は、順番がまったく逆だということです。

  たとえば、日本人が日本語をどういう順番で覚えるかというと、最初から本で「あいうえお」を学ぶわけではありません。家や地域で大人たちと接しながら言葉を覚え、ある程度できるようになってから「あいうえお」を習うわけです。まだ何も話せない子に「あいうえお」を説明して、理解させるなんて無理なことです。

 スポーツも同じです。最初は大人と一緒に遊ぶ中で基本的な動作を覚え、それがうまくできるようになってから本格的な練習や、理屈の勉強をはじめるのが自然なのです。ところが日本は違います。話せない子どもに読み書き――それも漢字を教えるように、スポーツでもいきなり高度な練習をやらせてしまう。それでいて、できない子どもはきつく叱る。これで、子どもたちがうまくなるはずがありません。

 日本では「うまくなるために練習する」のが常識ですが、ブラジルでは「うまくなってから練習する」わけです。日本人には理解しにくいかもしれませんが、そのほうが自然なんですよ。

 だから少年サッカーの時には、まず最初に私がやって見せます。文字よりも音よりも、絵のほうがずっと情報量が多いですよね。子どもたちも、活字は読みたがらないのに、マンガやテレビは大好きです。スポーツの場合、大人がやって見せるというのが“絵”に当たります。

 また、職人芸でもそうですが、技術は教えるものではなくて盗むものだといいますね。大人と一緒にいれば、子どもは勝手に盗みます。サッカー教室でも、子どもたちは私に「教えて」とはいいません。「セルジオさん、もう1回見せて」といって一生懸命に盗もうとしていますよ。私がやるところを、それはもう必死で見ていて、「もっとゆっくりやって」といったりして。

 ところが日本の場合、一般的にはこうして技を見せてくれる大人がいません。学校の部活にしても、ほとんど生徒同士だけでやっていますから、盗みようがないんです。ブラジルでは、街角の草サッカーが交流の場になっていますが、そうした機会のない日本では、まず最初の基礎の部分を磨くことができません。

 それでいて、「いきなりうまくなる方法があるんじゃないか」と勘違いしているところがありますから――。

眞柄なるほど。それは意味深い指摘ですね。当たり前の手順を踏まずに、いきなり応用に取り組もうとして失敗するようなケースは、社会人でもたくさんありますから。

セルジオもうひとつ、日本では子どもに対して、ちょっと過保護すぎるところがあります。スポーツにケガはつきものです。それなのに、ちょっとでも血が出ると、大人たちが大騒ぎする。

 たとえばサッカーの試合中、飛んできたボールがベンチにいる子に当たって鼻血が出たとしますね。すると大人たちが何人も集まってきて、「大丈夫か?」と声をかけたり、ティッシュペーパーをたくさん持ってきて血をぬぐおうとしたり、挙げ句の果てはベンチから遠ざけようとしてしまう。

 でも、ちょっと待ってほしいです。試合中に飛んできたボールでケガをするのは、その子がよそ見をしていたからでしょう。ボールに当たったくらいで大騒ぎしていたら、試合に出ることもできませんよ。

 それくらい、当の本人もわかっているはずです。試合に出れば、フリーキックの時に「壁になれ」と言われます。鼻血くらいで騒いでいたらサッカーなんてやっていられないし、第一に、子どもたちが逞しくなりません。

 サッカーに限らず、日本の選手はボディコンタクトに弱いといわれますが、原因はその辺にあるのかもしれません。だから私は、子どもの時にアイスホッケーをやらせればいいんじゃないかと思っているくらいです。

 というのも、アイスホッケーはフィジカルコンタクトが当たり前です。滑る氷の上だから激しい衝突はつきものだし、選手同士の殴り合いも絶えません。プロの選手になると、試合中にひどいケガをしても、ロッカールームで自分の傷口を縫ってまた試合に戻ってきたりする。まあ、子どもたちにそこまで求めるわけではありませんが、そういうマインドは伝えていかなければいけないと思いますね。

眞柄セルジオさんは、日本人が薄々感じているのに口に出せないことをズバリと指摘してくれますね。また、そこに独特の視点が加味されているから、ハッとさせられることが多いのだと思います。

セルジオ日本に初めて来た時は、言葉もできなかったので、自然に観察力がついたかもしれません。いまだにブラブラしている時は何か見ていますね。たとえばスーパーやデパートは、端から端まで見てまわると、その土地の生活が垣間見えるからおもしろいですよ。

 情報そのものはテレビからも得ますが、いちばんは友人とのふれあいですね。友人と食事をしたり、お酒を飲んだり、テニスやゴルフをしたりしていると、毎日が変化に富んで「贅沢な暮らしをしているな」と思います。毎日、違うおかずを食べているような感覚ですね。

 60歳を越えた今でも、新しい友人がどんどん増えています。それが私の趣味であり、宝物です。あるスポンサーには、こんな話をしました。「いただいたギャラの分は仕事で返したけれど、紹介してもらった友人については一生の借りだね」と。

 たとえば友人が365人いれば、タダで暮らしていけるじゃないですか。みんな1年間に1日くらいは泊めてくれるでしょうから。まあ、それは冗談ですが、知り合いにはよく、「友だち何人いる?」「増えているか」「もうひとり、増やしたらどうだ?」と話しています。友人が多いことのすばらしさは、皆さんにもお伝えしたいですね。

 私が日本に来ることができたのも、ここで何とか暮らしていけるのも、少年サッカーやアイスホッケーに関わることができたのも、みんな誰かが紹介してくれたり、後押ししてくれりしたからこそです。自分の力で人生を切り開いてきたというよりは、皆さんにセルジオ越後をつくっていただいたという感覚ですね。

 ですから、これからも友人たちに囲まれて、一日一日、「今日は何が起こるんだ?」とわくわくしながら生きていくことができれば最高です。

 目先の目標としては、日光神戸アイスバックスを地域活性化の核にするというものがありますが、そうした活動を通じて、みなさんと一緒に感動や興奮を味わっていければ、何も言うことはありません。

眞柄今日は、子どものころに国立競技場で活躍されている姿を観ていたセルジオさんからたっぷりお話が聞けて感動しました。お忙しい中、本当にありがとうございました。

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対談目次

1)ブラジルのサッカー少年たちは、デビューをめざす演歌歌手のようなもの

2)第2の人生をスタートするには若いほうがいい

3)舞台を日本に移して、「第3の人生」がスタート

4)ボランティアの力に支えられ、経営難のチームが初のベスト4に

5)過保護すぎる日本では、強いスポーツ選手は育たない

セルジオ越後氏 ゲスト:セルジオ越後氏
日光神戸アイスバックス
シニアディレクター

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

プロフィール

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