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経営を語る

エグゼクティブ対談 【第30回】セルジオ越後
(日光神戸アイスバックス シニアディレクター)

人とのつながりが、仕事と人生に広がりをもたらす(4/5)

ボランティアの力に支えられ、経営難のチームが初のベスト4に

眞柄今おっしゃった「出会い」のひとつに、日光神戸アイスバックスがあると思います。スポーツということでは同じですが、サッカーとはまったく畑違いという印象も受けるのですが、シニアディレクターをお引き受けになったきっかけを教えてください。

セルジオまさに人との出会いですね。コラムニストのえのきどいちろうさんが、私にアイスバックスを紹介してくれたのです。

 2002年の日韓ワールドカップの時、えのきどさんがサッカー番組のキャスターをされていた関係で知り合ったのですが、彼はサッカー通であると同時にアイスバックスの大ファンだったんです。それで、「日光には温泉もありますから」と誘われるままに試合を観に行ったら、非常におもしろかった。ルールはわかりませんが、生の迫力に興奮してしまったんです。

 その後、選手たちと食事したり、何度か試合を観に行ったりするうちに意気投合して、オフには私の友人たちを交えてフットサルを楽しむまでになったのです。

 アイスバックスの経営状態がよくないことはなんとなく伝え聞いていました。でも、試合を観るかぎりはみんな元気にプレーしていますし、それほど深刻ではないだろうと勝手に考えていました。

 ところが、実際はかなり危機的な状況まで至っていたらしく、ついに資金が底をついたと。主力選手がみんな出て行ってしまい、このままだとアイスバックスはなくなってしまうだろうという話を聞かされたのです。

 そこで、何かお手伝いできないかと考えていた時に、何人かの選手たちから、「セルジオさんが来てくれたら、また頑張れます」といわれました。だったら、私が広告塔になって世間の注目を集めよう、そうすれば、選手たちも張り合いが出るのではないか、と考え、2006年8月にシニアディレクターに就任したわけです。

 元々私は、サッカーだけが好きなのではありません。先ほどブラジルの子どもたちの話をしましたが、彼らは毎日サッカーだけをやっているわけではないのです。バスケットボールをしたり、バレーボールやハンドボールを楽しむこともありました。

 つまり、おもしろそうならば、なんでもやってみる。「だれでも、どこでも、いつでも」というのがブラジル人のスポーツに対する考え方なんですね。だからアイスホッケーに関わることに対しても、なんの抵抗も違和感も覚えませんでした。

 こうした感覚は、ひとつのスポーツを始めたら、とことんそれだけに取り組もうとする日本人からは理解しにくいかもしれません。それだけに、様々なメディアから「セルジオさんがどうしてアイスホッケーに取り組まれるんですか?」と聞かれ、そのたびにPRができていますよ。

 ただ、ひとつ付け加えると、こうしてアイスバックスを盛り上げようとしていることは、サッカーというか、Jリーグや日本サッカー協会とまったく無関係ではありません。

 Jリーグやサッカー協会は各地方で、サッカーだけではなく、スポーツ全般とふれあう機会を増やしていこうと活動していますね。その背景には、スポーツを通じて地域の活性化を図ろうという大きな考えがあります。

 その意味で言えば、アイスバックスが元気になれば、アイスホッケーに注目が集まると同時に日光が活気づくのですから、これはまさにJリーグやサッカー協会の理念に通じる活動といえるでしょう。

 今、サッカーの世界では、コーチのライセンスを取得した人たちが、現場から声がかかるのを待っています。ところが毎年ライセンス取得者が増えるので、順番待ちの列が長くなっているのです。

 指をくわえてポストが空くのを待っているくらいなら、私のように他の種目を手伝って、スポーツや地域の活性化に力を貸せ、と言いたいですね。

眞柄セルジオさんのPRが効いたのか、アイスバックスはチーム創建以来初のベスト4入りを果たすなど、前期は試合でも非常にいい成績をあげましたね。

セルジオ私はボランティアという立場ですが、スケジュールをやりくりして全試合で会場に足を運びました。選手たちから「あれ、毎回来るのですか?」と意外に思われましたが、一緒にいなければ、お互いの想いが伝わらないものです。ともに頑張っている、汗をかいていることが伝わってこそ、選手たちは盛り上がるのだと思います。

 ベスト4という結果が残せたことで、その効果が少しは出たかな、とよろこばしく思うと同時に、三十数年前に、マイナースポーツだったサッカーの普及に、微力ながら貢献した時と同じような状況ですから、大きなやりがいを感じています。

 サッカーのほうは、その後Jリーグができて、ワールドカップに出場できるようになりました。アイスホッケーも同じように盛り上がっていくといいですね。

 アイスバックスの活躍は、もちろん私だけでなく、多くのボランティアの力で支えられています。アイスホッケーとまったく関係ない分野の人たちが、様々なかたちでチームを支えています。中にはお金まで出して、自分はタダで働いているという人もいます。

 日本はまだボランティアに対する感覚が後れていますから、たとえば15分しか参加しない人がいると、「それだけの時間なら来てもしょうがない」「もう来なくていい」という話になってしまう。でも、“自発的な行為”というボランティアの本来の意味を考えれば、参加する時間など関係ありません。お祭りや、昔の町内運動会の準備のように、その人ができることを、できる時間にすればいいのです。

 少しの時間でも、参加することによって共通の話題が生まれるし、参加した人たちはよろこびを感じることができるでしょう。その輪が少しずつ拡大していけば、地域のコミュニティが活性化します。アイスバックスについては、チームが強くなることだけでなく、ボランティア活動などを通じて地域全体で盛り上がっていきたいですね。

 地域という視点は、プロのスポーツ選手にとって非常に重要です。それというのも、働いたぶんを給料で受け取るサラリーマンと違って、プロの選手はお金を前借りしているからです。

 プロ選手はこれから1年、どれだけ活躍するかわからないのに、先に年俸が決まっています。その金額に見合う働きをしなければいけないわけですが、試合での活躍だけでまかなえている人はそれほど多くいないでしょう。不足分は、何らかのかたちで補う必要があります。

 それが、たとえば地域での福祉活動でもいいし、子どもたちへの指導でもいい。
ちゃんと地元の役に立ち、その活動がメディアに取り上げられたら、チームにとってのメリットも大きいでしょう。

 すなわち、チームにお金を出しているオーナー企業やスポンサー企業にとってもメリットがあるわけです。彼らから見れば、その選手の価値は、試合での活躍と社会貢献を合わせたものと考えることができます。逆に言えば、選手は試合で活躍する一方、地域への貢献を積極的にすることで、「私にはこれだけの価値がある」と大きな声で要求することができるわけです。

 もちろん、これは一選手だけの問題ではありません。チーム全体として、試合にも、社会貢献にも取り組めば、スポンサー企業にとっての価値は上がります。

 私はそのうち日光へ移り住むつもりですが、それはアイスホッケーの試合について行くだけでは、総合的な地域貢献の取り組みができないと考えたからです。地域でサッカー教室や囲碁の大会を開いたり、シニアのゴルフ大会を地元主導で開催したり、といった活動を展開しながら、アイスバックスをますます地元に密着した存在にしていきたいですね。

 その一環として――といっても大きな柱ですが――アイスホッケーの試合があると。普段、様々な活動を通じて培ったサポーターに支えられるアイスバックスが、試合で活躍すれば大いに盛り上がるでしょう。

 このような“地域”がたくさんできれば、日本はもっと活力のある国になるはずです。だから私は、国体の代わりに「関ヶ原杯」をやれ、と主張しています。地域代表がしのぎを削って東西の代表を決め、スポーツはもちろん、音楽や文化活動すべての面で東と西が争う――。おもしろいと思いませんか?

眞柄それはおもしろいですね。「関ヶ原」と言えば、天下分け目の戦いとして日本人の心に刻み込まれていますから、熱気に包まれることは間違いないでしょう。

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対談目次

1)ブラジルのサッカー少年たちは、デビューをめざす演歌歌手のようなもの

2)第2の人生をスタートするには若いほうがいい

3)舞台を日本に移して、「第3の人生」がスタート

4)ボランティアの力に支えられ、経営難のチームが初のベスト4に

5)過保護すぎる日本では、強いスポーツ選手は育たない

セルジオ越後氏 ゲスト:セルジオ越後氏
日光神戸アイスバックス
シニアディレクター

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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