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眞柄常識的に考えると、おカネを出す人の発言力がいちばん強いものです。特に日本サッカーリーグには大企業が集まっていただけに、反発は相当なものだったと想像しますが、それでも姿勢がぶれなかったのはどうしてですか。
川淵Jリーグには発足当初から3つの理念があります。「日本サッカーの水準向上及びサッカーの普及促進」「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」「国際社会における交流及び親善への貢献」というものですが、最初と最後のふたつはサッカーをやっていれば自然についてくるものですね。本当に重要なのは第2の理念なのです。 「サッカー文化」という狭い視点ではなく、「スポーツ文化」という大きな目で国民の役に立ちたい。つまり、スポーツを生活の一部として楽しめるようにしましょう、運動が得意な人も不得意な人も、年齢、性別にかかわらず、誰でも好きなスポーツが楽しめるような環境を地域社会の中につくっていきましょう、という考えがJリーグのいちばんの肝なわけです。 これは、日本サッカー協会もまったく同じで、「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する」という理念を掲げています。 Jリーグ立ち上げの時に、企業名をはずすかはずさないかで読売新聞の渡邉恒雄さんらと侃々諤々の議論をした時も、いつもこの理念を意識して行動していました。豊かなスポーツ文化を日本に根づかせるためには、「地域」を前面に出さなくてはならないてと自分に言い聞かせ、相手を説得してきたわけです。 また、開幕後のブームが去って来場客数が少なくなった時には、「クラブを減らすべきだ」という議論がわき上がりました。しかし、「全国の地域社会にスポーツに親しめる環境をつくろう」という理念と照らし合わせれば、結論は明らかです。目先の調子のよしあしでチーム数を増減していたら、いつまでたってもJリーグの理念は具体化しないでしょう。 大事なことは、掲げた理念をいかに実現するかです。口先でいうのは簡単ですが、それだけでは意味がありません。具体化すべき大きな目標として、理念があるわけです。 日本サッカー協会は、2005年1月1日に「JFA2005年宣言」を発表し、先ほどの「サッカーを通じて……」という理念を明らかにしました。 その中で「JFAの約束2015」では、2015年までにサッカー愛好者を500万人にし、日本代表チームを世界のベスト10にすることを、「JFAの約束2050」では2050年までにサッカー愛好者を1000万人にし、日本でワールドカップを開催して優勝することを謳っています。 こうした理念や約束を具体化するために、私どもは3年区切りで具体的な目標を設定しています。20以上の項目に分けてアクションプランをつくり、協会職員や各都道府県のサッカー協会関係者が日々取り組んでいるわけです。 こうすれば、われわれ全員が目指す大きな構想を達成するために、ひとりひとりの職員が何をするべきか明確になります。目標に対する達成度を測って報酬に反映することもしていますから、組織としては進んでいるかもしれませんね。 現時点では「ワールドカップで優勝する」という目標は絵空事にしか見えないかもしれません。スローガンだけ景気がよくて、それを実現する努力がなされていないケースも少なくありませんが、サッカー界は違うんだということをおわかりいただければと思います。
眞柄なるほど、Jリーグが立ち上げ当初の、そしてその後の危機を乗り越えて成長してきたのは、理念を実現することに全力を注いできたからなのですね。これは企業経営者にとっても非常に参考になるお話だと思います。 いま掲げられている「世界のベスト10入り」「ワールドカップでの優勝」を実現するためにさまざまな努力をつづけられていると思いますが、いちばん大事なのはやはり選手の育成でしょうか。 川淵選手はもちろんですが、監督を含めたコーチングスタッフ、そしてマネジメントスタッフのどれひとつ欠けても日本サッカー界の発展は望めません。逆にいえば、すべての人材をそろえることができれば、それがまた相乗効果を生み、いい循環が生まれてくるわけです。 まず選手については、若手が育ってこなければJリーグの発展はあり得ないし、将来的に強い日本代表を編成することもできないということで、Jリーグ発足の時からユース(高校生)の育成には力を入れてきました。各クラブにユース育成を義務化し、ユース(高校生)、ジュニアユース(中学生)、ジュニア(小学生)といった下部組織を持つことを参加条件にし、そこから宮本恒靖とか稲本潤一、阿部勇樹などが出てきたわけです。 しかし、もっと裾野を広げなければならないということで、JFAでも「キャプテンズ・ミッション」のもと、各都道府県協会がユースやキッズ、女子、フットサルなどの普及・強化活動を推進しています。また、外遊びが減った現代の子どもたちにスポーツの楽しさを知ってもらおうと「JFAキッズ・プログラム」を全国各地で展開しています。 また、日本サッカー協会は、2006年からエリートを育成するシステムをつくりました。中高一貫教育と連動してサッカーのエリート選手を育成する「JFAアカデミー福島」です。 とはいえ我々は、何も有望な若手を各Jクラブと奪い合おうと考えているわけではありません。Jリーグのクラブがある地域ならJクラブの下部組織で指導を受けられますが、それ以外の地域でも有能な選手は数多くいるはずで、そういう選手がJFAアカデミー福島でエリート教育を受けられればいい。 イギリスやフランスなどサッカー先進国の多くは、このようなエリート養成プログラムを持っています。イングランドの場合、いまは各クラブがエリートの養成をしているのですが、それ以前の数十年はサッカー協会主導でエリート教育が行われていました。フランスの場合も最初は各クラブがはじめたのですが、1972年からフランスサッカー連盟が運営するフランスサッカー学院(INF)でエリート育成が行われるようになりました。
「JFAアカデミー福島」の開校にあたっては、INFの校長を務められていたクロード・デュソーさんと契約を結びました。というのも、われわれには中学生になったばかりの子どもたちをケアするノウハウがなかったからで、デュソーさんには1年のうち半分は来日してもらい、様々なアドバイスを受けながら直接指導もしていただいています。 初年度の2006年は全国から男女合わせて650名以上、2007年は1000名以上の応募がありました。2006年度は新中学1年生の男子16名、女子は中1から高1までの23名が入学、今年度は、男女ともに中1で、男子が15名、女子5名が入学しました。 男子に限っていえば、4年後に高校3年生までそろい、そのあといよいよ巣立っていくことになりますが、そこですぐに日本代表に選ばれるような人材をたくさん育てたいですね。 海外、特に南米では18〜19歳の代表選手も珍しくありませんが、日本は若くても21〜22歳です。オリンピック代表のU-22から日本代表に選ばれる人もまだまだ少ない。そこを変えていかなければ日本代表は強くなれませんから、「JFAアカデミー福島」をその起爆剤にしていければと期待しています。 眞柄なるほど。5年後が楽しみですね。 ところで「エリート」という言葉は、日本ではまだ抵抗がある表現だと思います。それをあえて使われているところに、キャプテンの決意が感じられますね。 川淵私があえて「エリート」という言葉を使っている理由は、それだけではありません。「エリート」という言葉は本来、特権階級を意味するのではなく、社会の各分野でのリーダー、社会に対する責任を果たしていく存在に対して使われるものです。 だから「JFAアカデミー福島」の生徒には勉強もしっかりやらせるし、手を抜く生徒はすぐにやめてもらう。その代わり、ふつうの学校では経験できないようなカリキュラム――たとえば、東京芸術大学の日比野克彦さんの話を聞く機会を設けるなど――を用意しています。 もし将来的にサッカー以外の道に進んだとしても、その分野でリーダーとしてやっていける人を育てたい。「サッカー選手としては大成功しなかったけれど、あの学校に通って本当によかった。いまあるのはあの学校のおかげだ」と思ってもらえなければ、成功とはいえないと考えているのです。
このような若手エリートの育成は先ほども申し上げましたが、「キャプテンズ・ミッション」の一環として行っているもので、同ミッションにはほかにも「JFAキッズプログラムの推進」などがあります。 ご存じのように、最近は小さな子どもたちが外で遊ばなくなりましたね。そのために、身体能力は以前と比べて落ちているわけです。だから、スポーツを通じて、外で遊ぶことのおもしろさ、大切さを教えていかなければなりません。 そこで全国各地で運動を展開しているのですが、特に我々でいうU-6、つまり6歳以下の未就学児に力を入れており、年間で約70万人に身体を動かす機会を提供しています。もちろんサッカーボールを使ってはいますが、サッカーというよりはボール遊びですね。サッカー人口を増やす云々より前に、スポーツに親しみ、外で遊ぼうという元気な子どもを増やすことが大切ですから。 これは、日本の宝である子どもが健やかに育つお手伝いをしようという一種の社会貢献であって、その子たちが将来、サッカーに進まなくても一向に構わない。好きなスポーツや得意な分野に進めばいいわけです。子どもに接する時の親の心構えを説いた冊子もつくったりして、みなさんに喜んでいただいています。まさにJリーグや日本サッカー協会の理念を具体化した活動だといえるでしょう。 |
3)選手、指導者、マネジャーが三位一体こそ将来の夢へつながる
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