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エグゼクティブ対談 【第28回】川淵 三郎氏 (日本サッカー協会キャプテン)

理念や目標の実現に向けて本当に必要なこと(1/3)

理念や目標の実現に向けて本当に必要なこと 川淵三郎氏

企業だけでなく、市民に支えられてこそ発展する

眞柄サッカーの日本代表チームは連続してワールドカップへの出場を果たすなど、十数年前には想像できなかったほど強くなりましたね。その大きな背景にプロ化があると思いますが、川淵キャプテンはJリーグ初代チェアマンとして、その立ち上げをリードされました。

アマチュアリーグだった日本サッカーリーグをプロフェッショナルに転換するには大きなエネルギーが必要だったと思いますが、あえてプロ化に踏み切った理由を改めて教えていただけますか。

川淵15年前、プロリーグであるJリーグがスタートするまで、日本のサッカーは企業スポーツの一環でした。といっても、単なるクラブ活動ではありません。かつて東欧圏には、国家をあげて育成されるアスリート、いわゆる「ステート・アマチュア」がいましたが、おカネを出すのが国か企業かという違いだけで、それに似た存在だったといえます。

 会社にとっては、日本サッカーリーグをはじめとする試合で活躍すれば絶好のPRになる。一方、選手は、好きなサッカーをやっていれば給料をもらうことができて、現役を引退しても引きつづき社員として会社に在籍するとができたわけです。

 つまり、不安がないというか、緊張感や危機感を覚えずに生活していたわけですから、命をかけてサッカーに取り組む姿勢にはなりません。これでは世界の檜舞台に立てるわけがない。一流にはなり得ないと思ったのです。

 日本のサッカーを、世界に伍していけるレベルまで高めるには、こうした中途半端なかたちではダメだ、完全にプロフェッショナルにならなければ、日本サッカー界の発展はないということで、プロ化に踏み切ったわけです。

 その時、必ず成功するという成算があったわけではありません。「イチかバチか」というと言い過ぎかもしれませんが、とにかく正しいと思うことをやろうと。たとえそれで失敗しても、別に失うものはありませんから。

眞柄いわば、その“賭け”に勝ってJリーグは軌道に乗り、かつてマイナー的存在だったサッカーが、人気スポーツの筆頭に躍り出たわけですね。

川淵そうですね、サッカー自体がメジャーなスポーツになっただけでなく、ホームタウンとする地域やサポーターの後押しで試合も盛り上がっていますし、何よりも日本サッカーのレベルが相当に向上しました。

 Jリーグ立ち上げの頃はワールドカップへの出場は“夢のまた夢”でしたが、いまや出場することが当然のように期待されていますから、負ければ私を含めて首脳陣は徹底的に批判されてしまいます。選手の起用法や作戦、または監督の人事についてまでやり玉にあげられるわけですから、隔世の感がありますね。

 まあ、罵詈雑言を浴びせられても、それはJリーグが成功したという証なのだから仕方がないと思っていますが(笑)。

 2002年にワールドカップを共同開催した韓国は、いまでこそライバル視されていますが、かつては韓国の方が格上で、相当に差が開いていました。技術的にも精神的にも、日本は韓国の敵ではなかったのです。ところがいまでは、ライバルといわれても恥ずかしくないほどになりました。

 韓国サッカー協会の鄭夢準会長はマスコミからよく、「日本と比べて韓国はダメだ」と非難されるそうです。

 ご存じのように、いまでは海外で活躍する日本人選手もたくさんいます。もともと、プロ化ということで、「サッカーがうまくなりたい」「多くの人に感動と興奮を与えたい」と強い意志を持った選手だけが集まったのですから、社会人リーグの時よりもレベルアップして当然でしょう。

 それでも、Jリーグ発足以前は奥寺康彦や三浦知良といったごく少数の選手しか海外で活躍していませんでしたから、ここまで海外移籍が活発化するとは想像もできませんでした。

 これも、選手たちの質の向上、ブラジルはじめ世界トップレベルの国から一流選手や指導者が来たことなどが相乗効果を発揮した結果だと思います。

 なかには日本の才能ある選手たちが海外に流出することを国内リーグの空洞化を招くと思っている人もいるようですが、私は海外への移籍には大賛成です。強豪クラブ、一流リーグでもまれて選手がレベルアップすれば、日本のサッカー全体の向上にもつながりますから。

眞柄先ほど「イチかバチか」という言葉を使われましたが、実際にはプロ化にあたって、綿密な計算があったことは間違いないでしょう。地域密着指向などはその一例だと思いますが。

川淵地域密着といいますか、企業色を排したことは、Jリーグが飛躍した大きな要因のひとつです。これは、ヨーロッパのスポーツクラブから学んだことでもあり、また、野球からヒントを得たことでもあります。

 たとえばアマチュア野球には長い歴史を持つ都市対抗野球大会があり、かつては後楽園球場を満員にするほどの人気を誇っていました。出場チームのほとんどは企業のクラブチームですが、全国大会に出場する時には予選で敗退したチームから選手を補強できるなどの制度があり、まさに「地域の代表」ということで、地元の人たちが応援に押し寄せたからです。

 ところが、次第にチームを持つ企業の名前が前面に出過ぎるようになり、都市対抗というよりもセミプロの企業対抗大会といった趣になってきました。それにともなって人気は年々低下し、応援しているのは選手の家族やそのチームの社員だけという状況に至ったわけです。

 当時、人気の低下が指摘されていたプロ野球も、球団名を含めて、オーナー企業が前面に出過ぎることがその一因だといわれていました。

 先ほど触れたように、日本サッカーリーグに参加していたのも企業のチームですが、プロ化する時にこの体質を温存してしまうと、都市対抗野球やプロ野球と同じ結果を招きかねません。

 三菱自動車をバックにした浦和レッズを例にとって例えてみた場合、もし、チーム名が「三菱自動車浦和」では、三菱自動車に勤める人以外はそっぽを向いてしまうかもしれません。浦和にはトヨタやホンダ、日産の関係者もたくさんいるでしょう。そういう人たちは、「三菱自動車浦和」が自分の住んでいる地域のクラブだといっても、地域のクラブという意識は持てず、肩入れしてくれることになりにくい。

 しかしチーム名が「浦和レッズ」であれば、「我らが町の代表」としてみんなが自然に応援することができます。三菱自動車が出資しているとしても、地元のクラブという意識を持てる。

 そこで、まずはチーム名から企業名をはずすことだと考えたわけです。Jリーグが成功するかどうかは、これができるかどうかにかかっていると。

 もちろん、それまでサッカーを支えてくれた企業には感謝の気持ちはありましたし、Jリーグ発足後も財政面や人材面、さまざまなかたちでサポートしていただかなければなりません。しかし、多くの市民に支持していただけなければ、プロとしてはやっていけないわけです。

 いくら企業名が目立っても、地元のファンに支持されないよりは、地域で人気を博した方がサポートしてくれる企業にとってもメリットは大きいはずです。そのように企業を説得して回ったのですが、やはり最初はものすごく反対が大きかったですね。「何のためにカネを出していると思っているんだ!」と。

 Jリーグ発足にあたっては、もうひとつ、クラブの法人化も求めていたのですが、こちらも大反発にあいました。「儲かる可能性がないのに、どうして法人化しなければいけないのか」というわけです。

 とはいえ、そこで折れるわけにはいきません。企業が丸抱えでクラブをつくり、PRのために利用するというかたちでは、日本リーグの時と何も変わらないわけです。そうではなく、「企業市民」としての企業を含めて、市民に支えられるクラブを全国各地につくる。それを通じてサッカー、ひいてはスポーツの裾野を広げていくことが我々の使命だと思っていましたから、繰り返し根気よく説得をつづけました。

 発足直後は、企業色が出てしまう部分もあるにはありましたが、それから15年が経過して、ようやく我々の考え方が根づいてきたと感じています。特に、あとから加盟したアルビレックス新潟やベガルタ仙台、ヴァンフォーレ甲府、大分トリニータなどは地域のクラブというイメージが強いですよね。

 それだけサッカーというスポーツが日本全体に根づいてきた証拠でもありますが、これからもっともっとその輪を広げていきたいと思います。

  123 対談の続きへ

対談目次

1)企業だけでなく、市民に支えられてこそ発展する

2)「ワールドカップ優勝」を目指して、子どもたちから育てる

3)選手、指導者、マネジャーが三位一体こそ将来の夢へつながる

川淵 三郎氏 ゲスト:川淵 三郎氏
日本サッカー協会キャプテン

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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