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エグゼクティブ対談 【第26回】上田 清司氏 (埼玉県知事)

行政経営は熱伝導だ(3/4)

行政のサービス産業化が、納税額アップと県民満足度の向上につながった

眞柄話は変わりますが、いま知事というポストが注目を集めていますね。宮崎県の東国原知事が全国的に脚光を浴び、また東京都知事選挙に有名候補が乱立するなどしましたが、上田知事はどういう思いで知事選に臨まれたのでしょうか。

上田成り行きですね(笑)。私は衆議院議員を3期務めましたが、知事選に立候補したのは4期目の選挙が間近に迫っていた時でした。すでに準備は万端で、さしたる対立候補もいなかったので、「勝てるかどうかわからない知事選に出る必要はない」とさえいわれたものです。

 ただ、私は国政の場で税金の無駄遣いなどを指摘してきた人間ですから、私のいう「行革」は、他の人がいうよりも説得力があったのでしょう。「上田さんは国会でもしっかりやっていた。県でもやってくれるのではないか」という期待は感じました。

 だから県知事として、国会で私が主張してきたことは、誠実にすべて県政の場で実現しようと考えています。たとえば交際費をすべてオープンにし、給料の20%カットも実行しています。退職金を25%カットする条例や知事の在任期間を3期12年にする条例もつくりました。天下りの廃止も、実現したのは47都道府県、政令指定都市の中で埼玉県だけです。

眞柄知事選の時には、先ほども触れた「日本一の中小企業・ベンチャー立県宣言!」を含む「5つの日本一宣言」をマニフェストとして掲げられました。「日本一の安心・安全立県宣言!」「日本一の子育て・教育・医療・福祉立県宣言!」「日本一の環境立県宣言!」「日本一のNPO立県宣言!」がそのすべてですが、ここまでのところ、達成度についてはどうみておられますか。

上田自分自身で掲げておいて、こういう言い方をすると誤解を招くかもしれませんが、私は昨今のマニフェスト・ブームにはやや批判的なところがあります。耳障りのいいことを掲げるのは簡単ですが、重要なのは在任中にどれだけのことを成し遂げたかという実績だと思うのです。それを検証するのは意外に困難なので、マスコミもあまり追いかけないのですが。

 たとえばある県で、過疎化が問題になっているとしましょう。その県をあずかる知事の仕事は産業をつくり、県民所得を上げることにほかなりません。ところが実際はどうでしょうか。そのような県で、県民所得の全国順位がまったく変わっていないのに、3期、4期と知事を務めている人がいます。いくらマスコミ受けのいいマニフェストをつくっても、結果がこのとおりでは県民にとって何のプラスもないでしょう。

 私が知事に就任した時、埼玉県の犯罪検挙率は全国最下位でした。それが現在では44位に上がっています。まだまだ、けっして誉められたランクではありませんが、着実に向上していることは間違いありません。こうした業績評価の項目を何十か用意し、具体的にチェックして、その知事の県政の善し悪しを判断していかなければならないと思います。

【参考資料】埼玉県の治安回復と
検挙率の上昇/わがまち防犯隊の数の推移
(画像をクリックすると拡大します。)

眞柄実際に上田知事はさまざまなデータをつくって、埼玉県の現状を分析しておられますね。この執務室を見まわしても、壁や棚にはグラフや数値を示す紙が貼られています。業績や目標を壁に貼って“見える化”する企業は知っていましたが、こちらの壁はまさにところ狭しといった感じですね。こうして数字をあげてれば、進捗度が一目瞭然ですね。

上田犯罪の検挙率以外では、たとえば納税率があります。私が就任した時は、これも全国で46位という低さでした。埼玉県は人の移動が激しいところなので、納税率には限界があります。とはいえ何とか全国平均くらいにはしたい。そのためにはあと2%納税率をアップさせなければならないということだったので、3ヵ年計画を立てました。

 すると16年度は0.8%、17年度は0.6%向上し、アップ率ではそれぞれ全国2位、6位という成績でした。全国ランクも42位になり、18年度末には目標だった「2%アップ」が達成できる予定です。

眞柄就任された時、県政を運営するうえで、「安心安全の切り口ですべての行政分野を見直す」「県庁を優れた経営体へ」「県行政を最大のサービス産業へ」という3つの哲学を掲げられました。犯罪検挙率の向上や納税率の向上は、まさにこの哲学に沿ったものだといえますね。

上田そうですね。「安心安全」については、さまざまなことに取り組んでいます。犯罪検挙率が向上したことは申し上げましたが、実は犯罪そのものを減少させることにも成功しているのです。その成功の秘密は「わがまち防犯隊」の設置です。5人以上で月1回以上活動している民間防犯パトロールの数は、昨年東京都を抜いて全国1位になり、現在では3800団体を超えています。就任以来、警官の増員にも取り組んできましたが、こうした民間防犯パトロール団体の存在が、犯罪の減少と検挙率のアップに大きく貢献しています。

 また、ガス会社や電気会社、新聞販売店、ヤクルトの販売店など、直接、住宅を回っている27事業者と防犯協定を結んでいることも、住民のあいだに安心感を生んでいると思います。

 道路行政も、住民の安心という観点から見直したことで、私の就任以来、交通事故死者数は激減しました。平成16年、18年と減少数が全国1位になり、平成18年度の交通事故死者数(265人)は昭和34年(294人)以来47年ぶりに300人を下回りました。

 こうしたことを通じて県民に安心感が広がれば、埼玉県は益々住みやすく、活力のある県になっていくと思います。

眞柄このような結果は、すべて「県の行政をサービス産業にする」という発想から生まれているように思いますが、知事はどうとらえられていますか。

上田そうですね。県がサービス産業であるという自覚をもっていれば、住民にとってメリットのある施策が自然に生まれ、それがまた県の発展につながると思います。

 たとえば先ほどの納税率のアップに関してですが、ある時、浦和の県税事務所を訪ねてみると、非常に暗い雰囲気でした。県税事務所を訪ねる人は、何らかの理由で税金を払い遅れている人やトラブルを抱えている人が多いので、事務所そのものの雰囲気が暗くなるのも仕方ないかもしれません。しかしこんな様子では、暗い気持ちで来た人が益々暗くなってしまいます。

 そこで、雰囲気を一変させるように投げかけてみたら、「ニコニコ県税事務所」という看板を掲げ、担当者の名前をステッカーで貼り出すようになりました。こうなると、職員はニコニコするしかありません。それで県税事務所の様子はがらりと変わり、納税率のアップにもつながったわけです。

 私が知事になってから税収が1500億円ほど増えていますが、こうした地道な変化が一つのきっかけになっているのです。

 また、県民からの声に対するレスポンスを早くするように努力しています。たとえば県土整備事務所では、「道路に穴があいている」などの声に対して、2日以内に返答をしているのです。実際の作業までには1週間かかるかもしれませんが、「対応には1週間かかります」ということを、1日も早く返答する。従来は何もリアクションしないのが普通だったので、県民が見る目も変わってきました。「丁寧な対応をしていただきました」という感謝のメールが、苦情のそれよりも多くなっているほどです。

 このような反応を見て、他の部署でも県民の声に対するアクションが早くなってきています。

眞柄知事ご自身も電子メールや手紙を受け取ると、必ず返事を書かれるそうですね。

上田できるだけその日のうちに返信します。これは衆議院議員の時から変わりません。いまは夜9時ぐらいから1時間くらいかけて返信を書くのが日課といえるぐらいです。

眞柄トップ自ら必ず返事を出すというのは素晴らしいですね。民間企業でも、お客様からの声に対するレスポンスが遅いところはまだまだ多いのが現状です。大手企業でさえ、面倒なクレームに対する返答は遅れがちなのに、知事や埼玉県のそうした対応を見習わなくてはなりませんね。

上田レスポンスの速さだけでなく、県民のニーズに応えてサービス時間を変更したところがあります。ベンチャーの創業を支援する「創業・ベンチャー支援センター」がそれなのですが、従来は、他の官庁と同じように、朝8時半から夕方5時15分までがサービス時間でした。ところが、5時頃に駆け込んでくる人が多かったんですね。新しい事業を考えている人にはサラリーマンも多いわけですから、当然の話です。

 そこでスタッフが自分たちで考え、サービス時間を朝10時から夜の8時までに変更したのです。自分たちの都合による時間体系から、ニーズによる時間体系に変えたわけですね。このように、誰もが相手の立場で物を考えられるようになれば、仕事の質はどんどんよくなると思います。

眞柄そのようなスタッフの対応は、知事のところにはどのようなかたちで伝わるのですか。

上田年に1度、12月に各部署が取り組んでいるサービスについてプレゼン大会を開いています。私の他、担当副知事や外部の方に審査員になっていただき、選ばれた上位3課所はお正月の仕事始めの式の時にもう一度プレゼンテーションをします。

 これによって、すぐれたサービスは県庁全体に伝わり、それが刺激になってまた全体が向上するという循環が生まれていると思います。

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対談目次

1)「ゆとり度」が高く、「チャンス度」あふれる県に

2)無担保無保証の融資が中小企業とベンチャーを支える

3)行政のサービス産業化が、納税額アップと県民満足度の向上につながった

4)「子育て支援」の普及は、週休二日制と同じ手法で実現できる

上田 清司氏 ゲスト:上田 清司氏
埼玉県知事

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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