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エグゼクティブ対談 【第25回】小山 裕久氏 (日本料理人)

「他人に引けをとらない」というプライドの大切さ(4/4)

技術の“標準化”を通じて日本料理の裾野を広げたい

眞柄一料理人でありたいという原点に立ち戻って、次はどんなことをしようと考えておられるんですか。

小山ひとつには、「青柳」の新しい本店をじっくり育てていきたいですね。徳島の大塚製薬さんが鳴門に20万坪の土地を買われたんですが、オーナーの大塚明彦さんと「徳島に新名所をつくろう」ということで意気投合して、そちらに本拠地を移したんです。

 目の前は鯛が泳ぐ鳴門海峡、私どもの敷地は、四方によそ様の建物がみえない8万坪――。この環境を、10年20年かけて活かしていきたい。料理人としての夢もありますから。

 もうひとつは、料理人たちにプライドをもって仕事をする姿勢を伝えていくことです。私は現在ロイヤル・ホールディングスの顧問になっているのですが、これをお引き受けした理由は、ファミリーレストランのなかで唯一、ロイヤルホストには料理人がいるからです。

 全国の店舗をまわって、料理人たちに「チェーン店ですべての店に料理人がいるのはロイヤルだけなのだから、そのことを肝に銘じて、プライドをもってやってほしい」と訴えてきましたが、だいぶん意識が向上してきましたね。

 仕事をする上でいちばん大切なのは、やはりプライドです。「日本精神」をしっかり持っていないと、アメリカのフロンティアスピリットにもフランス魂にも太刀打ちできない。私がアラン・デュカス(フランス料理のシェフ、レストラン・クリエーター)やロブションと対等に話したり、料理したりできるのは、心を強くもっているからです。

 日常生活を含めて錬磨して、いつどこで料理をつくらせても他人に引けを取らないというところまで到達しなければ、プライドをもつことはできません。

眞柄料理学校でもそのようなことを伝えられているのですか?

小山学校で生徒たちに伝えたいことは校是校訓にこめてあります。まず校是の「譬咳に触れ自得する」ですが、これは本物を目の前にして、声を聞いたり姿形をみて自ら学ぶということですね。そして校訓の「教わらないを教えよう」です。このふたつを肝に銘じてくれればいい。

 ノウハウに関しては、いまや書店に料理関係の本がたくさん出ていますから、いくらでも自分で学ぶことができますよ。

眞柄そうした環境は、小山さんの修業時代とは大違いでしょうね。

小山私のときは、料理関係の本は数えるほどしかありませんでしたから。とはいえ、現在でも日本料理の原点を記した本はまだありません。そこで、ある大学と共同で『日本料理大事典』を編纂しているところなんです。

 フランス料理のフォン・ド・ボーは仔牛のスネ肉、タマネギなどの材料をどれくらいの比率でつくるということが決まっています。材料の切り方にしても、標準化がなされているんです。だからフランス料理の世界では、店を移ってもとまどうことなく仕事ができるし、さまざまな国の人がフランス料理のシェフとしてやっていけるわけです。

 ところが日本料理には標準がありません。店によって何もかも違う。ひとつの店だけで一生を終えるならいいのでしょうが、このままではフランス料理のような広がりはもてないのではないかと感じていたんです。

 日本料理のこれからの100年を考えると、フランス料理のような標準化をしなければならない。それによって世界中の若者が、日本料理で人生を送れるようにしたいと思っているんです。

眞柄実際、小山さんはアジアで料理人を育てておられますね。

小山日本で有名になったフランス料理のシェフは、高級車を乗りまわしたりしていますよね。でも、それはフランス人が育ててくれたからです。アジアの青年たちが日本料理で生計を立てていけるようになれば、日本は尊敬されるようになると思うんですよね。

 いまはインドネシアで何人かの料理人を育てていますが、どこかのホテルに引き抜かれた人もいます。それはそれでいいと思っているんです。技術が伝わるわけですから。

 また、パリにはラオス人がやっている寿司屋があるんですが、日本人はほとんど行かない。あまりいいイメージをもっていないようなんです。でも私はフランスに行くたびに訪ねて、包丁をプレゼントしたり、技術を教えたりしていますよ。

 とはいえ、まだまだ問題は多いですね。

眞柄と、いいますと?

小山たとえば今、ブラジルでは日本料理店が営業禁止になっています。食中毒で死者が出たりしましたから。中華料理や韓国料理より、日本料理のほうがお金になるということで、欧米でもアジアでも日本料理店が増えてきています。しかし必要な知恵が広まっていないので、こうした事故が起こる。

 刺身にはわさびがつきものですが、海外では粉わさびがよく使われます。しかし、これでは意味がない。わさびは辛みをつける調味料ではなく、刺身を安全に、しかもおいしく食べるためのものです。そして、そのためには粉わさびではなく、本わさびを使わなければなりません。刺身をつくる技術だけではなく、そうした日本の“知恵”を伝えていかないといけないと思います。

 残念なことに、日本料理に関してわからないことがあっても問い合わせる窓口はありません。そこで、いまNPO法人をつくって啓蒙活動などをはじめたところです。

 その意味では、日本政府が料理に関する委員会をつくっていただいたことに、私たちは心から感謝しています。私自身、吉兆の先代ご主人をはじめ、先人たちが積み重ねてこられたものをベースにして幸せな日々を送ることができていますが、それに報いるためにも、次の世代の礎となることをしていきたいですね。

眞柄まだまだやりたいことがたくさんあるという印象を受けますが、これからの夢を教えていただけますか。

小山お蔭様で私は、少しは海外の事情を見せていただきました。その上で思うのは、やっぱり日本はすばらしい国だし、私は日本人、日本男児として生きていきたい。そういう意味では、今はまだまだ足りない。「俺、日本人としてイケてる」と思えるようになりたいんです。

 後は、繰り返しになりますが、私自身、研鑽を重ねていく。日本料理の標準化を図ってみんながわかるようにする一方で、誰にも負けない技術はもっていたいですから。

いまでもお店に立って刺身を切ったりしています。変な話ですが、私は何が得意かって料理がいちばん得意なんです(笑)。ゴルフは狙ったところに球は飛びませんが、料理ならスライスをかけてもフックをかけても目指すところに運ぶ自信はありますよ。

眞柄それはひとつの極みといってよい世界ですね。

小山いや、そこまではいいませんが、料理の世界はおもしろいです。本当に。

眞柄今日はまったく違う世界のお話をうかがいましたが、世界への進出、技の伝承など、一般のビジネスの世界にも通じることだと思います。本当にありがとうございました。

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対談目次

1)日本料理における伝統をすべて具現化していきたい

2)日本料理の講習会でフランスという国の懐の深さを実感

3)basaraが開いた日本料理の国際化への道

4)技術の“標準化”を通じて日本料理の裾野を広げたい

小山 裕久氏 ゲスト:小山 裕久氏
日本料理人

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

プロフィール

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