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眞柄小山さんはフランスの料理人たちと深く交流されて、フランス政府からも勲章を受けていらっしゃいますね。そのきっかけは何だったのですか? 小山私は十数年前に調理師学校をつくりました。当時は徳島県に調理師学校がなかったし、料理人がつくった学校も少なかったので。その第1期生の修学旅行先にフランスを選んだのですが、出発前、ある人から「せっかくフランスに行くのだったら、ぜひ向こうで日本料理の講習会を開いてほしい」といわれたんです。 たくさんの日本人が料理の勉強をするためにフランスへ行っている。フランス人も快く受け入れてくれて、日本人も一生懸命に働いていますが、それが一方通行では文化交流になっていない、というんです。 眞柄つまり、フランス料理の勉強をするばかりで、日本の文化は伝えていないというわけですね。 小山フランスで勉強している日本人に、「ちょっと日本料理をつくってくれ」といっても誰もできないというんです。でも、無理はありません。彼らは若いころからフランスに憧れ、フランス料理はもちろん、フランス語やフランス文化を勉強して、ようやくフランスに行くのですから。 そこで私に白羽の矢が立ったわけですが、あちらに皿や小鉢、座敷などが用意できるわけではありません。そこで、包丁と醤油だけをもって行くことにしたんです。日本料理とは、詰まるところ料理人の技術ですから、それをフランスの“技術者”に見てもらえればいいと。 私は『ミシュラン』に載っているトップ100の料理人にこんな手紙を送りました。 「私は日本の料理人です。このたび、包丁と醤油だけを持参し、フランスの食材を使って日本料理をおつくりします。ぜひご高覧ください」 手伝ってくれていた友人の石鍋裕さん(フランス料理の“鉄人”として有名)からは、「小山さん、こんなことをしてもたぶん来てくれるのは3人だけだ。フランスはそんなに甘くないよ」といわれましたが、ふたを開けてみると大盛況だったんです。 市場で新鮮な魚が手に入る日ということで火曜日を選んだのですが、当日はGATTウルグアイラウンドに関連したデモがあって、火炎瓶は飛び交うわ、地下鉄は止まるわという最悪の日でした。開始予定時間になっても誰も来ないので、「これは石鍋さんのいうとおりかな」と思いました。が、15分くらいしてからポツポツとお客さんが見えはじめ、最終的には86人になったんです。これには涙が出るほど感激しましたね。 しかもかなり遠いところから汽車に乗ってかけつけてくれた人もいたし、五つ星ホテルのさらに上である「五つ星L」のホテルからも料理長、副料理長たちが来てくれました。 眞柄その講習会のテーマには何を選ばれたのですか?
小山先ほど話に出た「片刃の包丁で切る」がひとつ。生の魚を切って、塩をして並べれば刺身になるわけではない、ということを説明しました。そして「魚を煮る」です。その後も「だし」「切る」などをテーマに6年間、毎年開催しました。 でもそのとき、実は内心で「負けた」と思ったんです。 眞柄大盛況で長く続いたのに、なぜですか。 小山フランスの懐の深さに参ったんです。これが逆だったら、と考えてみてください。フランスの田舎で店を出している一介の料理人が、いきなり日本に来て講習会をやります、といっても、日本の料理人たちは集まらないでしょう。いくら日本の食材を使ってやって見せますといっても、遠くから電車を使ってまでは参加しませんよね。 そのころの私は、誰も知らない四国の片田舎の料理人でしたし、料理学校の校長にすぎない存在です。それなのにパリの有名ホテルや有名レストランからはもちろん、地方からもたくさんの人が講習会に来てくれたわけですから。
眞柄料理という文化に対する評価が、日本とはまったく違いますね。 小山まったく違います。料理というものに対する心構えや国としての取り組み方は比べものになりません。たとえば先日、ジョエル・ロブション(世界的なフランス料理のシェフ)が、大統領になる以外ではもっとも上位の勲章を授章されました。日本でいえば料理人が大勲位をいただくようなものですよ。 私もフランス政府から勲章をいただきましたが、これは日本料理人としては初めてのことです。フランス料理を日本で広めた人が授章するならわかりますが――実際、そういう方は何人かいらっしゃいますし――日本料理をフランスで広めたことでいただくなんて、夢にも思っていませんでした。 眞柄国や民族として、料理という文化に対する姿勢がまったく違うということはよくわかります。料理そのものとしてみた場合は、フランス料理と日本料理はまったく別ものなんですか? 小山これは私が言いはじめたことですが、日本のだしとフランスのフォン、そして中国のタンは、素人目にみれば料理の下地ということで同じようなものに映るかもしれません。でも、これをイコールでつなげばそれぞれの料理がわかってくるというものではない。まったく違うものなんです。それがわかってから、私自身いろんなものがみえてきました。 フランス人に日本料理のことを教えようと思えば、日本料理のことをきちんと勉強しなければなりません。日本の店で料理をつくるだけなら、何も考えなくてもいいかもしれませんが、出刃はなぜこんな形をしているのか、鰹節のだしはどうしてあんなふうに取るのか――それを明確に説明できないと相手から突っ込まれてしまいますから。 その意味で、この何年かは私にとって非常に幸せな日々でしたね。自分にとって幸せなことをしているうちに、それが評価されていつの間にか勲章までもらっていた、という感じです。 フランスで出した本がベストセラーになったり、それをアメリカなどの人も読んでくれたり、ドイツ語に翻訳されて、またベストセラーになったりで、欧米でも日本料理を食卓に並べる家庭が徐々に増えてきているようです。そのひとつのきっかけづくりができたという意味では、非常にうれしく思っています。 |
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