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眞柄森会長は前首相として国政の中心でご活躍されるかたわら、昨年6月には日本ラグビー協会会長に就任され、日本ラグビー界の発展にもご尽力されておられます。学生時代から数えれば、半世紀以上にわたってラグビー愛好者でおられることも広く知られているところです。9月1日にはトップリーグも開幕し、来年にかけて本格的なラグビーシーズンを迎えようとしています。 これまでエグゼクティブ対談では、中川秀直自民党政調会長、安倍晋三内閣官房長官、竹中平蔵総務大臣にご登場いただき、政治家としての貴重なご意見をうかがうことができました。またラグビー関係者では、今年6月に亡くなられた宿澤広朗さん、サントリーラグビー部の清宮克幸監督にもご登場いただいております。 本日は森会長に政治家として、また日本ラグビー協会会長として、青少年の育成を中心にお話をうかがいたいと考えております。 まず初めに、青少年の育成とスポーツのかかわりについてお尋ねしたいと考えております。若い世代がスポーツを通して学ぶことは非常に多いと思いますが、森会長はどのようにお考えでしょうか。 森私がスポーツ好きだからでしょうが、人間社会での大切なことはすべてスポーツのなかに織り込まれていると思いますね。たとえば相撲、柔道、剣道といった日本の武道では礼儀をとても重んじる。勝負は、礼にはじまって礼に終わる。そこはきちんとしています。 眞柄単に力や技を競い合うのでなく、「道」がつくのはその精神性からですね。 森つまり、勝負のうえでは敵でも、相手の人格をきちんと認め、尊重するということです。日本の武道では、勝者が敗者に対しておごった態度をとってはならないという意識があります。勝者といえども、相手を思いやる気持ちが必要だということです。だから相手を打ち負かしてもガッツポーズなどしない。静かにきちっと礼をする。今の日本社会では、例えば柔道の中にも少しその傾向が出てきており残念ですが、そういう美徳が失われつつありますね。 眞柄家庭で教える大人はいませんし、学校でも教えてくれません。
森本来は、学校教育で身につけていいことでしょうが、学校は長らく教えることを怠ってきました。怠ってきた原因はいろいろありますが、極端なところでは、精神性や集団の規律を強調すると、軍国主義を思い起こすということです。「気をつけ!」「まわれ右!」といえば、軍隊用語だといって過剰反応する。では「まわれ右」ではなくて何というか。「後ろへお向きください」です。国旗掲揚の時も、「国旗のほうへお向きください・・・」という調子です。あれでは国旗に向かって敬意を表する気持ちが出て来ませんね。 眞柄最近は、学校行事で国旗掲揚の間起立しない親たちがいます。子どもの入学式で見た時は大きな違和感がありました。座ったままで平然としています。海外では考えられない光景だと思いますね。 森その話で思い出しましたが、数年前の高校総体(全国高等学校総合体育大会)で驚いたことがあります。開会式で主催者や文部大臣の挨拶がつづく間、高校生たちは全員グラウンドに腰を下ろして聞いているんですね。それも蒸し暑いせいか、片膝を立てたりだらしなく座ったりしている。「皇太子殿下からお言葉をいただきます」というアナウンスが流れても、誰ひとり起立しようとしない。号令もない。皇太子が話される間ずっと座ったままでした。その光景には、あっけにとられましたよ。 眞柄主催者側も起立させようとはしない。 森ところが、皇太子のお話が終わった直後、選手宣誓があったのですが、その時になって初めて「全員ご起立願います」とアナウンスがありました。 眞柄それは違和感がありますね。 森選手宣誓で起立させるなら、皇太子が話される時から起立させればいいでしょう。たまげましたよ。
眞柄私は戦後教育を受けた世代ですが、私たちの時でさえ、校長先生や来賓の方々が話される時は立って聞いていました。話の内容がおもしろいかどうかは別にして、そういう時は自然と腰を上げて起立するものだと身についていたんですね。 最近の子どもたちは昔に比べて平均身長は伸び、体格もよくなってきていますが、その一方で体力低下を指摘する声が聞かれます。子どもたちの体力低下も原因の1つでしょうね。 森子どもたちの体力が、昔に比べて落ちていると感じることはあります。 例えば相撲や剣道で、勝負が始まる前に蹲踞(そんきょ)の姿勢をとりますね。相手と向かい合って腰を落とし、踵を上げ、背筋をすっと伸ばす姿勢です。我々は学生時代に相撲や剣道でよくやったものですが、最近はこの蹲踞を殆どの人ができない。スポーツ選手はさすがにできるのでしょうが、街の風景でも腰を下ろす時に踵を地面に着けて、背中を丸めてしゃがんでいる若者は多いですよ。 眞柄コンビニの前などでよく見かけますね。 森学校の朝礼や式典でも、基礎体力がないから10分と立っていられない。だから、司会の人はすぐに「みなさんお座りください」といって座らせます。昔は目上の人が話す時は直立不動で聞き、話す方が「休め」とか「楽にしてください」と言わない限りは姿勢を崩すことができませんでした。古い話ばかりではいけませんが、今でも自衛隊の諸君は「休め」と言われてから足を開き後ろに手を組むでしょ。 体力不足もあるでしょうが、結果として、自分の立場やTPOに合わせた態度がとれなくなっています。親や先生と話していても、友だちと話す時のように「よぉ」とか「やぁ」と言ったりしていますね。 マイクロソフトの社員は、ビル・ゲイツの前で「よぅ、ミスター・ゲイツ」といいますか? 眞柄それはないです(笑)。 森そうでしょう(笑)。他の国は学校教育でやらなくても、軍隊である程度は訓練されています。とくにお隣の韓国や中国は徴兵制がありますから、相当な人数が軍隊に入って鍛えられるわけです。その差は歴然と出ますよ。 眞柄徴兵制のあるなしは別にしましても、先進国の多くで、若い時期に社会規範を身につける機会があるのは確かですね。私が暮らしたアメリカもそうでした。 今の日本で、その役割を担うのはどこでしょうか。家庭なのか、学校なのか、地域コミュニティーなのか、あるいはボランティア活動なのか・・・。
森ボーイスカウトなどは、実にきちっとしています。「スカウトは礼儀正しい」という掟がありますから、みんな三本の指を伸ばした挙手の敬礼をする。 8月上旬に石川県珠洲市で第14回日本ジャンボリーが開催されて、私も参加してきました。国内外から2万人以上のスカウトたちが集まっているというのに、実に整然としていて感心しましたよ。海外38カ国から参加したスカウトが約5〜600人もいましたが、まったく違和感はなかったですね。 ところが、ボーイスカウトの活動にも「挙手の敬礼は戦争を想起する」といって反対する人がいるのですからね。 眞柄私も小学生と中学生の時にカブスカウト、ボーイスカウトで活動していました。1971年には世界ジャンボリーが初めて日本で開かれましたが、ちょうど中学1年の時で、私も静岡県の朝霧高原で参加しました。4年に1度の世界ジャンボリーには、さまざまな国からスカウトたちが集まってきます。言葉は通じなくても、制服、制帽、チーフと三指礼が共通言語でした。 森今の日本では、社会に出て必要なこと、人間として大切なことが家庭や学校で教えられていません。そこでスポーツが重要になってきます。社会人としてのたしなみは、すべてスポーツのなかに凝縮されているというのが私の考えですね。 人間社会で一番大切なことは相手を尊敬することでしょう。そして相手を思いやること。スポーツには敢闘精神も必要ですが、やはりチームや相手のことを考える協調の心が大切だと思います。 眞柄特に日本の場合は、従来、個人よりも組織であり、グループの中での個人という立場に重きを置いてきたように思います。集団のなかの一個人という意識です。 最近はともすると、欧米的な個人の立場だけが強く意識されています。マイクロソフトの人間が言うのもおかしいですが、個人のパフォーマンスが高ければいいということではありませんね。 |
4)会長就任はラグビーへの恩返し 故・奥克彦大使の想いを実現する
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