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眞柄古川社長は今年4月に日立製作所の社長に就任されて、大変ご多忙のところ本日お時間をいただきました。申すまでもなく、日立製作所はわが国を代表する総合電機メーカーであり、2010年には創業100周年を迎えるという歴史と伝統をもつ企業です。そのなかで重電部門を経験されていない方が社長に就任するのは初めてということですが、古川社長が、今後どのように経営の舵取りをされるか、国内外の産業界は大いに注目するところです。私も本日は大変興味深いお話を伺えるのではないかと楽しみにしています。 まず、日立製作所のトップというお立場になられた現在のお気持ちについてお聞きしたいと思います。社長交代は昨年12月15日に発表されましたが、最初にお話があったときはどのような思いを持たれましたか? 古川日立製作所は1910年創業という長い歴史をもち、従業員35万人、年間売上高9兆円という規模の会社です。その歴史の厚みと規模の大きさを考えますと、やはり責任の重さを痛感しました。同時に、2010年の創業100年をどのように迎えるか、ということが頭に浮かびました。次の100年にむけて、どのような会社をめざせばよいのか。そういう様々な思いが瞬間的に交錯したのを憶えています。 眞柄今年度の入社式で話された「社長メッセージ」を拝見しますと、社員全員で共有したい言葉として「信頼」「挑戦」「飛躍」の3つを挙げておられますね。もともと日立製作所さんには創業当時の志を伝える言葉として「和」「誠」「開拓者精神」の3つがあると伺っています。古川社長は日立の創業精神を踏襲するかたちで、新たに3つのキーワードを掲げられたのだと推察しますが、どのようなお考えだったのでしょうか?
古川組織には、変えてはいけない部分と、変えなければいけない部分があります。日立製作所ならびに日立グループには、いまも創業の精神が受け継がれていますから、この原点を忘れるわけにはいきません。日立の基本理念には「優れた自主技術や製品を通じて社会に貢献する」という言葉があります。これを果たすうえで必要な心構えが「和」「誠」「開拓者精神」だったのです。 しかし創業から100年近くになれば、外部環境や働く人たちの意識は当時とは大きく異なります。変化のスピードは日々速まっていると思えるほどです。時代の要請に応じて、変えなくてはいけない部分も出てきています。 過去を振り返って、諸先輩がたが我々に残してくれた最大の財産は何かと申しますと、それは営々と築き上げてきた日立製作所の「信頼」です。信頼される企業になるには長い年月を要します。反対に信頼を失うときは一瞬です。ですから、この信頼をもっとも大切にしていきたいと考えました。 また、これまでは「創業の精神」を支えにして成長をつづけてきましたが、会社の規模が大きくなるにつれて3つのうちでいちばん早く薄れてしまうのが「開拓者精神」です。「挑戦」と「飛躍」は、もう一度「開拓者精神」を呼び戻したいという願いから掲げました。これが「信頼」「挑戦」「飛躍」の3つを社員全員で共有してほしい言葉とした理由です。 眞柄そうお聞きして気づいたのですが、私たちがテレビで親しんでいる「Inspire the Next」も「開拓者精神」や「挑戦」につながりますね。 昨今はどの企業も欧米型の経営を志向して、どちらかといえばドライなスローガンがあふれているように思います。そのせいか、古川社長が真っ先に「信頼」を掲げられたのは、かえって新鮮に映りました。どれも時代に合った言葉ですが、根本の精神をたずねてみると、100年前とそう大きく変わっていない。いたずらに欧米型が志向されるなかで、日立さんのような総合力をもつ企業が、和の精神を忘れずにいるというのは大変心強く思います。 こんなふうに素晴らしいと感じ入るのも、私が外資系企業にいるせいかもしれません。あまりに日常がドライなものですから(笑)。 古川たしかに日本型か?欧米型か?という見方もできますが、私どもにとって、変えてはならない価値があるという点が大切なのです。実際のビジネスでは、物質的にもマーケット的にも、また人の行動でも、激しい変化のなかにあります。グローバルの視点からみても、ある部分は欧米型で進め、ある部分は日本型で進めるといった具合です。 眞柄そのバランスですね。 古川必要に応じて、異なるものをうまくミックスし、バランスよくやっていく。欧米型を否定して日本型に戻るという意味よりも、「100年前から受け継がれてきた我々の原点に回帰しよう」という発想のほうが大きいですね。
眞柄100年の歴史とは比較になりませんが、私どもマイクロソフトも日本法人ができて今年で20周年です。その意味では、節目の年を迎えています。 古川昨年マイクロソフトさんのCEOサミットに呼んでいただいたときに、大変興味深いお話が聞けました。スティーブ・バルマーさん、GEのジェフリー・インメルトさんなど世界屈指のCEOたちとパネルディスカッションで話したのですが、GEのような100年企業でも、マイクロソフトのような30年企業でも、みんなに共通しているのはイノベーションが大切だということでした。「100年もつづくと大企業病になる」という話が出たら、「いや、20年だって大企業病にかかる」と。年数の問題でなく、組織は常に停滞するおそれがあり、経営者はいつでもイノベーションを意識しなくてはいけないということです。 日本企業でイノベーションというと、何か突然新しいことをやらなくてはいけないというような強迫観念があるんです。その点、アメリカの経営者たちは、イノベーションが当たり前、日常的に考えていることなんですね。あの会話は強く印象に残りました。 眞柄スティーブ・バルマーも、それは口癖のように言っています。 古川CEOというのは、今日明日のことを考えていてはダメだと。極端な話、将来のことを考えてイノベーションだけやっていればいいんだと(笑)。あれは勉強になりました。 眞柄古川社長は、中長期の重点項目をいくつか掲げられておられます。たとえば、設備投資4,000億円規模を数年つづけるとか、研究開発投資を売上高の4.5%前後で維持するとか。そこで、中長期ビジョンについて、詳しくお聞かせいただけますか? 古川いまの日立グループには多くの事業があり、大きく分けると、社会基盤、産業基盤、生活基盤に根ざした3つの事業があります。この3つを支えるものがIT基盤であり、各テクノロジーに根ざしたコンポーネントの製品があります。 業種ごとに分けた3つの縦軸を、IT基盤が支えることにより、それが化学変化を起こしてテクノロジーの横軸が生まれる。それぞれが結びついてシナジーを上げていくことが当社の基本戦略です。私どもは「コングロマリット・プレミアム」と呼びますが、日立グループならではのシナジーが出てくる企業体をめざすのが当面の課題です。その方向性を共有し、次なる100年に向けて進み出そうとしているところです。 グループのなかには、ハードディスクや薄型テレビといった苦戦中の分野もあります。しかし将来的に高いレベルでシナジーを生むためには、それらの製品も必要なのです。いまは歯を食いしばって頑張る時期ということですね。 眞柄ITがビジネスを支えることがイノベーションの起爆剤になるのでしょうか。 古川そうなりますね。日立グループの研究開発部門は約1万人の精鋭部隊ですが、ここがグループ内にイノベーションを起こす牽引役を担っています。テクノロジー、プロダクト、ソフトウェア的なアプリケーションやサービス・・・と、イノベーションを起こす触媒はいろいろあります。 イノベーションを意識した新しいビジネスモデルを考えるのも研究開発の役割です。いまは事業部だけでなく、研究所もビジネスを強く意識しなくてはなりません。研究成果が製品化に結びつかない“死の谷”は埋めなくてはなりません。研究から事業化まで一気につなげる。このときにITが果たす役割は非常に大きいですね。 少し前までITといえば省力化の道具でしたが、最近はクリエイティブなバリューを創造する重要なツールとなっています。これなしにイノベーションは起こせないでしょう。 眞柄先ほど「コングロマリット・プレミアム」と言われましたが、それはイノベーションの結果として、グループの総合力を最大限に高めるということでしょうか。
古川そのとおりです。わかりやすい例で言いますと、去年から私どもはセキュリティ関連で生体認証の技術を提案しています。その1つは、指の静脈を使った生体認証で、「指静脈認証」と呼んでいるものです。この技術を確立したのは何年も前のことですが、具体的なアプリケーションとして何ができるか、そこをずっと模索してきました。最近、生体認証の重要性が一般に知られるようになり、私どものテクノロジーが製品として活かされる出口がいくつも見つかっています。 最初は銀行ATMの個体認証から出発しました。最近ではマンションのセキュリティシステムが進化したITマンションにも活かされています。日立グループにはエレベーターなどの昇降機事業もありますから、ここでセキュリティシステムとエレベーター等を結び付けることによって、具体的なアプリケーションとなるのです。 ATMやITマンション、それからパソコンへと広がり、いまは自動車分野でも活用の道は開けています。車上荒らしなどの盗難が増えたことから、ドアノブに指をかければとたんに持ち主かどうか認証できるようなキーの開発が求められてきたのです。 1つのテクノロジーが多方面でアプリケーションを生み、製品化されていく。これが「コングロマリット・プレミアム」のわかりやすい例です。 眞柄業種を超え、1つのテクノロジーから多種多様なアプリケーションが派生する。 古川そうですね。1つの技術が様々な業種業態に活かされる。それが可能になったのも、様々な業種や業態を横断的に結ぶITがコモディティ化したおかげです。Windowsの貢献は非常に大きいですよ。 |
1)創業100年を迎えて見つめ直す企業にとって“変化”とは何か
4)いまの学生たちが社会人になればIT利活用も一気に進展する
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