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エグゼクティブ対談 【第16回】岡山淳氏 (総務省中国総合通信局 局長)

ユビキタスネット社会が新しいコミュニケーションを築く(1/3)

※ゲストおよびインタビュアーの所属する組織名、役職等は、インタビュー時の雰囲気をお伝えするため、対談当時の組織、役職を表記しています。

ユビキタスネット社会が新しいコミュニケーションを築く 岡山淳氏

あらゆる人とモノがつながるユビキタスネット社会

眞柄私どもは中国地方とたいへん縁が深く、岡山市では2002年から「情報水道構想」やブロードバンド・スクールに参加させていただき、2003年には地方版「岡山経革広場」もスタートしています。また、広島大学とは2004年からアクセシビリティ分野とセキュリティ分野で共同活動に取り組んでいます。そういった縁もあって、このエグゼクティブ対談でも過去に3回ほどこちらへお伺いしました。本日は中国総合通信局の岡山局長に、「u-Japan」政策を中心とする現在の活動や今後の展望などについて伺いたいと考えています。

 まず「u-Japan」政策についてお尋ねしたいと思います。わが国では2001年に首相直属の諮問機関であるIT戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)が「e-Japan戦略」を打ち出し、「2005年までに日本が世界最先端のIT国家になることを目指す」という目標を掲げ、インフラ整備を中心に驚くべきスピードで数多くの施策を実現してきました。今年は「u-Japan」政策が「e-Japan戦略」につづく次の展開として打ち出されましたが、その背景と経緯はどういったものだったのでしょうか?

岡山ご承知のとおり、「e-Japan戦略」は当初インフラ整備に重点を置き、その計画はかなりのスピードで実現されていきました。早々に目標が達成できそうだということで、2003年に第2フェーズを意味する「e-Japan戦略U」がスタートし、医療、食、生活、知など7つの重点分野を定めて、IT利活用の推進に焦点を当てて取り組んできました。

 総務省では2004年に「e-Japan戦略」の成果を振り返りながら、次は何に取り組んでいくべきかを話し合ったわけですが、その議論から出てきたのが「u-Japan」です。2006年以降も世界トップのIT国家を維持していくと同時に、2010年の社会で情報通信技術がどのような役割を果たしていくかというビジョンを描いています。

 今年1月にはIT戦略本部から「IT新改革戦略」が打ち出されましたが、副題に「いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現」と謳われています。これは「u-Japan」政策のキーワードである「ユビキタス」につながります。私たちの活動からいえば、「IT新改革戦略」の下で「u-Japan」政策を推進していくと位置づけることができるでしょう。

眞柄「e-Japan戦略」の「e」が「u」に変わったわけですが、どのような理念の違いがあるのでしょうか?

岡山「u-Japan」政策の理念は4つの「u」で表されます。そのうち最も大きな位置を占めるのが「ユビキタス(ubiquitous)」です。これはラテン語で「至るところにある」「遍在する」という意味で、神様はすべての物に宿っている、ということからきている言葉だそうです。情報通信の分野では、いつでも、どこでも、何でも、誰でも情報ネットワークに簡単にアクセスできるという状況を示しています。

 その対象は、人間に限られたわけではありません。コミュニケーションというと、従来は人と人のあいだにあるものという捉え方が一般的でしたが、ユビキタスネット社会では、人とモノ、モノとモノにまでコミュニケーションの領域を広げています。

 たとえば、道を歩いているときに道路の障害物があると、それがネットワークを通じて察知できれば、事前に回避することができます。これが人とモノとのコミュニケーションです。モノとモノであれば、冷蔵庫と内部の食材がコミュニケーションして賞味期限が表示される、というようなことです。このように「u-Japan」では、あらゆる人とモノがネットワークで結ばれている社会が描かれています。

眞柄2010年までにそのようなユビキタスネット社会を実現させるのが「u-Japan」の大きな目標ですね。理念を表す残り3つの「u」は何でしょうか?

岡山2つ目の「u」は「ユニバーサル(universal)」です。人に優しいネットワーク社会、心と心が触れあうコミュニケーションを実現するという意味です。情報通信機器というと、一般の方でもまだ操作や取り扱いに難しいところがあります。たとえば、機器と機器をケーブルで結ぶときは、私たちでも間違えて何度もやり直すことがあります。まして、お年寄りや身体の不自由な方には容易なことではありません。

 そういう難しさを意識しなくてすむように、操作や取り扱いが簡単にできる機械やネットワークに変えていく。一般の方はもちろん、お年寄りや身体の不自由な方たちも、情報通信の便利さを十分に享受していただき、格差の少ない、安心して暮らせる社会にするというのが目標の1つです。

 3つ目の「u」は「ユーザー・オリエンテッド(userーoriented)」です。供給者側からの発想でなく、ユーザーの利便性をより強く意識した社会を築いていくということです。ネットワーク社会では、利用者でありながら供給者になることもありますから、国民すべてが「プロシューマー(消費者であり専門家である人)」になるというのも大切なことです。

 4つ目の「u」は「ユニーク(unique)」です。これはネットワークによって個の活力が生み出され、そこから社会全体が活性化することを目指しています。つまり、創造力の発揮です。新しい社会システム、新しい商品やサービスが次々に創出され、画一的ではない特色ある地域再生が実現するということです。自由な発想や知恵が結びついて、社会全体が元気になっていくことが「u-Japan」の目標でもあるのです。

 これらは「u」が4つなので「フォー・ユー(for you)」と呼んでいますが、以上のような理念とビジョンを掲げているのが「u-Japan」政策です。

 「e-Japan戦略」が目指した段階では、まず各家庭に光ファイバーやADSLを引き、高速でインターネットを利用できるようにするというのが目標でした。「u-Japan」になると、利用者は有線であろうが無線であろうが関係なく、何でネットワークにつながっているかを意識しなくてすむようになります。この状態を「シームレス」と呼びますが、利用者はインフラについて詳しく知らなくてもいいことになります。その代わり、ネットワーク側で適切な情報の流れをつくっていく仕組みだと考えていいでしょう。

 そういったユビキタスネットワークを活用して、高齢者が暮らしやすい社会、食の安全や医療の発達など多くの問題を解決した社会を2010年までに築こうというのが「u-Japan」政策です。

ブロードバンドの空白地帯をなくし新たな地域活性化を目指す

眞柄「e-Japan」のときはインフラ整備など計画が速やかに進みましたが、それは国や地域またはIT業界が引っ張っていたという印象がありました。必ずしもそこに利用者の視点は強調されていなかった気がします。したがって、IT利用の格差が富の格差を拡大するデジタル・ディバイドの解消を目標に掲げながらも、いまひとつ成果がはっきり見えなかったところがありました。

 その点「u-Japan」は利用者の立場が強く打ち出されていますね。シームレスの話などは象徴的です。どこでネットワークにつながっているかを意識したとたん難しくなる、という発想は大切ですね。利用者の視点が前提になっているのは、大きな違いだという感じがします。

 そのような理念とビジョンの下、2010年まで具体的に何を進めていかれるのでしょうか?

岡山私たち地方総合通信局の立場からいうと、まずはインフラ整備を完全にすることが重要なんですね。なるほど「e-Japan」でインフラ整備はひと通りのレベルに達しましたが、中国地方に限らず、地方と呼ばれるところをよく調べてみると、実はそのインフラも空白地域があることがわかってきます。

 たとえば中国地域のブロードバンド整備状況ですが、山間部などにはいまだにまったくブロードバンドが届いていない地域がみられます。あらゆる人が意識しないで使えるネットワークは、その大前提として、まずは全国隅々まで行き渡った状態にしなくてはいけません。そうなると当然、デジタル・ディバイドの解消が私たち地方局として第1の課題になります。

 いまも地域によってはNTTの電話局に「インターネット接続はISDNで」という幟がはためいるのが現実です。自治体の補助金などによってそのような地域は着実に減ってきましたが、その一方でADSLは電話局から2〜3キロといった制約があるために、実際の空白地域というのは意外と大きいわけです。

眞柄国や自治体は「e-Japan」でかなり進んだとはいえ、設備投資などのコスト負担を含めてまだ若干のハードルがあるということですね。

岡山ネットワーク整備は1985年の電気通信事業の自由化以来、基本的には各事業者に頑張ってもらって成果を出してきたわけですが、山間部ではやはり経営的な観点からみても、整備がなかなか進んでいないのが現状です。そのような地域について支援していくのは私たちの重要な仕事です。

 その1つとして、「地域公共ネットワークの整備」を推進してきました。自治体の中に光ファイバーのネットワークを張り巡らせ、図書館や公民館などの主に公的な施設で住民の方々に活用していただけるようになっています。たとえば、近くの公民館へ行って健康相談ができるようなネットワークづくりも、補助金で支援して整備されてきました。

 これは第一義的に、役所や公共機関をつなぐネットワーク網として構築されてきました。せっかく引いた光ファイバーですから、電気通信事業者あるいはケーブルテレビ事業者にも開放し、広く活用してもらおうという動きになっています。2006年度以降は従来の補助金よりも使いやすい交付金の形で、自治体の考えや住民のニーズを踏まえたうえで、公共的な利用に限定しないで、ともかくブロードバンドの空白地帯をなくしていくことを目指す、そして民間にも活用してもらうというのを大きな目標としています。2010年までにブロードバンド・ゼロの地域をなくすことが「IT新改革戦略」にも「u-Japan」にも織り込まれています。地方局としては、そこが第一義的な目標になります。

眞柄コストの面では、無線を使ったワイヤレス・ブロードバンドのネットワーク網はメリットが大きいと思いますが、中国地域の進捗はいかがですか?

岡山おっしゃるように今後はワイヤレス・ブロードバンドも大きな役割を果たしてくるはずです。光ファイバーを引くのは土木工事なんですね。つまり、それだけ高コストになる。その部分を省けるのは大きいですから、無線の活用はとくに山間部のネットワークづくりでは有効です。

眞柄山間部でもブロードバンドのニーズは高いでしょうから、コスト面などで効果的な方法を探っていくことは課題ですね。

岡山それに関連した話ですが、今年度、広島県廿日市市の吉和地区である実験をおこなっています。吉和地区は廿日市市の山間部にあって、同じ市内でも海岸部はすでに光ファイバーが整備されているのに、こちらのほうはまだ届いていないという地域です。そこで光ファイバーを引く部分を最小限にし、光ファイバーから先はすべて無線LANでつないでいく実験をはじめました。

 吉和地区にはスキー場もあり、商売をやっている方々も多くいます。ブロードバンドを引いてほしいという要望が強かったところですが、これまではコスト的に合わないということで実現していませんでした。

 この実験は、地元の方々にも大変よろこばれ、改めてブロードバンドに対するニーズが高いことを実感できました。低コストで設置できる方法が確立できれば、他の地域にもぜひ普及させていきたいですね。

眞柄スキー場や観光地などは、仮に住民が少なくても、情報通信は必要でしょうね。外から人が集まってくる場所ほど、その威力が発揮されるはずですから。

岡山吉和地区はスキー場があったからニーズが高かったのですが、逆にブロードバンドがあるから何か新しいことがはじめられる、ということも現地で感じました。何か産業があればブロードバンドは必要ですし、新しい産業を興すうえでも必要なんです。

  123 対談の続きへ

対談目次

1)あらゆる人とモノがつながるユビキタスネット社会

2)ブロードバンドの空白地帯をなくし新たな地域活性化を目指す

3)地方は情報資産の宝庫 情報の一方通行を是正する

4)地上デジタル放送の発展に大きな経済効果を期待する

ゲスト:岡山淳氏
総務省中国総合通信局 局長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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