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エグゼクティブ対談 【第15回】中島博氏 (岡山県中小企業団体中央会 会長)

地方経済の未来を担う次世代リーダーの条件(2/3)

インフラは整備されても活用面からの普及策が必要

眞柄先ほど中島会長から、IT活用に積極的な企業は業績が伸びている、というお話がありました。私もそのとおりだとは思いますが、中小企業のIT化推進には難しい部分もあります。テクノロジー中心に走ってしまうと失敗することが多いんですね。ITはあくまでツールですから、テクノロジーばかりが強調されると、肝心の活用面がついていかないことがあるわけです。

 私どもは、ITが発揮する利便性や革新性について、現実的な事例を通して理解していただこうと活動をつづけてきました。その一環として「経革広場」が誕生し、その地域版第一号として「岡山経革広場」が2003年夏にスタートしています。

 地域版経革広場はその後、兵庫、福岡、東京の荒川と広がりをみせました。そのさきがけとなった岡山経革広場は岡山県中央会に事務局が置かれ、中核となって運営を進めていただいています。

 経革広場はもともと、中小企業のビジネスマッチングの場であり、インターネットを通じてビジネスチャンスを広げていただこうという意図でスタートしました。現在の岡山経革広場は、県下の中小企業にとってどのような位置づけになっているでしょうか?

中島岡山経革広場は、中小企業の創業や経営革新の支援を目的にスタートしています。地域がもつ力を押し上げようと官民16団体が連携し、“地域密着型のポータルサイト”として全国に先駆けて誕生したわけです。

 当初は岡山県電気工事工業組合の青年部を対象としていましたが、これがきっかけとなって多くの産業に広がりました。現在は12業種(建設、管・水道工事、SOHO、繊維、自動車関連、旅館、食品関連等)と1大学(岡山大学)、岡山食材市場(フーズインフォマート)の連携により展開し、最終的には全産業を網羅したいというのが希望です。

 会員数でいえば、設立時は4300会員だったのが、現在は8000会員まで伸び、地方版の多量なページサイト(約24000)という点から業界でも注目されています。私たちの上部団体である全国中央会も、このサイトには強い興味を示しています。近隣の他県中央会でも、積極的に取り組もうという動きがにわかに出ています。中四国地方で一つのネットワークが構築できれば、そこから全国へ普及するかもしれません。そうなれば、岡山経革広場の本来のミッションが果たされるわけです。岡山から全国へという広がりは、私たちの願いですね。

 ビジネスマッチングでは、造船や自動車、農機具などものづくり企業群との取引に期待が寄せられます。参加企業がネットワークで連携し、大きな仕事をユニットで受注することも視野に入れて動いています。

眞柄地方発の大きな動きに発展しそうですね。中島会長は東京へ出られることも多いと思いますが、IT活用の面で中央との格差みたいなものは感じておられますか?

中島政府のe-Japan戦略や岡山市の情報水道構想などが進展したおかげで、インフラ整備の面ではかなり差は縮まっていると思います。ただ、その進展があまりに急速なせいか、活用面では地方は少しテンポが遅いという印象はありますね。ネットワークは光ファイバーになっても、企業や個人がうまく活用しきれていない。長らく不況がつづいたという背景もありますが、こちらの期待に比べるといまひとつ活発な動きにならないという不満はあります。

眞柄そこは難しいところですね。私どもはIT実践塾やセミナーなどで、利用方法のトレーニングを無料で提供してきました。ずっとつづけてきて感じるのは、本格的に活用してもらうのは難しいということです。特に海外の事情と比べると、その実感は大きいですね。

 例えばカナダなどでは、確定申告の際にパソコンを使う必要があってIT化が格段に進んだといわれます。アメリカでは流通大手のウォルマートが仕入れの会社とのあいだで電子商取引をルール化し、中小企業のIT化が進んだという話もあります。

中島「もっとITを活用しなさい」という掛け声だけでは進まないのでしょうね。ある程度の強制力は必要かもしれません。ITを使わないと困るような状況が生まれれば、一気に普及していくのでしょう。最初は苦労しても、長い目でみたら、そのほうが企業の効率化に役立つということは考えられます。

 ナカシマプロペラでもCADを使って製品を設計していますが、自社内ではすぐに普及できても、協力会社にまでCAD活用を求めるとやはり抵抗があるんですね。

眞柄納税の際に電子的な手続きなら一部控除を受けられるとか、電子取引の奨励等のIT化を後押しするような施策は必要なのかもしれませんね。

中島何かをきっかけに使いはじめれば、ITはツールとして間違いなく便利ですから、あとは自然と普及していくのでしょうね。

最先端の技術を支える職人技は人間を通して受け継がれていく

眞柄日本経済は多くの中小企業によって支えられていますが、なかでも中小の製造業には卓越した技術をもつ方が大勢いらっしゃいます。岡山県には鉄工、化学、造船、自動車関連などの幅広い産業を有する水島コンビナートがあり、その一方では紡績をはじめとする繊維産業の先進県でもあります。私なども“優れたものづくりの地域”というイメージは強いのですが、長年ものづくりに心血を注いでこられた中島会長からみて、これからの企業や地域の取り組み、人材育成などはどうあるべきでしょうか?

中島産学官の連携などが進めば、地域のものづくりがさらに発展していくことは間違いありません。たとえば倉敷ファッションセンターにみられる伝統産業の繊維などは、研究次第でいくらでも発展の可能性があります。アパレル産業としてデザイン力を強化し、付加価値の高い商品を全国へ発信することは期待できます。

 しかし一方で、心配な面もあります。基礎研究ができる大学の学部が減り、学生たちは流行りの学部ばかりを目指す傾向が強くなっていることです。病理学あっての臨床医学と同じで、ものづくりには基礎研究が不可欠です。この状況が進めば、ものづくりの活力が衰えてしまうことも心配されます。「ものづくり県岡山」の気概はまだありますが、後継者不足など伝統継承では課題が多いこともまた事実です。

眞柄どの地域も同じ課題を抱えていますが、その点ではやはり厳しさはありますね。長年培ってきた技術やノウハウをどう伝承していくかは、今後ますます大きなテーマになると思います。

 私はナカシマプロペラさんの工場を見学させてもらったとき、非常に感動したことがあるんです。タンカーなどに使用する直径何メートルもある大きな船舶用プロペラの製造ラインでしたが、それこそITを駆使し、自動化技術の進んだ最先端のものづくりが進められていました。ところが、そのなかでもっとも重要な最終工程では、ベテランの職人さんが手をつかって金属の表面を磨いていく。その熟練した手作業で仕上げないとプロペラは完成しない、と説明されて驚きました。まさに匠の世界ですね。

中島プロペラの仕上げ工程は、100分の1ミリ単位で調整が必要です。それができるのは人間の手だけです。どんな精密加工の機械をつかっても、まだ職人の手にかなわない。これは自動車のボディ成型でも同じです。

 当社は極めて高い精度が求められる特殊なプロペラもつくっています。そのような製品は、水中でプロペラの回転音や水流の音が出てはいけない。もし不具合があったら、聴診器を当てて音の原因を調べるという世界です。

眞柄すごいことですね。どれだけITや自動化が進んでも、最終的な品質を決めるのはアナログ的な職人技というところに私は感動を覚えました。最近のビジネスでは見失われがちなベテラン社員の経験と勘が、最先端のものづくりではまだまだ力をもっているわけですね。

中島企業はITなどを使って、そういうベテラン社員たちの技能を早く機械化したいと考えています。それが“技能の技術化”です。しかし、まだ技術のほうがそこまで追いついていない。まだ当分はアナログ的な職人さんたちの技が必要とされるでしょう。

眞柄そうなりますと、その技術やノウハウは人間を通して伝播していくより方法がありませんね。強い伝統を守るためにも人材育成が重要になると思いますが。

中島そのとおりです。実は昨年10月に開催された岡山国体に合わせ天皇皇后両陛下が岡山におみえになり、11月には皇太子殿下が当社工場におみえになりました。先にお話ししました仕上げ工程の職人が技能についてご説明させていただきましたが、皇太子殿下が「若い方々をしっかり教育してください」とおっしゃられて、職人本人はたいへん感激していました。「若い社員たちはまだまだ未熟だから、定年延長して教えなくては」と張り切っていますよ。

眞柄そのお話をうかがいますと、少子高齢化社会に突き進んでいくなか、年齢で画一的に退職しなくてはならないというのは考えものですね。本人に働く意志があって、また会社が必要としているなら、いつまでも働けるというのが望ましいでしょう。昨今は、団塊世代が定年を迎える「2007年問題」が注目されていますが、後進に道をゆずるのでなく、後進の育成を意識して、もっと積極的にご自身の能力を活用していただきたいですね。

中島そうですね。彼らがもし定年延長できるなら、若い世代に技術やノウハウを伝承する時間がつくれます。60歳で会社を去るのは実にもったいないですよ、いまの60歳は昔とはまるで違いますから。2007年問題は厚生労働省や経済産業省だけで対応するのでなく、文部科学省など各省が一致協力して取り組む問題でしょう。

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対談目次

1)中小企業の団体をサポートし地域経済の活性化に貢献する

2)景気回復が進むにつれて個別企業には業績の差も

3)インフラは整備されても活用面からの普及策が必要

4)最先端の技術を支える職人技は人間を通して受け継がれていく

5)次世代リーダーに必要なバランス感覚と交渉力

6)実体験を通した職業教育が若者に真の職業意識を育む

ゲスト:中島博氏
岡山県中小企業団体中央会 会長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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