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エグゼクティブ対談 【第14回】飯塚真玄氏 (株式会社TKC 代表取締役社長)

徹底して他(お客様)を利すること。自らの利は結果である。揺るぎない経営哲学と、時代を読む力(1/3)

徹底して他(お客様)を利すること。自らの利は結果である。揺るぎない経営哲学と、時代を読む力 飯塚真玄氏

人生と職業を一致させる「自利利他」という考え方

眞柄TKCは、会計事務所と地方公共団体への情報サービスを手がけられており、全国9300の会計事務所と、その先約58万社もの企業とのあいだにオンライン・ネットワークを構築され、その事業を支えられているとお聞きしています。また、併せて全国372市町村にもTKCのシステムは納入されているとうかがっています。

 日本の行政、中小企業を陰で支える縁の下の力持ちのような存在でいらっしゃいますが、社是として「自利利他」という言葉を掲げられていますね。「自利トハ利他ヲイフ」と読み、自分の利益は、他人の利益を実現することの中にある、という意味です。

 実はこの言葉が、マイクロソフトのミッション・ステートメントである“We work to help people and businesses throughout the world realize their full potential.”(世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を、最大限に引き出すための支援をする)と大きく関係しているとか。

飯塚2002年6月のことですが、米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOが当社をお訪ねになる機会があったんです。私どもが1時間くらいプレゼンテーションをして、そのあと当社の顧客のためのセミナーを一緒にやりましょうというお話でした。

 当時、私はマイクロソフトに対して、「パソコンを1人1台にしようとしている会社」という程度のイメージしかなかったので、当社についてどう説明したものか悩んでいました。ところが、たまたま見かけた『ビジネス・ウィーク』誌にバルマーさんの記事が載っていて、そこにミッション・ステートメントは“We work to help people and businesses throughout the world realize their full potential.”であると書いてあった。

 私は、これはすごい言葉だと思いました。そして、当社の創業以来の社是である「自利利他」という考え方にとても似ているので、きっとわかっていただけるだろうと思ったのです。“We work to....”と「自利利他」には相通じるものがあると。

眞柄そして実際に直接話されて、いかがでしたか。

飯塚この時バルマーさんはいくつかの日本企業をまわられ、特にTKCのプレゼンテーション資料に興味を持っていただいたとうかがい、本当に驚きました。そしてその翌月、アメリカでの基調講演で「自利利他」に触れられたそうです。

眞柄飯塚社長が感じられたと同じように、バルマーも大いに共感したのだと思います。

飯塚キリスト教文化のアメリカ企業と、仏教に由来する「自利利他」という考え方には大きなギャップがあると思っていたのですが、バルマーさんの言葉に触れた時、ベースとなる哲学は同じだと感じました。

 先日、ミネアポリスで行なわれた基調講演で、バルマーさんは新しいミッション・ステートメントとして“Your potential, Our passion”という言葉を使われましたが、短いフレーズを選ばれたのは、多少なりとも「自利利他」が影響したのかなと思っています。

眞柄このフレーズは昨年来、テレビコマーシャルでも使っていたのですが、非常に評判がよく、イメージアップにつながりました。それにしても、日米の企業トップ同士が、利害ではなく哲学で一致したのを、私は初めて見ました。

飯塚この「自利利他」は、私ではなく父の飯塚毅(故人/TKC創業者・TKC全国会初代会長)が社是としたものです。会長が16歳の時から師事していた植木義雄という臨済宗の老師がおられたのですが、この老師からある時、「自利利他の行に励め」という言葉を戴いたわけです。

 会長は「自利利他とはなんだろうか」と繰り返し自問していたようですが、それが最澄伝教大師の本で解けた。1966年に会計事務所の旅行で比叡山を訪ねたのですが、その時に土産物屋で買った本に「利他をもって自利となす」と解説されていたんです。  そして、この「自利利他」を人生と職業を一致させるための1つの考え方として位置づけ、社是にしたわけです。

国と納税者から独立した立場を守り最高のプラクティスを凝集した全国会を組織

眞柄飯塚会長といえば「飯塚事件」の中心人物であり、高杉良さんの小説『不撓不屈』のモデルですね。一般的には「国家権力と戦う税理士」というシンプルな見方をされていますが、飯塚社長は会長について、どのような創業者であったと思われていますか。

※長く税務当局と論争を繰り広げてきた税理士・飯塚毅氏は1962年に税務当局を相手に訴訟を起こす。当局は逆に飯塚氏に圧力をかけ、関与先法人の徹底的な調査などの嫌がらせを続ける。ついに飯塚事務所の4人の職員が逮捕されるが、飯塚氏は徹底抗戦。国会審議に持ち込んで税務当局に勝ち、4人の職員も無罪となった。この経緯を描いた高杉良の小説『不撓不屈』(新潮社)は映画化され、今年公開の予定。

飯塚飯塚会長は1946年に会計事務所を開業したのですが、当時の世の中は戦後の不況で、インフレの嵐が吹き荒れていました。そのなかで税務当局は苛斂誅求なまでの税の取り立てをしていたんです。特に1952年から63年ごろにかけての10年ほどはそれが顕著で、所得税を回収する時に家屋敷を差し押さえて、家財道具をすべて持っていくくらいのことをしていました。

 しかし日本人というのは忠誠心が厚いのか、政府のすることに対しては素直に従う。つらくても、それがお国のためなら仕方がないと考えてしまうところがあるんですね。それをいいことに、当時の税務当局は横暴といってもいい振る舞いをしていたのです。

 1949年に巡回監査という手法を開発して大成功を収めていた会長は、こうした状況に疑問を持ちました。税理士として納税者の付託を受けている立場からすると、納税者を守らなければならない、という使命感があったんだと思います。会長は、税務当局に立ち向かうために、「租税法律主義」を前面に押し出しました。犯罪者を裁く時には、罪刑法定主義といって法律に基づいて判断されますよね。それと同じで「国は課税権を行使する際に、税法に基づかなければならない」という考え方です。そして、その法律の範囲を明確にしようとしたわけです。

 ひと口に法律といってもさまざまなものがありますが、まず国会で決められた「法律」と内閣の命令である「政令」、そして省庁が下す「省令」が含まれます。しかし、国家行政組織法に基づいて出される「通達」は法律には当たりません。ところが税務当局は、これを根拠に課税権を振りかざしていました。

 会長はそうしたケースに対して異議申し立てをしたり、裁判に持ち込んだりして納税者を守りました。当局が圧力をかけてくる、いわゆる飯塚事件が起きるまでに会長が手がけたケースは約600件もあったのです。

 もう1つ、当時の税務当局は、税理士を自分の下請け機関のように見なしていました。これはまさに勝手な思い込みなのですが、それに諾々と従っていた税理士も多かったのは事実です。しかし会長は、税理士はあくまで中立的な立場であるという姿勢でした。飯塚事件は国会審議に持ち込まれたのですが、この時に会長は「独立の立場」という言葉を使っています。

 税務当局に媚びを売らず、納税者にも妥協をせず、法律の精神に基づいて国民の義務である納税をする――それが会計人として正しい生き方だという姿勢を貫いたんです。本当に、妥協のない人でした。

眞柄「自利利他」という考え方は、そうした経験も背景にあるわけですね。

飯塚時期的には、植木老師から「自利利他の行に励め」という言葉を戴いたのが飯塚事件の直前で、比叡山で最澄大師の本に出会うのは事件直後の1966年ですね。

 まあ、事件の最中は税務署や警察署から3000人ものスタッフが飯塚事務所や関与先企業の調査に乗り出してきていますから、「利他」どころではなかったと思いますが(笑)。

 飯塚事件が一息ついた1966年に、飯塚は栃木県計算センター(現TKC)を設立し、71年にTKC全国会を組織します。飯塚はそれまでの経験から、税理士は孤立していてはいけない、助け合わなければならないと考えていました。また、理論武装と、最高のプラクティスをシェアし実行できる環境が必要であり、そのためにITを駆使しようと説いていたんです。

 その考え方に共感した人たちがTKC全国会に集まってきて、飯塚が培ってきた職業会計人としての哲学を学び、自分たちの仕事に生かしていこうとしたわけです。「自利利他」というキーワードを初めて公にしたのは、このTKC全国会の設立の時でした。

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対談目次

1)人生と職業を一致させる「自利利他」という考え方

2)国と納税者から独立した立場を守り最高のプラクティスを凝集した全国会を組織

3)創業時の事業目的をかたくなに守りつつ時代の変化に合わせてパラダイムを転換

4)日本版SOX法の導入で新しいマーケットが生まれる

5)社員にとって一番のモチベーションは「自利利他」を実感すること

ゲスト:飯塚真玄氏
株式会社TKC 代表取締役社長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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