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経営を語る

エグゼクティブ対談 【第12回】西岡郁夫
(モバイル・インターネットキャピタル株式会社 代表取締役社長)

長所に気づき、ほめることが人と企業を育てる(3/4)

企業とITベンダーの関係を変えていかなければならない

眞柄ところで西岡さんはITコーディネーター協会にたいへん積極的に関わっておられますね。理事として業務開発広報委員長を務められたり、内部で強く改革を訴えたりされているわけですが、これはMICの仕事とリンクしていると考えてのことでしょうか。それとも何か別の使命感をもってやっていらっしゃるのでしょうか。

西岡1つには、もうそろそろ世の中にお返しをしなければならないということがあります。インテルにいた頃――55歳くらいのときですが、ある方から早稲田大学の非常勤講師を頼まれたんですね。しかし忙しかったし、私自身、早大出身ではないこともあって、一旦はお断わりしました。するとその方に、「あなたはそろそろ世の中に恩返しする歳だよ」と言われたんです。その言葉で思い直してお引き受けし、3年間務めました。

 それ以来“社会への恩返し”ということを常に考えるようになって、いまでも3つの大学の客員教授をしています。仕事もあるので本当に大変ですが、たしかにそういう年齢なんですよ。ITコーディネーター協会での活動も、ある意味ではその延長線上にあるわけです。

 もう1つ、企業とITベンダーの関係を変えていかなければならないという問題意識があります。ITベンダーはかつて、企業にオフコンを売りまくりました。それを動かすためにSEを客先に送り込み、ときにはそこの社員に転籍させることまでやって企業を囲い込んできたわけです。当時のオフコンには、ほとんど活用されず、いまではホコリをかぶっているのが多いとも聞きます。囲い込まれた企業が次期のIT化を考えるときにも、このITベンダーとの関係がしがらみになり、一度囲い込まれると逃げられません。その会社の真の経営課題を解決できないまま無用なシステム投資になけなしの金を浪費することになるんです。

ITベンダーに一度囲い込まれると、企業は逃げられません。次期のIT化を考えるときにも、会社の真の経営課題を解決できないまま無用なシステム投資になけなしの金を浪費することになるんです。

 またインテル時代の旧い話になって恐縮ですが、幹部会でインテルの受注管理システムは使えないというクレームが営業部門から上がったんです。当時のインテルは受注をメインフレームのバッチ処理で管理していましたから、データを入れても処理に時間がかかる。客先に対しては、「これからはクライアント・サーバの時代だ」といっているのに、自分たちはまだメインフレームで仕事をしているのはおかしいと。

 そこでERPを導入することになったのですが、社内には世界的にも強力なシステム部門あります。当然、「すでに計画中だ」と開発の名乗りを上げたのですが、「自社開発は時間が掛かり、開発後はメンテナンスに金が掛かり、しかも世の中のベストプラクティスが組み込まれないインテル特有のシステムになってします。自社開発を放棄して市場に売られているパッケージ・ソフトを導入しよう」と営業部門が主張しました。数時間の激論の結果、営業部門の主張が通りました。

 導入プロジェクトは営業部門トップがリーダー、システム部門長がサブ・リーダーを務め、大成功を収めました。インテル(株)の成果は商品在庫が1/60になったことに加え、商品は成田の通関を終えると顧客の倉庫に直送され商品倉庫そのものが不要になりました。大成果でした。そして最も大切な成功要因は、IT化を目的にせず経営分析を徹底的にして経営課題となっていた受注業務を抜本改善する戦略を全社で決定し、プロジェクトの音頭をその業務のトップに取らせたことです。

眞柄ITに詳しいシステム部門ではなく、現場を知っている営業部門が音頭をとったわけですね。「何のために」という目的がはっきりしていたからこそ、新しいシステムの導入がうまくいったと。

西岡つまり経営分析が先だということです。その企業の実態をきちんと分析して、初めて必要なITが浮き彫りになる。経営者にはそこに気づいていただきたいですね。

 そういう経験を日本の企業にも伝えたいという意図もあって、私は中小企業の社長と直接話す機会をつくってきました。ITコーディネーター協会の前身であるITSSPを立ち上げた方々と一緒になって全国を北から南へと行脚したモノです。全国の中堅・中小企業の経営者にITのセミナーを開いて回るのですが、セミナーのあとも参加した経営者の代表と一緒に晩ご飯を食べながら、経営とITについて徹底的に語り合ったものです。

眞柄そうした活動がITコーディネーター協会という組織でできれば、さらに幅広い啓蒙活動ができるでしょうね。その意味では、私はIT化による成功体験がもっと語られてもいいと思うんです。それが生きた教材になり、中小企業のIT化を促す起爆剤になるんじゃないかと。ところが不思議なことに、いくらでもあるはずの成功例が、あまり聞こえてきません。

西岡おっしゃるとおりですね。中小企業の中には良いITをもっているところがいくらでもあります。しかし、それが伝わってこないのは、経営者がきちんと評価できていないからです。多少効果が出ても、担当者をほめることはしません。「この程度は当たり前」と言うわけです。

 一方で失敗したという話はすぐに伝わる。だから日本のITはうまくいっていないんじゃないかという印象を、一般に与えてしまうわけです。これは大きな問題点ですね、

 その点、良いサンプルになるのが東海バネ工業です。顧客のニーズによって、バネ1本からでも作るという、冒頭で触れた大量生産・薄利多売企業の対局をいくような会社ですが、ITを組み合わせればもっと強くなれると経営者は考えた。ウェブサイトを通じて、「当社はこんなことができます」とアピールしたわけです。

 これが大当たりして売上げが伸びたのですが、そのとき社長はIT担当者をほめたそうです。「おまえら、すごいことをやったな」と。すると担当者は更にやる気が出て、もっと良いサイトを創る。その相乗効果で業績もうなぎ登りで、経済産業省が推進するIT経営応援隊の「IT100選最優秀賞」にも選ばれました。

 IT100選に選ばれても、あまり喜ばない経営者が少なくないのですが、同社の渡辺社長は違います。ITコーディネーター協会の年次総会でも経済産業省の講演会でも、声がかかるとどこにでも出ていく。それが動く広告の役割を果たして、同社への見学希望はものすごく増えた。見学が増えると実際の商品もアピールできるわけですから、それがまた売上につながっている。同社のIT化を成功させたのは社長の人間力だと思っています。

 ここまでの例は少ないにしても、成功しているケースは少なくありません。成功したなら、それを率直に認めて成果を讃えてやった方が、もっと成果が出ると思うのですが。

日本人は批判することはあっても、
ほめることは少ないですね。

眞柄なるほど。日本人は批判することはあってもほめることは少ない。そこが1つのカギになっているような気がします。アメリカのリトルリーグでも、コーチはオーバーなほど子どもをほめますね。でも日本ではまさに厳しい体育会系的な教え方しかしません。

西岡ITに限らず、人はほめられれば伸びるものです。私のゴルフだって、ほめてくれたらもっと伸びるのに。(笑)

 それと同時に、自社の中にある良いものを、きちんと評価できる目ですね。気づき、そしてほめることが大事なんです。

 ITコーディネーター制度の良いところは、ITベンダーとは違って中立的な立場で企業の経営分析が出来ることです。SWOT分析などは社内だけでは冷静な分析は出来ません。特に中小企業は社長が全てです。その社長を前にして社員が会社の弱さの分析など出来るわけがないですよね。その経営分析に基づいて、もしIT化が必須ならITコーディネーターは中立の立場で、経営者たちにIT化の必然性を説明していけることが決定的に重要なことです。

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対談目次

1)間違いなくやってきた中小企業の時代

2)株式公開を目指すのではなく公開後に株価が上がるような企業を目指す

3)企業とITベンダーの関係を変えていかなければならない

4)安易に海外進出を考えるより日本市場のなかで存在感を発揮したほうがいい

5)偏差値に染まったエリートより中小企業の2世3世に期待

ゲスト:西岡郁夫氏
モバイル・インターネットキャピタル株式会社 代表取締役社長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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