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エグゼクティブ対談 【第9回】清水康敬氏 (NPO法人ブロードバンドスクール協会 理事長)

開かれた教育現場とIT推進が、子どもたちによりよい学習環境を提供する(3/4)

学校と企業が連携していくことで子どもにいい学習環境が提供できる

眞柄清水先生はヨーロッパ、アメリカ、アジアなどを足しげくまわられ、世界各地の教育現場を視察されておられますね。日本に取り入れるといい教育のしくみやコンテンツは数多くあるように思いますが。

清水海外でもやはりITの進展は急速で、教育への効果的な活用法も数多くあります。先進的な事例やベストプラクティスは、文献でなく自分の目で見ることが大切です。その意味で、たいへん貴重な経験をさせてもらっています。また、日本にも先進的な事例はたくさんありますから、講演などで日本の状況も積極的にお伝えしています。

 小中高等学校の情報化に関しては、海外から学ぶところが多くありました。とくにブロードバンド化ではアメリカが政策的にいち早く進めましたから、現地で子どもたちがブロードバンド環境で学習しているのを見たときは、「このままでは日本の子どもは将来負けてしまうのではないか、次世代の能力で遅れをとってはいけない」という意識をもちましたね。

眞柄私も数年前、東京の調布市でアメリカンスクールを視察したときは驚きました。その学校ではパソコンが生徒1人に1台ずつあって、インターネットから引いてきた情報をもとにグループディスカッションするという授業形態でした。あのようなグループ単位の学習は、海外では一般的なのでしょうか?

清水アメリカでは、コンピュータ教室の整備とともにすべての普通教室で児童生徒がコンピュータが使える環境が必要だと考えています。これは多様な関心をもつ子どもたちをさらに伸ばしていく点で有効だと思います。学習意欲のある子どもは始業前、昼休み、放課後なども自由にパソコンを使えるわけです。どちらかといえば、1人で学習したい子どもをサポートする環境だといえますね。

 日本の場合、コンピュータ教室に1人1台の環境はあっても、普通教室へのコンピュータ整備が遅れてしまいました。すべての教室で教師がコンピュータを活用して分かる授業を行う考え方が重要です。これは明治時代から、学校の教室で黒板を中心とした学習が効果をあげてきたことが背景にあります。まず先生が生徒全員に指導し、代表の子どもが黒板へ出て問題に答え、それに対してみんなでディスカッションする。日本はこの集合教育的な「みんなで学ぶ」という形態で、高い教育レベルを維持してきたという経緯があります。

 ですから、すべての教室にパソコンを2台設置するというプランも、1台は先生用、もう1台は生徒の代表用という意味です。黒板の学習文化をパソコンに置き換える発想なんですね。眞柄さんはグループ単位の学習を見学されたそうですが、1人ひとりがコンピュータに向かって学習するよりも、グループ単位のほうが全体の進捗に差が出にくいという点はあります。

眞柄全体のレベルがそろうと。

清水個人が伸びるしくみは「上位20%の子どもにはいいが、残り80%の子どもたちはどうすればいいのか」ということになるわけです。ですから、全体のレベルアップを考えるとグループ学習が効果的ということです。日本ではここに主眼を置いたインフラ整備や指導法を進めているわけです。

眞柄コンピュータ教室では1人1台、自分たちの教室では全体で2台ということで、うまく組み合わせてバランスのいい教育をめざしているわけですね。

 ところで、私どもマイクロソフトもこの3〜4年間に教育関連の活動をいくつも展開してきましたが、清水先生のご経験とお立場から、民間企業あるいは経済界に対して望まれるのはどのようなことでしょうか。

清水企業や経済界への希望を述べる前に1つお話ししたいことがあります。
私が海外の教育現場を視察していつも感心するのは、彼らが企業との連携にたいへん積極的だということです。企業から「地域の教育をサポートしたい」と申し出があれば、教育現場に進んで取り入れます。学校、市町村、教育委員会は企業と一緒に環境づくりに努め、先生の指導をサポートしていくという意識です。その環境づくりやサポートに政府サイドも補助金を出しています。

独り立ちした企業が多く育つことは、結局は次世代の子どもたちにいい学習環境を提供することだと考えています。

 日本の場合は、教育界に少し違った考え方があって、「地域が特定企業のサポートを受けるのはいかがなものか」という類の意見がすぐに出てくる。しかも、それが正論のように通ってしまいます。「企業と連携すれば、子どもたちにいい学習環境が提供できて、学力も向上する」という大局的な視点に立てないんですね。「企業からサポートを受ける」という点だけをただ問題視する。誰かが企業との連携を進めようとすれば、「あなたはその会社とどういう関係ですか?」と糾弾する人まで出てくる始末です。

 イギリスでは、政府が学校におカネを出す場合、最終的に学校経由で企業におカネが流れるしくみをつくっています。そこには自国の教育産業を育成するねらいもあるわけです。あらかじめ補助金の使い道は決まっていますが、どの企業から買うかなどは校長の裁量またはLEA(Local Education Authority)の裁量で自由に選んでいいことになっています。国の産業育成が、おカネを直接渡すのではなく、いったん学校を通すしくみというわけです。

 日本の「地方交付税でおカネがいきます。あとは勝手にやってください」というしくみには、自国の教育産業を育てるという意図はうかがえません。私は教育産業に大儲けしてほしいとは思いませんが、独り立ちした企業が多く育つことは、結局は次世代の子どもたちにいい学習環境を提供することだと考えています。

眞柄イギリスの循環的なシステムは素晴らしいですね。学校にはどれくらいの予算があるのですか?

清水中等教育校ですと、IT関係だけで年間600万円ほどの予算があります。そのおカネは校長先生の裁量で、たとえばコンピュータやインターネットの保守で専門家を雇うことにも使えるわけです。

 そうなると企業で働く人を雇うこともできて、その人たちを中心に「次はどういうインフラ整備をしようか、どういうコンテンツにしようか」と考えられます。新しい仕事を発注すれば、またおカネが企業に流れるようになっています。

 ITの予算は設備だけでなく、教員研修にも使われます。先生方にいい教育をしてもらうために、ITを活用した「プレゼンテーション能力コース」や「コミュニケーション能力コース」「情報収集能力コース」を受講してもらいます。この3つは必須で、そのほかに「ITを使わないほうがいい場面」などの指導も受けます。

 こうした研修予算も小さくありません。1人当たり年間9万円相当です。イギリスには約40万人の教員がいますから、単純計算しても360億円規模です。この研修プログラムの実施会社が募集され、教育技能省(DfES:Department for Education and Skills)が評価して46社か47社が合格しました。しかも、ある1社が全体の3分の1ほど受け持ったので、たいへんな金額になったわけです。この教員研修の予算は、政府におカネがなかったので、宝くじの収益をまわしたということです。

子どもをもつ親の身として、実に羨ましい制度ですね。

眞柄研修効果はすでに出ているのでしょうか?

清水プログラム終了後のアンケート調査では、85%の教員が「ITを使った教科指導に自信がある」と答えています。 「ITが使えます」や「指導できます」ではなく、「指導に自信がある」ですから、これは相当に高い水準だと思います。

眞柄子どもをもつ親の身として、実に羨ましい制度ですね。

清水政策として素晴らしいと思います。

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対談目次

1)市町村単位の取り組みが学校のIT化を一気に進める

2)教育現場は一般より高レベルの情報セキュリティが求められる

3)学校と企業が連携していくことで子どもにいい学習環境が提供できる

4)学校がブロードバンド環境をもてば地域コミュニティの中心的存在になる

ゲスト:清水康敬氏
NPO法人ブロードバンドスクール協会 理事長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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