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エグゼクティブ対談 【第8回】牟田泰三氏 (国立大学法人広島大学 学長)

国立大学法人化を契機に、ビジョン共有型の大学運営に取り組む(2/3)

大学運営は企業経営と同じビジョン共有型の運営を展開する

眞柄国立大学法人化の話は聞いていましたが、ここまで経営の視点が入っているとは考えていませんでした。民間企業と同じしくみで大学内のものごとが決まっている。少し身近になった気がしますね。

大学運営のやり方に経営的な観点を取り入れていくという方針です。

牟田こういう事態を予測し、実は一昨年の夏ごろ、評議会で「大学運営の基本方針」を出しました。大学運営のやり方に経営的な観点を取り入れていくという方針です。そのなかで謳っているのはビジョン共有型運営、企業でいうビジョン経営です。トップマネジメントがきちんとビジョンを形成し、そのビジョンをすべての構成員が理解して共有する。このビジョンに基づいて組織を動かしていきましょう、ということです。

 そのためには、まずは各下部組織の長からビジョンをよく理解しなくてはいけません。彼らに多くの権限を与え、その代わり責任を増やす。そして、Plan→Do→Check→ActionのPDCAサイクルをまわして、組織ごとに外部環境の変化に対応できるようにする。そういうビジョン共有型の運営です。

 一昨年の夏に評議会で「この基本方針はいい、やろうやろう」となって承認されました。ところが、現場に行ってみるとまるで反応が違う。「ビジョンを共有していますか?」と聞いても「さぁ」、「PDCAサイクルをまわしていますか?」と聞いても「さぁ」という頼りない返事ばかりです。ビジョン共有をもっと具現化しなければいけません。

眞柄そこまでくると国立大学の話とは思えなくなりますね。教育機関というより、まるで民間企業の経営について聞いているような気になります。

牟田その通りだと思います。私にとって大学運営と企業経営には、大きな差はありません。教授たちのなかには、企業活動の目的は利潤の追求だ、と考えている人がいます。大学運営は、教育や研究といった崇高な理念があるから、企業とは根本的に違うのだと。企業のやり方をそのまま適用するのは無理があり、そうすべきではない、という意見は少なくありません。

 そういうとき、私はいつも「企業が利潤を追求しているとみるのがまず違っていますよ」と反論します。企業はたしかに利潤をあげないと成り立たない。しかしそれは企業活動の目的ではありません。

 たとえばマイクロソフトなら、社会のなかでマイクロソフトがやるべきことがある。その「やるべきこと」「やりたいこと」がビジョンです。社内のみんなでビジョン共有して働いているわけでしょ。まず初めにビジョンがあり、それを実現するためには利潤がないと困る、というだけの話です。

目標に到達する行動計画をしっかり立てる。そして結局これを動かすのは人です。

 大学はどうなのかといえば、いい研究開発を進め、その研究成果を教育に反映させ、優れた学生や優れた人材を生み出すというビジョンがある。ビジョンをみんなが共有し、ビジョンにむけて大学を動かしていく。そのためにはやはりおカネがないとやっていけません。国立大学の場合は利潤を出すことはありませんが、予算と決算はつじつまが合ってないといけない。だとすれば、大学と企業は何も違うところはありません。企業のやり方が役立つなら取り入れてもおかしくはない。そう説明するとわかってくれる人が半分以上はいます。

 ビジョンを打ち出すといっても、目標を額に入れて飾っただけではダメです。その目標に到達する行動計画をしっかり立てる。そして結局これを動かすのは人です。そんなことを言い出すのに数年かかっていますが、実はここに到達するのに役立った本があります。『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP出版センター)です。私は読んで感銘を受け、大学運営に使えるエッセンスをずいぶん借りてきました。

産学連携では得意技を活かすとともに芽が出はじめた分野も積極的にチャレンジする

眞柄まずビジョンから説明するというのは素晴らしいですね。というのも、私どもマイクロソフトのビジョンは「Realizing potential」といって、すべての人がもつ秘められた可能性を引き出せるようにお手伝いする、という意味です。

 いまお話を聞いて、広島大学と当社がアクセシビリティやセキュリティで提携したことにもつながっているようにも思えました。短期間に話がまとまった背景として、実は牟田学長がいわれるビジョンの浸透があるような気がしますね。

牟田マイクロソフトとの話があった時に、一緒に何ができるかと、大学内のリソースを見まわしました。広島大学はアクセシビリティの研究では国内トップクラスですが、それでも諸外国に比べるとかなり遅れているんですね。一例をあげますと、耳の不自由な学生さんに対して、広島大学では協力する学生が二人ついて、先生が話した内容をメモで手渡すということをやっています。これはこれでうまくいっているのですが、私たちが提携しているカナダの大学が開発したのは、先生が話す内容がすぐ字幕に出てくるというシステムです。

眞柄音声認識の技術ですね。

牟田これがきわめて正確で、耳の不自由な学生さんはその字幕をみながら授業を受ける。すると、協力する学生は一人いれば十分に足ります。ここでIT活用がもつ意味は大きいですね。私はこの話を知っていたものですから、マイクロソフトと聞いたとたんに候補の1つとしてすぐにそれが頭に浮かんだんですね。

眞柄そうでしたか。

牟田広島大学が将来こうありたいという項目はいくつもありますが、そのうちの1つに「顧客本位」があります。自分たちが儲けるためでなく、お客さまのために活動しているのだということです。大学の顧客は学生ですから、障害をもつ学生さんも顧客のひとりです。その人たちが学習・研究しやすい環境を整える。そういうビジョンにつながっているから提携も早く進んだのだと思います。

眞柄今後は産学連携も広げていかれると思いますが、学長が考えられている重点的な分野はどのあたりでしょうか?

牟田やはり、広島大学がもっている得意技でしょう。理系でいえば半導体や放射光技術、医学関係では放射線障害などの研究です。これらは広島大学だからできる、広島大学でなければできないという分野ですから、企業と連携すれば、相手のお役にも立てるし、広島大学のためにもなると思います。

たとえ失敗しても、フラつかない。失敗はどういう原因で起きたのか、失敗の結果どうなったのか、そこをよく考えるべきです。

 ただし、あまり得意技だけに限ってしまうと、こんどは固定化してしまいます。まだ芽が出はじめたぐらいの分野でも、思い切ってやらせてみるのはいいでしょう。提携することで相乗効果が生まれ、自らも伸びるわけです。「ちょっとでも芽が出たらやってみろ」という具合でやっていきたいと思っています。

眞柄素晴らしいお話です。当社の社員に聞かせたいですね(笑)。

牟田やってみろといっても、実際にやると失敗するのが大部分です。しかしそれを気にしないことです。私も研究者だったからわかりますが、誰でも失敗はあります。ただ、失敗したからといって途中でやめてしまうとか、すぐ別のテーマに移ってしまうというのはいけません。たとえ失敗しても、フラつかない。失敗はどういう原因で起きたのか、失敗の結果どうなったのか、そこをよく考えるべきです。失敗して「もうダメ」と落ち込み、中途で挫折することだけは避けるべきです。

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対談目次

1)国立大学法人化は受け身ではなく大学改革のチャンスだと前向きに取り組む

2)大学運営は企業経営と同じ ビジョン共有型の運営を展開する

3)産学連携では得意技を活かすとともに芽が出はじめた分野も積極的にチャレンジする

4)追いつき追い越せの時代から様変わりした知的財産戦略

5)大学は地域に深く根づかせ世界を見渡せる大木に育てる

ゲスト:牟田泰三氏
国立大学法人広島大学 学長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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