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エグゼクティブ対談 【第6回】萩原誠司氏 (岡山市長)

骨太のビジョンで地域コミュニティの充実と人づくりを図る(1/3)

骨太のビジョンで地域コミュニティの充実と人づくりを図る 萩原誠司氏

世界に輝く都市となるため人づくりと国際貢献に注力する

眞柄萩原市長とのお付き合いは3年以上になりますが、その間に岡山市とマイクロソフトはIT関連のプロジェクトにいくつも取り組んできました。

 まず2002年に岡山市の二つの小学校で「ブロードバンドスクール」のパイロットプログラムを実施しました。子供たちが1人1台のパソコンを使い、「総合的な学習」をはじめとする各学科、英会話スクールとの遠隔学習などで成果をあげました。

 この「経革広場」でも、2003年7月に「岡山経革広場」がスタートし、いま各地で展開されている地域版の第1号となっています。

 私がそれらのプロジェクトを通して強く感じたのは、萩原市長のリーダーシップの下、何ごとも大変スピーディだということです。同時に、われわれ民間企業を受け入れる許容量と柔軟性には驚かされました。

萩原私の方も、われわれ地方自治体を受け入れてくれるマイクロソフトさんの許容量と柔軟性に感謝しています。

眞柄今年3月には岡山市、御津町、灘崎町の1市2町が合併して、新「岡山市」が誕生しました。その将来都市像は「未来を担う人が育ち、活気あふれる豊かな『国際・福祉都市』」です。

 このビジョンを拝見して「さすがだな」と感心したのは「未来を担う人が育ち」というフレーズです。ついお上意識から「未来を担う人を育て」と言いかねないところが「育ち」としてある。岡山市のもつ住民参加の空気がすごくよく伝わってきたんですね。

萩原あまり意識しませんでしたが、いま眞柄さんに指摘されてみると確かにそうですね。わりと自然な表現でしたが、私や職員たちはむしろ「育て」という言い方のほうに違和感を覚えますよ。

 私たちが「育てる」というのはおこがましい限りで、未来を担う人材はみんなで育てていくものです。実際に住民のなかには、市全体を教育環境としていいものにしていこう、そのために一役買ってやろうという人たちがたくさんいますから。

眞柄そこは意識しなくてもビジョンに表れています。さて、合併も進み、政令指定都市への移行も目標に掲げられました。市長が描く岡山市の将来像はどのようなものでしょうか。

文化的な香りがあり、国際貢献都市という印象を誰もがもっている。そういうイメージをもたれる街が目標です。

萩原世界の都市でいえば、目指す姿はスウェーデンの首都ストックホルムに近いイメージなんですね。むこうは人口が75万人前後ですから、約67万人の岡山市とそう大きく違わない。しかし世界中の人たちが、ストックホルムといえば一定のイメージを思い浮かべます。ノーベル賞がストックホルム市庁舎で授与され、環境に関する条約も結ばれている。文化的な香りがあり、国際貢献都市という印象を誰もがもっている。そういうイメージをもたれる街が目標です。

眞柄パリやロンドンほどではないにしても、ストックホルムはたしかにヨーロッパの一都市として、独自の存在感で認知されていますね。

萩原いまの岡山市のパンフレットには中国大陸まで含めた地図を載せていて、東京と上海の2大都市がマークされ、その中間点として岡山市が描かれています。ちょっと背伸びした表現ですが、これが実態になるように努力していくつもりです。

 1つには、都市として内的な充実を図っていくことが必要です。内的な充実とは、結局はその街に住む人たちが力をつけていくことにほかなりません。当然ながら学校教育、生涯教育も含めて、みんなが岡山市に住むことで伸びていく。できれば国際貢献ができるぐらいの力をつける。そういう人たちが少しずつ増えていくのがいちばん強く期待するところです。

 そのためにやるべきことはたくさんありますが、人づくりにおける1つの象徴として取り組んでいるテーマが、実は人間国宝(重要無形文化財保持者)なんです。人間国宝を岡山市から出そうではないかという運動ですね。

眞柄岡山市に人間国宝がいないというのは意外ですね。

萩原それは池田藩の影響だという意見もあります。池田藩は実学を重んじ、華美な文化芸術を廃したらしいんですね。

 私たちが考えているのは、まず岡山市の重要無形文化財を数多くつくること。市の重要無形文化財保持者が増えたら、どんどん国に推薦していけます。ところが、市の重要無形文化財保持者は、約67万人の都市にたった2人しかいらっしゃらない。もう少し柔軟に考えて増やしていってもいいでしょう。

眞柄岡山市を代表する方が2人というのは少ないですね。

萩原過去の文化政策では、主に遺跡の発掘や保存などに取り組んできました。しかし遺跡を掘るにも限りがある。その点、人材育成には限りがありません。この領域に文化政策をシフトしていきたいと考えています。

 もう1つ、世界に輝く都市となるためには国際化が必要です。私たちは「国際・福祉都市」を目指していますが、その「国際」は単に様々な国の人たちが岡山市に来ているということではなく、国際的に貢献できる街になることを意味しています。

眞柄国際貢献というのは具体的にどのようなことでしょうか。

萩原例えば、昨年8月に「地球平和フォーラム岡山」を開催した際、私たちはイスラエルとパレスチナの高校生を5人ずつ招待しました。あの子たちは岡山市へ来なければ、おそらく一生会うことがなかったでしょう。国境の壁や心理的な壁を越えることなく、憎しみだけをもって暮らしたかもしれません。実際に対面してみれば、相手は自分たちと変わらない高校生で、同じように話し、同じように肉親を傷つけられたことに対する深い悲しみをもっている。そのことは共通理解ですぐにわかります。10人の高校生たちは「平和を迎えたらまた岡山市で会おう」と帰っていきました。

 自分たちの街が世界平和や民主主義の発展にいい影響を与えるんだと決意し、少しでも実行できるようにしていく。それが最終的な質的目標です。

眞柄萩原市長をみていて感じますのは、住民の方々や地域をまたいだところの接点を非常に重要視されていることです。これは一見当たり前のようで、中々できないことだと思いますが。

市民のための自治体ですから、市民の方々がどのように感じているかを捉えないと、自分の言動に正当性が生まれないんです。

萩原いまは会社経営でも株主が重視されています。それと同じで市民のための自治体ですから、市民の方々がどのように感じているかを捉えないと、自分の言動に正当性が生まれないんです。選挙では公約を出して当選してますから、その部分では正当性が元々あります。私の場合は100ほど掲げた公約のほとんどを実現しましたが、しかし日々の活動では公約ができていないこともたくさんあるわけです。

 新しい事態が生じれば、それに対していろいろ手を打たなくてはいけない。その時に果して、自分の発言が正当であるかどうか。そこは民主主義ですから、結局のところ主権者である市民の声を代表できているかによって決まります。これはいちばん大切なことです。

眞柄すべての自治体のトップがそうあってほしいですね。

萩原そうでなければ、やっていて楽しくありませんし、長続きしませんよ。

用語解説

ブロードバンドスクールで、さらに加速した岡山市の情報教育

ブロードバンドスクールは、e-Japan戦略に掲げられた「2005年度までにすべての公立学校が高速ネットワークに接続する」を具現化するため、官民協働で発足したプロジェクトです。2002年4月より、岡山市のネットワークインフラ「情報水道」を活用し、岡山市立芳明小学校、岡山市立西小学校の2校で、全国に先駆けた実証授業がスタートしました。

ブロードバンドスクールは、欧米に比べて、普及かつ低廉化したブロードバンドネットワークを、教育現場においてどのように活用できるかという、新しい授業デザインを確立することにあります。従来、学校のコンピュータは、コンピュータ教室と呼ぶ特別教室に押し込まれ、コンピュータの操作を習得することが主な利用方法でした。ブロードバンドスクールでは、そうした従来の枠組みを取り払い、普通教室で、国語、算数、社会などの一般教科習得の道具として、コンピュータを利用することを提唱しています。普通教室でコンピュータを利用するには、その使い勝手を考えた場合、デスクトップ型ではなく、ノート型、ネットワークも、教室の床上げ工事などの必要の無い無線LANとなります。

こうした環境において、主には学習の道具として、時にはコミュニケーション手段として、またあるときは、情報収集のためインターネットを活用するなど、子供たちの学力向上のためのコンピュータの新しい利用方法がブロードバンドスクールなのです。

岡山市の2校から始まったブロードバンドスクールは、岡山市全域に広がり、2003年には、東京の千代田区すべての小学校、中学校がブロードバンドスクールとなりました。

2004年には、NPO法人ブロードバンドスクール協会が設立され、岡山市での成果を全国に伝えるため、ブロードバンドスクールキャラバンを全国の学校で展開しています。

◆ブロードバンドスクール: http://www.broadbandschool.jp/

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対談目次

1)世界に輝く都市となるため人づくりと国際貢献に注力する

2)長距離ランナーの地道さで「情報水道構想」を進める

3)既存のコミュニティにITを組み込む地域のパワーを教育にも活かす

4)政策を成功につなげる「せっかち」と「しつこさ」

ゲスト:萩原誠司氏
岡山市長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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