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エグゼクティブ対談 【第5回】細川佳代子(特定非営利活動法人スペシャルオリンピックス日本 理事長、
2005年スペシャルオリンピックス冬季世界大会 会長、「500万人トーチラン」実行委員長)

スペシャルオリンピックスの感動から新しい人生が始まる(3/3)

会社の仕事ができるだけでは半人前ボランティア活動を通して文武両道に

眞柄今日は細川さんにお会いするということで、ボランティアに参加した社員から細川さんへの質問をいくつか預かってきました。

 まず1人目は、メインメディアセンターでボランティアに参加した女性社員からのメッセージと質問です。

 まず、メッセージとしては、

エムウェーブでスピードスケートの競技を観戦していたときには、幼稚園から高校生まで多くの子供たちが来ていました。社会科見学の一環で、「まぁいいか」程度ですごすのかと思っていたら、一生懸命なアスリートたちを見て、声をそろえて、「がんばれー!」と応援をしていました。あれだけ広い会場が、声援でいっぱいになっていました。「一度関われば、SOの魅力に気が付く」と細川さんがおっしゃっていたと思うのですが、私自身ももちろんそうですが、きっと彼らもきっと何かを学んだに違いないと思いました。世界大会を日本で、そして長野で開催する意義がとてもあったと思います。今後とも魅力を語り続けていただきたいと強く思っています。ありがとうございました。そして、頑張ってください!

そして、彼女から質問ですが、

日本ではまだまだ知的発達障害をもつ子どもたちへの理解が不足していると思います。その一因は教育段階で、普通の学校・学級と養護学校・学級に分けてしまうところが多いせいではないかと思います。ドイツのSOの方が言っていたのですが、ドイツでは同じ教室で知的発達障害をもつ子どもたちも遊んでいると聞きました。その場合、授業内容をサポートする先生が1人ついているということです。日本の学校でも同じような取り組みはあるかもしれませんが、教育現場での共存を図っていく上でいま一番足りないと思われることは何でしょうか

細川以前の日本は教育委員会が頑なでしたから、面接でその子に普通学級は無理だと判断したら、特殊学級に入れ、親も反対できないという状況でした。でもいまは海外の先進福祉国から影響を受け、日本も多少はやわらかくなっています。教育委員会は障害のある子も一緒に教育するほうがいいとの見方に変わり、親子ともにそれを望み、学校側に受け入れ態勢がある場合はOKとなっています。

 問題となるのは、受け入れ態勢のほうです。知的発達障害のある子どもたちに補助教員が最低1人はつかないと、ほかの子たちの授業が進まなくなります。学校の教育方針でその点さえクリアできれば、いまは一緒に授業を受けられるようになりました。

眞柄コミュニティに根ざしているという点でも、スペシャルオリンピックスの組織が、学校教育で果たす役割というものがあるかもしれませんね。

身体をふれあいながら練習し、チームをつくって一緒に試合に出れば、そこには何の解説もいらないでしょう。子どもたちは素直に受け入れる心をつくってくれるはずです。

細川私たちはスポーツの組織ですから、休日や平日の放課後に体育館を開放してもらうのが一番いいと考えています。その地域に住む知的発達障害のある人たちと他の子どもたちが一緒に、例えばフロアホッケーの練習をはじめてみる。理解しなさいと言葉でいうより、一緒にスポーツの練習をはじめたほうが早いんです。身体をふれあいながら練習し、チームをつくって一緒に試合に出れば、そこには何の解説もいらないでしょう。子どもたちは素直に受け入れる心をつくってくれるはずです。

 いろんな人間がいるとわかってくれたら、例えば「障害のある子は1人で街へ出かけると何かと困るだろうから、自分たちが一緒に行って助けてあげよう」と思いはじめるかもしれません。助け合えば彼らもちゃんと社会で生活していけるとわかるのなら、無理に同じ教室で一緒に勉強しなくてもいいでしょう。相手を認め、受け入れる心ができれば問題ないと思うんです。

 学校の授業も低学年のうちは一緒もいいでしょうが、学習内容が難しくなったときは両者にとって不幸です。その段階では、図工や音楽や体育といった時間だけ一緒にする。そういうフレキシブルな対応がいいのではないかと思います。アメリカの中学高校では、同じ学年の子どもが「パラレル・ラーナー」となって、特殊学級で補助教員の代わりを務めるという制度もあります。日本もそういう制度はどんどん取り入れたらいいと思いますね。

眞柄無理なくお互いがふれあえる場をつくってあげればいいということですね。
次はボランティアに参加した男性社員からの質問で、企業と社会、あるいは企業と社会人ボランティアに関するものです。

 簡単に質問の背景を説明しますと、当社からのボランティアは業務ではなく、みな個人の判断で参加しました。ボランティア休暇制度を利用しますが、交通費や宿泊費などは自費で参加しています。

こうした活力は個人にとってのみならず、最終的には企業の活性化あるいは企業が成長するうえで重要なことではないかと思います。細川さんの視点からみたときにボランティア、とくに社会人ボランティアに対して、どういった期待がありますでしょうか

社会には必ず一定の割合で障害のある方がいます。その社会に対して、利益を追求する企業はどのように向き合ったらいいのか、ということも含む質問です。

細川少し話は飛んでしまいますが、細川家は南北朝時代から応仁の乱を経て、ずっと将軍の側近という地位にありました。戦国時代には織田信長、明智光秀、豊臣秀吉、そして徳川家と、戦乱に巻き込まれながらも生き残ってきた唯一の大名なんです。

 亡くなられた司馬遼太郎さんが、あるとき細川の義父に「何がそれだけ長く家を存続させたと思いますか」と質問されたことがあります。ちょうど熊本の家の裏で、ご先祖さまのお墓が並んでいる場所でした。私は細川家のことなど何も知らないで結婚したものですから、びっくりして「なんとお答えになるのだろう」と注目していたら、義父はすかさず「それは家来に恵まれたからです」と答えたんです。すると司馬さんは「そのいい家来を育てることがトップの役割ですね」とおっしゃったんです。近くでみていて本当に感動的なやりとりでした。

 後日、私は義父に「本当にただ家来に恵まれただけですか? それとも何か家訓のようなものがあるのですか?」と尋ねました。義父は「家訓はもちろんあります」と答えて、その第一に挙げたのが「文武両道」だったんです。

 武家といえども「武」だけを大切にした家はみんな滅びていったというんです。武士である前にまず一人前の人間であることが大事だと。そのためには「文」つまり教養を高めなければ本当の武人ではないという話でした。

企業人である前にまず人間なんですよ。人間教育ができていなければ、どれだけ仕事ができても意味がありませんよね。スピードや効率だけに押し流されるのではダメなんです。

 いまの社会に置き換えるなら、企業人である前にまず人間なんですよ。人間教育ができていなければ、どれだけ仕事ができても意味がありませんよね。スピードや効率だけに押し流されるのではダメなんです。

 いまは時代の先端を的確に読み、多様な価値観に対応していかなくてはいけません。既成概念にしがみついている人はすぐに落ちこぼれてしまいます。

 先をみる目は柔軟な心によって養われます。21世紀に求められる共生や多様性というものは、民間のボランティア活動によって確実に身につきます。会社の仕事だけできるというのではまだ半人前なんですよ。

 日本は少し前まで会社の仕事ができれば一人前とみなされてきましたから、定年退職すると何の役にも立たない粗大ゴミや濡れ落ち葉になってしまう人も多かった。それは人間としての自立意識を養っていなかった証拠です。

 会社だけでなく、まったく別の世界に身を置いてみる。新しい体験、新しい出会いを通して、自分の主体性をきちんと確立する。そうすることで、本当に豊かで多様な社会に対応できる人間ができていくのではないかと思います。ボランティア活動というのは、その意味からもすごく有意義だと思います。

眞柄最後になりますが、世界大会を終えてホッとする間もなく、細川さんはもう次の目標にむかっているそうですが、当面の大きな目標とは何でしょうか。

細川まずは日本全国にスペシャルオリンピックスのネットワークをつくるということです。いまは27の活動拠点を置いていますが、47都道府県のすべてに拡げていきたいと考えています。

 そしてより多くの方々にスペシャルオリンピックスを楽しんでいただきたい。知的発達障害のある人は全国に約460,000人いると言われますが、そのうち私たちの活動に参加しているのはまだ5,000人程度にすぎないんです。つまり100分の1なんですね。

 この数を増やしていくためには全国に組織を拡げ、彼らと一緒にスポーツするボランティアを増やす必要があります。世の中には週末がくるたびにやることがなくて退屈だとか、ゲームをやるだけで不健康に終っているとかいう若者も多くいます。一番エネルギーにあふれている青少年時代にそういうことではもったいない。身体を動かす機会がない、スポーツを知らないという人たちは、ぜひ私たちの活動に参加して、自分たちが人の役に立つことを喜びを見出し、さらに成長してほしいと思います。

 2年前の世界大会はアイルランドで開かれましたが、あの国は障害のある人たちも社会のあらゆる場面に参加していました。10年後の日本も心のバリアーをはずして、障害のある人たちが特別な目でみられることなく、社会のあらゆる場面に参加できていれば素晴らしいと思います。当然のこととして、自然体でみんなと話ができるという社会が10年後に実現していれば、今回の大会が本当の意味で成功だったといえるでしょう。

 そのような社会を実現するためにようやくスタートを切ったのですから、いまは1つずつやるべきことを着実に進めていくのが目標です。

眞柄企業あるいは個人が、今後もスペシャルオリンピックスにかかわっていくとすれば、どういうことに期待されるでしょうか。

細川具体的なところでは、会社と個人のもつノウハウや特技を活かし、私たちの組織をバックアップしてほしいというのが1つですね。

 もっと協力できるという方は、ぜひ自分が住む地域でスペシャルオリンピックスの活動に参加していただきたい。きっと近くに活動しているところがありますので、一度でいいから普段のトレーニングを見学にきてほしいと思います。ただ見学するだけでは面白くないから、ちょっと手伝ってみよう、一緒にトレーニングしてみようと少しずつ仲間に加わってもらえるとうれしいですね。トレーニングウエアに着替えて一緒に汗を流せば、世界大会とはまた違った感動が得られるはずです。そういう日常の活動にも目を向けていただけたら、私たちもたいへん幸せです。

眞柄本日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

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対談目次

1)各方面に多くの資産を残したスペシャルオリンピックス世界大会

2)スペシャルオリンピックスの意義は実際に参加して初めてわかる

3)会社の仕事ができるだけでは半人前ボランティア活動を通して文武両道に

ゲスト:細川佳代子氏
特定非営利活動法人スペシャルオリンピックス日本 理事長、2005年スペシャルオリンピックス冬季世界大会 会長、「500万人トーチラン」実行委員長

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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