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エグゼクティブ対談 【第4回】宿澤広朗氏 (株式会社三井住友銀行 常務執行役員)

思い切った戦略と緻密な戦術がチームを勝利に導く(3/3)

織内部に競争を生み出し「勝ち負け」の価値観を高める

眞柄捨てるべきものは捨て、思い切って大胆に考えるというのは、企業戦略にも当てはまる話です。ひところ「コンピテンシー」や「選択と集中」を重視する企業が多くありましたが、あのとき取り組まれていたポイントは同じだという気がします。

 ラグビーはプレーをしている選手が15人。監督はスタンドから観ているしかない。そういう組織での経験と、三井住友銀行という大組織での経験はまた違ったものだと思います。宿澤さんは様々なサイズの集団でチームプレーを経験されてきたと思いますが、組織の大きさによってリーダーシップや組織論は変化してくるのでしょうか。

ライバルと競争して勝つためには「勝ち負け」の価値観を高めなくてはいけない。そのために内部にも各レベルで競争をつくり、この価値観を高めていく必要があるということです。

宿澤どんな組織も基本は同じだと思います。ひとついえることは、どれだけ組織が大きくなっても、内部に競争がなければ外部のライバルに勝てないということです。職場ごとに、支店ごとに、業務部門ごとに、つねに内部で競争していることが組織全体の強さにつながると私は考えています。だからこそ、組織全体として外部の競争相手と戦えるのです。

 そこで競技スポーツと共通するのは、「好き嫌い」や「損得」といった価値観が表れると終わってしまうということです。スポーツでも企業活動でも、ライバルと競争して勝つためには「勝ち負け」の価値観を高めなくてはいけない。そのために内部にも各レベルで競争をつくり、この価値観を高めていく必要があるということです。

眞柄「勝ち負け」ではない別の価値観が表れると、そこで組織としての競争力は失われてしまうと。

宿澤銀行という大きな組織にいると、さっきの戦略面で気になることがあります。経営陣は方針や戦略を立てますが、その方針や戦略がきちんと具体的な戦術まで落とし込まれているかといえば、はなはだ疑問です。戦略の徹底は、組織が大きくなるほど難しくなるといえるでしょう。

 例えば、経営陣が立てた方針では、ある部門のビジネスに力を入れるとします。ところが、実際には全部門で一律に人員を削減していたりする。注力する部門は、そこだけ人を増やしたり成功報酬を高めたりと何かの打つ手だてがあるはずです。

 経営方針を聞いていると「なるほど」と思っても、現場に落ちてきた戦術をみると必ずしも戦略と一貫していないケースが目につきます。これは組織が大きさによるものです。

眞柄ラグビーの15人と同じようにはいきませんね。

宿澤組織が大きくなると、方向転換が難しくなるともよくいわれます。巨艦と同じで小まわりが利かない。ですから、いったん間違った方向に進みだすと、なかなか軌道修正ができないという難しさがあります。

 決断の正しさを求められるのは当たり前の話で、要は正しい決断をいかに速く行動に移せるかということです。決断の正しさと同じぐらいスピードは重要です。

 数年前に「選択と集中」が流行りましたが、他社と同じことをやっているのでは本当の戦略とはいえないわけです。他人と違うオリジナルのアイデアを大胆に実行するのが戦略です。それも早く決めて速く実行するというスピード感は、組織が大きくても小さくても同様に大切です。組織が大きいと動きは鈍くなりがちですが、だからこそスピード感のある組織をつくれるかどうかにかかっているわけです。

国家に戦略がなければ企業や個人は実力が発揮できない

いまは中小企業も中国はじめ海外の製造業と激しい競争があり、あるいはビジネスの相手として中国市場を無視できない状況を迎えています。

眞柄ところで、中小企業と大企業を問わず、いまの日本企業はグローバリゼーションを避けて通れなくなっています。日本はもともと垂直分業ができていて、中小企業に関しては国内だけみていればよかった時代が長くつづきました。ところが、いまは中小企業も中国はじめ海外の製造業と激しい競争があり、あるいはビジネスの相手として中国市場を無視できない状況を迎えています。

 私が中小企業の経営者の方々とお話すると、よく聞くのが「自分たちはこれまで特別な営業活動はしてこなかった」「マーケティングなどの経験がほとんどない」という声です。つまり、自分たちをうまくアピールできない。なおかつ、言葉の壁という問題もあります。

 宿澤さんご自身はロンドンに駐在され、いまもグローバルな状況でビジネスされていますが、ご自身の経験を踏まえて、何かアドバイスはありますでしょうか。

宿澤これは難しい問題ですが、よそと同じものをつくっていたら価格の低いところが勝つわけです。かつての日本がそうであったように、いまの中国や韓国に勝てないのではないでしょうか。よくいわれるように、これからの日本企業はどれだけ付加価値を高めることができるかに勝負はかかっています。

 例えば、鉄鋼業はもはや先端といえない業種ですが、日本の高炉メーカーがもつ技術は中国に較べて格段に高いわけです。なおかつ高炉の生産量が決まっていて、日本からしか買えない製品となれば価格は売り手主導で決めることが出来ます。

 低価格の製品を大量につくる仕事はみんな中国などに移っています。モノでも情報でも、日本は付加価値の高いものを追求しないと国として競争力を失うことになります。

 企業もそのための努力を怠ってはいけないのですが、何よりも国家としての戦略がないことが問題です。ここがいまの日本に最も欠けているところだと私は感じています。

 アメリカはみんな一丸となって戦う態勢ができています。政府も中央銀行も民間も格付け会社もみんな同じ方向を目指している。日本はそれぞれ優秀な集団ですが、1つの国として方針やビジョンがありません。国の方針やビジョンが初めにあり、それに沿った形で各企業が自社の方針を決めて事業を進めるのでないと、チームワークのいい国に勝てるはずはないと思います。

眞柄その通りだと思います。政府が出す政策も、何か起きたときのセーフティ・ネットのような議論が多いようにみえます。「こっちへ進むんだ」と方向づける要素はほとんど見当たりません。

宿澤それは各企業、各個人が国に対して要求していくべきでしょう。大きな戦略があれば、もっと何ごともやりやすくなると思います。

眞柄細かい戦術論はたくさんありますが、戦略はほとんどない。本来は戦略あっての戦術のはずですが。

納得できないままプレーに参加しても、彼は本来の力が発揮できません。逆に「なるほど、そうか」と100%納得して戦えたなら、普段以上の力が発揮できるかもしれない。

宿澤そうです。本来はラグビーと一緒で、監督が立てた戦略を一人ひとりの選手が理解していなければいけないわけです。

 例えば、僕が「日本代表はこう戦わせる」と決めたときに、チームのなかに「それは違う。自分はこう戦ってきた」と考える選手がいたとします。納得できないままプレーに参加しても、彼は本来の力が発揮できません。逆に「なるほど、そうか」と100%納得して戦えたなら、普段以上の力が発揮できるかもしれない。

 日本企業も同じで、政府が納得できる方針を出せば、これまで以上の力が発揮できると思うのです。いまは方針や戦略がないから、ふわっと気の抜けた国になっている。企業も個人も進むべき方向がみえないから、みんな迷っているわけです。

眞柄さすがに国を代表して戦ってこられた方の話は、非常にわかりやすく説得力がありますね。

宿澤ラグビーでもサッカーでも、ナショナルチームはかなりのプレッシャーがありますし、海外で戦うとどう評価されているのか、よくわかります。自分たちの戦い方によっては「日本はワールドカップに参加する資格はない」と思われるかもしれない。

 勝敗を無視するわけではありませんが、「勝っても負けても日本のラグビーはいい。ワールドカップに出場する資格はある」と評価されなくてはいけません。世界のファンやジャーナリストたちはそういう厳しい目で試合を観ています。

 場合によっては、ワールドカップのアジア枠は不要だともいわれかねない。アジアとパシフィックの枠に一緒にすれば、つねにパシフィックが代表になっていいのではないかという議論になる。それだけ責任重大ということは、ワールドカップで世界の舞台に立つとわかりますよ。

眞柄それだけに2011年のワールドカップは是非とも成功させたいですね。本日は貴重なお時間をありがとうございました。

(宿澤様のご冥福を心よりお祈りいたします)

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対談目次

1)競技場で観るラグビーはパワフルでエキサイティング

2)ラグビー界にとっても多大な損失だった故・奥大使の死

3)大胆でなければ戦略でない捨てるものは捨てる勇気をもつ

4)全員が戦略と戦術を理解して初めてチームプレーは継続される

5)織内部に競争を生み出し「勝ち負け」の価値観を高める

6)国家に戦略がなければ企業や個人は実力が発揮できない

ゲスト:宿澤広朗氏
株式会社三井住友銀行 常務執行役員

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

プロフィール

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