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エグゼクティブ対談 【第4回】宿澤広朗氏 (株式会社三井住友銀行 常務執行役員)

思い切った戦略と緻密な戦術がチームを勝利に導く(2/3)

大胆でなければ戦略でない捨てるものは捨てる勇気をもつ

眞柄2011年のワールドカップ日本開催が実現したとき、大会を成功させるうえで大切なことは何でしょうか。

宿澤やはり、どれだけ多くの方々に観戦してもらえるかということでしょう。特に、日本代表やイングランドやニュージーランドといった強豪チームが出場しない試合でも、多くのファンに観戦してほしいというのが私の願いです。

 私の体験からいっても、例えばアイルランドのベルファーストで日本とジンバブエが戦ったとき、平日の昼間だというのに大勢の人たち観戦にきてくれました。オーストラリアで開かれた2003年のワールドカップでも、日本代表への応援が多くて驚きました。 日本が例えばフィジーやスコットランドと試合しても、オーストラリアの人には興味がないだろうと思ったらそうでもないんです。われわれがいた町の人たちが、みんな応援に来てくれました。日本代表や強豪チームと関係のない試合も、みんなが観戦してくれることは大切ですね。

 あとは商業的に成功させることも重要ですし、当然ながら日本代表がどこまで戦えるかということ全体の盛り上がりに影響してくるでしょう。

ラグビーという競技は、リーダーシップや組織的な動きが非常に重視されますね。

眞柄ラグビーという競技は、リーダーシップや組織的な動きが非常に重視されますね。試合後のキャプテンやヘッドコーチのコメントを聞いても、他の競技と少し趣が違うという気がします。例えば、あるプレーで「勇気をつけられた」というようなコメントを聞くことがあります。他の競技で勇気づけられたというコメントが出てくるのはあまり聞いたことがありません。

 そこに至るまでの意識、あるいはチームをまとめるためのリーダーシップは、一般社会に出てからもたいへん役立つと思います。

 宿澤さんはラグビーで長年の経験をもち、また金融の最前線におられて、リーダーシップや意思決定のうえで何か感じられることはありますでしょうか。

宿澤ラグビーは他の競技に較べて、監督やキャプテンの存在がたいへん大きい競技です。例えばサッカー日本代表で、監督はつねに注目されますが、誰がチームのキャプテンかはあまり話題にのぼらない。

 ところが、ラグビーは監督とキャプテンがつねに注目されます。いまはサッカーも「ジーコ・ジャパン」と個人名を冠して呼ばれますが、ラグビーが昔から「宿澤ジャパン」「平尾ジャパン」と監督名を冠して呼ばれていたのは、それだけリーダーの存在が重要だということです。

 私が実際に早稲田でキャプテンをやった経験からいえば、ラグビーのキャプテンは、プレーがつづく80分間はとにかく決断の連続だということです。途切れることなく決断しつづけなくてはいけない。判断し決断することの繰り返しです。

 大学選手権レベルになると、チームの実力にそれほど差はありませんから、キャプテンの決断に勝敗が左右される。これは相当なプレッシャーです。チームの力が互角であれば、優れたリーダーのいるほうが勝つというのがラグビーです。

眞柄日本代表などで監督を務めておられたときはいかがでしたか。

あれもこれもと求めないで、一方を思い切って捨てるくらい大胆でないと戦えない。それが本当の戦略です。

宿澤監督のときは同じ判断を下すのでも、かなり戦略的になります。戦略的な決断は、かなり思い切ったものでないと意味がありません。大胆な考えでない戦略は、本当の戦略とは呼べないわけです。

 誰かの真似ではなくて、オリジナルの戦略であることも大切です。大胆に決めるということは、一方では何かを捨てなくてはいけない。あれもこれもと求めないで、一方を思い切って捨てるくらい大胆でないと戦えない。それが本当の戦略です。

 大胆な戦略が決まれば、あとは戦術を細かく決めていきます。ラグビーは野球のように監督からサインは送れませんし、流れが悪いからといって途中で作戦タイムをとることもできない。そこはすべて現場のゲームリーダーであるキャプテンに任せています。

 ですから、相当に戦略と戦術を煎じ詰めておかないと実践できない。決められたことが実行できる確率はだいたい3割ぐらいでしょう。だから、監督の戦略をキャプテンや選手がどれだけ理解しているかにかかっています。自分がキャプテンとしてグランドでリードしているときと、監督として戦略を立てるときは、立場もノウハウもずいぶん違うものだという印象がありました。

全員が戦略と戦術を理解して初めてチームプレーは継続される

眞柄初めに監督の大胆な戦略があり、それが1つひとつの戦術に落とし込まれていく。現場の動きはキャプテンやヘッドコーチに任せ、キャプテンは80分間決断の連続になるというわけですね。

宿澤例えばただ「サイドを守れ」というのでは、キャプテンが出すべき指示ではありません。誰がどこまで出る、誰が敵とファーストコンタクトする、次に誰がどこへ向かうといった細かい動きまで詰めていくのが戦術なんです。

 アメリカンフットボールみたいに、1プレーごとに選手が入れ替わり、あらかじめ決められた通りに動くのとも違います。相当に戦術面で詰めておかないと、選手たちは動くことができなくなりますからね。

眞柄キャプテンはもちろん、選手全員が戦略と戦術を理解してないといけませんね。

ボールを持っている選手が動くときに、残りの14人が「あいつこう動くな」と同じレベルで理解できていないとチームプレーは継続できません。

宿澤選手15人の判断がバラバラではうまくいきません。みんなが同じ基準で判断する。高校生レベルであれば、ポジションごとに役割を果たせばいいのですが、日本代表クラスになると、ボールを持っている選手が動くときに、残りの14人が「あいつこう動くな」と同じレベルで理解できていないとチームプレーは継続できません。それだけチームワークのレベルが高いということです。ボールを展開していくときはノーサインで動くわけですから、そうでないと、やろうとしていることができなくなる。

 ディフェンスは相手が攻めてくるので特に動きがわからない。基本的なディフェンスのフォーメーションは決まってますが、次に自分がどこに走って、どうカバーするかというのは各選手の判断に任されている。「あいつがこう動くから自分はこう動くんだ」と瞬時に全員が同じレベルで判断しないといけない。

 今年の大学選手権を制した早稲田は、そこが非常に優れていたと思います。チームプレーが継続していた。これは判断力が非常に優れていたということです。単にコンタクトの強さだけをいったら、早稲田も同志社もそれほど大きな差はないでしょう。今年の早稲田は「チーム全員が同じ基準で判断しているな」と思えました。それだけレベルが高かったということです。

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対談目次

1)競技場で観るラグビーはパワフルでエキサイティング

2)ラグビー界にとっても多大な損失だった故・奥大使の死

3)大胆でなければ戦略でない捨てるものは捨てる勇気をもつ

4)全員が戦略と戦術を理解して初めてチームプレーは継続される

5)織内部に競争を生み出し「勝ち負け」の価値観を高める

6)国家に戦略がなければ企業や個人は実力が発揮できない

ゲスト:宿澤広朗氏
株式会社三井住友銀行 常務執行役員

プロフィール

聞き手:眞柄泰利
マイクロソフト株式会社

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