
いまさら終身雇用について議論する必要がないだろうと思う読者。我慢して読んでください。あなたが、終身雇用がいいに決まっていると思っても、終身雇用は悪いに決まっていると思ってもかまいません。
まず、言っておきたいのですが、「終身雇用」の英訳はどのように表現しているかはわかりませんが、この言葉は非常にオーバーな表現です。終身とは死ぬまでです。雇用側から言えば「終身雇用」とは「死ぬまで雇う」ことです。老人ホームにいる人を雇うことになります。ロジックは合いません。社員側から言えば、「終身雇用」は「死ぬまで同じ会社に雇われる」という意味です。やっぱり理屈が合わないですね。
「まあ、そんな難しい理屈をこねないで終身雇用は一生一つの会社だけに勤めて退職してもその会社を自分の会社だと思えるような安定した労使関係だ」と解釈する方々が多いと思います。私は、終身雇用の意味が曖昧でわかりにくいということでこの文章を書いているわけではありません。ここで言いたいのは「ちょっと違うよ」ということです。
私が起業するとき、多くの中小企業経営者よりも状況は悪かったです。人種差別は感じませんでしたが、若いうえ、日本に親戚もいない外国人だから社員はなかなか来ませんでした。やっとのことで見つけてもかならずしもほしい人ではありません。相手も何らかの事情で行きたい会社にいけなくてやむを得なく私のところに来たにすぎません。私は彼らを終身雇用したいわけではありませんし、彼らも私の会社に終身雇用されたいわけではありません。でも彼らとしばらく仕事を共にすることでお互いに成長し、また自ずの目的に向かうのは中々人間らしくて楽しかったです。
おそらく殆どの中小企業では昔も今も終身雇用は単なる言葉であり、制度としてありえません。雇う方も雇われる方も望んでいない制度ですから。実際、統計データをみればわかるようにほとんどの中小企業は3年以内に消えています。数が減らないのはその分の会社はまた作られているからです。このデータは中小企業が終身雇用はできないと明確に言っているのです。もちろん中小企業には大手企業よりも歴史が古い老舗がありますが、数は非常に限られている上、終身雇用しないからこそ時代の波を乗り越えて来た会社です。
ここまでくると「日本の雇用の殆どは中小企業によって作り出されているのだから、日本の労働人口の大半は昔も今も終身雇用はできなかったのでは」と思いたくなります。答えは「YES」です。
終身雇用は大手企業が作り出した美談で、人材確保する手段です。また、退職金制度などの国策もこれを奨励したのです。
常に人材不足気味の行動成長期において、日本の優秀な人材を集めた大手企業は社員たちに辞めてほしくないのです。「終身雇用」という言葉を使えば、自分の好都合を相手へのご褒美に変えることができたのです。「一生雇うから簡単に離れるなよ」、「一生保障しているから、忠誠心を持ちなさい」という暗黙の洗脳はお釣りです。
一方、「同じ会社に長く働けば働くほど退職金が増える」しくみは社員側の「終身雇用」の大きな動機付けとなりました。嫌な上司、嫌な同僚、嫌な仕事も我慢して「石の上でも30年」をやり通したお父さんたちには敬意を表したい気持ちです。しかし、そんな会社を退職しても「うちの会社」と口ずさむ姿は痛々しく思うのは私だけでしょうか。会社は決して退職後の彼を「うちの社員」と言わないのに。
江戸時代から続いている中小企業の経営者に聞きましたが、日本は昔から終身雇用ではありませんでした。戦後の言葉だそうです。私も終身雇用は戦後経済成長の一時的な現象だと思います。
確かに今も終身雇用をいう大手企業の経営者がいますが、彼らは聞こえのいい、受けのいいことを言いたいだけです。「格差のある終身雇用」と自慢する大手の経営者に聞きたいです。「同じ年代の社員で年収が3倍も違うのにそれでも終身雇用が維持できるのですか」。「その格差を不満で退社する社員がたくさん出ても終身雇用と言いますか」
「格差で辞めさせるのは問題がない。首を宣言しなければ終身雇用だ」。こんなことを言わんばかりの経営者が出てくるとさすがの終身雇用も誰から見ても魅力がなくなります。それとも敢えていうのはまたそんな言葉に心地よい響きを感じる人々がいるからでしょうか。
終身雇用が良いか悪いかは個人次第ですが、本質を見ないで言葉に騙されるのはよくないと思います。