顧客の判断基準や利害損得の思考パターンをつかめば、顧客の先回りができると前回指摘した。顧客の考えが事前に分かるのだから、その顧客の考えに合わせて、顧客の思う通り、期待通りに営業活動を行うことができる。しかし、孫子の兵法を活かすのであれば、それで満足してはならない。その顧客の考えや期待を良い意味で裏切り、顧客の考えを超えることを狙わなければならない。
■■孫子曰く■■
兵とは詭道なり。故に、能なるも之に不能を示し、用いて之に用いざるを示す。
孫子は、戦争とは相手を欺く行為であると説いた。相手との戦いを有利に進めるためには、こちらに戦闘能力があっても無いように見せかけ、ある作戦をとろうと考えた時には、わざとその策はとらないように見せかけることが重要だと言うのだ。これによって相手をこちらの意のままに動かすことができる。相手の判断基準や利害損得をつかんだ上で、相手に揺さぶりをかけるわけだから、相手はこちらの狙い通りに動くことになるだろう。
現代の営業においても、営業担当者と顧客とのやり取りは詭道であると言える。顧客の言うことに誠心誠意対応するだけでは、信頼はされても感動してもらえない。顧客の期待に応えるだけでは、不満を生まないことはできても、顧客満足を創出することはできない。
より高いレベルの営業は、顧客に合わせるのではなく、顧客の期待を超えるということであり、それはある意味で顧客を欺くことだと考えると良い。顧客が何らかの商品なりサービスを購入しようとする時には、必ずそれに対しての期待値がある。期待があるからお金を払うわけで、顧客満足はその期待値を超える商品なりサービスを提供した時に生まれるものである。
この顧客満足は、商品やサービスそのものが持っている絶対的な価値で決まるものではなく、顧客があらかじめ抱いていた期待値と実績(経験)値とのギャップの大きさによって決定する。商品が高級品で品質が良くても、それに対して顧客が高過ぎる期待を抱いてしまうと、「なんだ、こんなに高いのにこの程度なのか」と不満を感じることもあるし、逆に、そんなに高くない普及品であっても、顧客が「安いのだから大したものではないだろう」と期待値を下げてくれると、「安い割になかなか良いわね」となって満足を生むこともある。
そして、もっと大きく、更に良い意味で顧客を欺くには、顧客が考えていなかったことを考えさせるということにチャレンジしたい。「何かお困りのことはないですか」「今日のご注文はございますか」などと御用聞きをしていたのでは、ネット時代を生き残ることはできない。顧客が困っていたり、問題だと思っていたり、買いたいと思っているようなことは、ネット上で容易に解決してしまうからである。今や携帯電話でテレビ電話が出来てしまう時代である。ブロードバンド化が進むにつれて、各企業のホームページからテレビ会議ができるようになる日も近いだろう。そんな時代になって、高い給料をもらう営業担当者が、ノコノコと顧客を訪問して御用聞きしているようではお話にならない。
顧客の考えをつかんだら、こちらは顧客がここまでは考えていないだろうというところまで考えて提案する。顧客の発想や意図を超えた商品やサービスを提示することによって、顧客に新しい考えやイメージを持ってもらう。ここまでやれば「いやぁ、○○さんに言われるまで考えても無かったけど、これはいいね。さすが○○さんはプロだね」と言われるようになり、「○○さんからしか買わない」「○○さんじゃないとダメだ」と顧客に言わせる営業担当者になることができる。
IT化やネットワーク化が進めば進むほど、人間にしかできない高度な思考が求められることになる。
(次号につづく)