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長尾一洋の「営業・風林火山」〜孫子の兵法とITの融合による営業強化論〜

 日報をIT化して、「顧客のダム」を作り、営業活動を可視化することで、見込客に対して絶妙のタイミングで営業活動を行えるようになることは、前号までで述べた。しかし、「顧客のダム」とは、単に顧客の情報を蓄積することではないし、「営業活動の可視化」とは、単に営業担当者の動きをITでチェックすることではない。そこに、顧客の判断基準、意思決定基準という見えないものを可視化する発想をプラスしてやることが重要であるのだが、一般のIT化では考慮されていないことが多い。孫子の兵法をIT化に応用するからこそ出来るIT活用の極意なのである。

■■孫子曰く■■
之を策りて得失の計を知り、之を作して動静の理を知り、之を形して死生の地を知り、之に角れて、有余不足の処を知る。

 孫子は、敵の意図を見抜いて利害損得の判断基準を知り、敵軍に揺さぶりをかけて、その行動基準をつかみ、敵の強みと弱みを知って、小競り合いをしてみて相手の強い部分と弱い部分を確かめよ、と説いた。要するに、相手がどう考え、どう判断し、どう動いてくるのかという思考パターン、判断基準をつかめということだ。これによって、次に相手がどう動いてくるかを容易に予想ができる。大切なことは、敵がどう動いているかではなく、どういう考え、どういう判断で、その動きをしているのか、ということなのだ。

 営業活動においても同様のことが言える。顧客が何を言ったのか、顧客がどういうニーズを持っているのかという表面的なことだけでなく、なぜそのような発言をしたのか、なぜそのようなニーズがあるのか、という目に見えない判断基準をつかむことが重要である。

 この判断基準をつかむためには、日頃から営業担当者が相手の裏を読み、意図を読んだ「推察」をIT日報(SFA)に書いておくことが大切だ。顧客は常に本音を言うとは限らないし、わざと違う情報をもらすかもしれない。「買う」という顧客が買うと決まったわけではないし、「買わない」と言う顧客が絶対に買わないかというと結構買う気があったりする。それを裏読みして「推察」を書く。法人客の場合には相手の裏事情も大切だ。「この人は○○と思っているけど、社内の立場上△△と言っているな」といった情報である。

 こうした情報が商談履歴としてITに蓄積されると、相手の判断基準、意思決定の基準が見えてくるようになる。「あぁこのお客さんはこういう時は必ずこういう判断をするんだな」という具合である。だから新製品が発売になったような時も、いちいち顧客を訪問して買うかどうか聞く必要もない。「この新製品がこの価格なら、あのお客さんは絶対に買うな」といったことが分かるようになる。これによって先回りができるようになるから、必要な資料やデータなども用意して、余裕を持って営業活動を進めることができる。

 ところがダメな営業担当者は、「お客さんに聞かないと分かりません」と言う。そこで何度も顧客を訪問して「どうですか?」「いかがですか?」と御用聞きを繰り返す。そして顧客が「要らない」と言ったら、ノコノコ帰って「ニーズ無し」と報告だ。これでは売れるものも売れない。

 ITは優れた道具ではあるけれども文字や数値データとなった「形式知」しか扱うことができない。このITを上手に活用するためには、目に見えず、言葉にもしにくい「暗黙知」を「形式知」に変える努力と、一旦「形式知」としてITに蓄積された情報から「暗黙知」を読み出すちょっとした意識が必要なのだ。特に、顧客という生身の人間を相手にしなければならない営業現場では、是非心掛けて欲しいIT活用術である。
(次号につづく)

長尾一洋

コラム概要

(株)NIコンサルティング代表取締役、中小企業診断士
珠玉の兵法「孫子」を現代企業の営業改革に取り入れ、既に1600社以上の 企業において実績をあげる営業のスペシャリスト長尾一洋が語る“温故知新” 営業改革コラム。現代経営に必須であるIT活用を孫子の兵法と融合させた ユニークな視点で会社経営を解説。

筆者プロフィール

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