事業戦略ニュース

「ものづくり補助金」公募要項から読み解く 中小企業政策の変化


1.はじめに
平成28年度補正「革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金」の公募が、去る11月14日より開始された。いわゆる「ものづくり補助金」と呼ばれている補助金で、補助金の正式名称は年によって若干異なるが、中小企業・小規模事業者が取り組む「革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資」を支援することが目的の、中小企業に馴染みの深い補助金である。

本稿では、今回の公募要領と過去(平成27年度)の公募要領との差異を示す2つのキーワードから、中小企業政策の変化の方向性を俯瞰する。

2.経営力向上
平成28年7月1日から、「中小企業等経営強化法」(以下「経営強化法」という)が施行された。これは従前の「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」(以下「旧法」という)が改正されたものである。経営強化法の目的は、一言で言えば中小企業の「経営力向上」を支援することである。経営力とは、稼ぐ力のことであり、経営指標的には、利益(経常利益)と労働生産性(従業員ひとりあたりの付加価値額:(営業利益+人件費+減価償却費)÷従業員数)を意味する。

旧法の目的が、創業や新事業創出、異分野連携等による事業活動の促進支援など、やや抽象的であったことに比べると、経営強化法は、中小企業に「とにかく稼げ」とわかりやすい激を飛ばしているように感じられる。

今回の公募要領において、「経営力向上」というキーワードは、まず冒頭にいきなり登場する。補助金の目的となる設備投資は、経営力向上に資するものではならないと明記されているのである。

また、経営強化法に基づく経営力向上計画の認定(申請中)を受けた企業は、加点対象とする、とされ、かつ、計画申請中の企業は実際に認定を受けていなければ補助金受給申請ができない、とされている。
経営力向上計画とは、業種別に定められた国のガイドラインに沿って、自社の稼ぐ力を如何に伸ばすかの方策を表明する計画書である。この認定を受けた企業は、稼ぐ力を伸ばす意欲のある会社、というお墨付きを得ることで、国から様々な優遇措置を受けられるようになる、という仕組みだ。

3.賃上げ
従来のものづくり補助金においても、賃上げに取り組む企業は加点対象とされていたが、今回は、過去とは異次元の優遇策が用意されている。総賃金の1%賃上げに取り組む企業は従来通りの加点対象に過ぎないが、雇用増(維持)をし、かつ5%以上の賃上げを行った場合、補助金上限が2倍に、これに加え最低賃金を10%以上引き上げた場合には、補助金上限が更に1.5倍に引き上げられるという。すなわち、賃上げに取り組む企業は最大で3倍(3000万円)の補助金を受けられる可能性がある。

デフレ脱却が日本経済再生の至上命題とされる中、大企業に対しては安倍首相が直接賃上げを迫る「官製賃上げ」が行われているが、中小企業の経営者にも、稼ぐ力の向上→賃上げ→消費の拡大というプラスサイクルの実現が今まさに求められていることを認識したい。

4.終わりに
経営強化法においては、業種別に、稼ぐ力を伸ばすための着眼点や手法が示されているほか、経済産業省や中小企業庁からは、ローカルベンチマークや経営計画つくる君など、経営者の経営計画策定をサポートするツールも用意されている。筆者は本稿を機に、中小企業の真の稼ぐ力向上サポートにより一層注力して参りたい。

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執筆者:
高橋章_img.jpg高橋 章氏
株式会社経営財務支援協会 代表
http://kaikei-web.co.jp/
東京大学法学部卒業後三井銀行(現三井住友銀行)に入行。アットローンを立ち上げるなどリテール金融サービスの開発に従事。一部上場ノンバンク、サービサー会社社長を経て事業再生支援を含む財務コンサルタントとして活躍。

2016/12/16 15:29:18

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かつて、再生に関わる多くの専門家は破産処理一辺倒に終始していました。そんな中で事業戦略研究会(旧事業再生研究会)は生き残りをかけた経営者のニーズに応えるため、税と会計の専門家(会計人)を中心として平成14年に設立。事業戦略指導の研究会(研究の場・研究者のネットワーク作り)として、活動しています。平成17年以降は、事業戦略研究会会員を中心に「事業戦略コンサル受託団体」として、東京・埼玉・神奈川・大阪・名古屋・広島にそれぞれNPO法人を設立しました。 当該地域の案件はこれらのNPO団体に紹介しています。今回のコラムは、JSK事業戦略研究会と各地NPOの主要メンバーが事業戦略について執筆しています。

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