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医療法人のM&A(第2回)


みなさん、こんにちは。大阪の弁護士清水です。先月に続き、医療法人のM&Aシリーズ第2回目です。前回は、出資持分の概念を中心に法改正も併せお伝えしました。今回は、本題のM&Aについて、出資持分の譲渡スキームを中心にお話しします。

【事例】
医師Xが、自らが100%出資し、院長を務める医療法人甲会(A病院)を、医療法人乙会のオーナーYに対して出資持分譲渡スキームにて売却。A病院の土地建物はXのMS法人である株式会社丙が所有し、甲会(A病院)に賃貸している。なお、甲乙は持分の定めのある社団医療法人である。

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【1】出資持分譲受けのための資金調達
Yが甲会を買収するに際して、まず検討すべき第一の課題は出資持分譲受けのための資金調達です。この事例の場合はY個人の信用が高く、個人で数億円の借入れを起こすことができましたが、一般的には個人での多額の借入れはなかなかスムースにいかない場合が多いかと思います。

そのような場合、医療法人のM&Aにおいては、買い手側のMS法人で資金調達し、MS法人が個人に貸し付ける手法が検討されます(事例の場合でいうと、丁が借入し、丁からYへの貸付け)。この場合の個人からMS法人への返済原資は、買収先医療法人から受ける役員報酬などが想定されます。

ここでMS法人とは、メディカル・サービス(Medical Service)法人の略です。大抵は株式会社の形態を採り、医療法人に対して病院の土地建物を賃貸し、あるいは、医薬品等を卸売りするなどしています。医療法人は剰余金の配当が禁止されていることから(法54条)、理事長が自身の息子や兄弟を代表取締役にしてMS法人を設立し、MS法人に上記のような役割を担わせ、利益獲得の手段とされます。

また、医業収益をMS法人の分散させることになるため、節税対策にもなります。医療法人の多くはこのMS法人を有していますので、M&Aの場合には、このMS法人との関係処理も必要となります。

【2】役員退職慰労金の活用

次に、本件では、譲渡対価の一部が役員退職慰労金で手当てされました。退職慰労金は甲からXに対して支給されますので、甲による資金調達が必要ですが、買い手Yにとっては、譲渡対価の一部を退職慰労金とし、当該資金をYが甲に貸し付ける場合には、全額出資持分の対価とすれば回収が困難である投下資金を回収することができるという利点があります。他方で、売り手においては退職慰労金を譲渡対価の一部に組み入れる場合には課税額が変わってきますので綿密なシミュレーションが必要です。

【3】院長ポストの手当

次に、A病院の院長であるXが退職することにより院長ポストに空きがでてしまうことへの対応が必要です。院長は理事長職とは異なり常勤である必要がありますので、Yが兼務することはできません。そのため、Xの後任院長に誰を置くのか、この点の検討を早期から行っておくことが必要です。

【4】MS法人との関係処理
さらに、MS法人丙の所有するA病院の土地建物についての処理が必要です。買い手としては、丙との賃貸借の継続という不安定な権利関係ではなく、所有権そのものを取得したいところです。しかし、Yは既に持分譲渡対価相当分を調達していますので、これ以上の資金調達は不可能でした。そこで、YにてMS法人丁を設立し、対象の土地建物を担保に丁において借入れをする手法を採りました。返済原資は、甲から丁に支払われる賃料です。

本件では、Aのキャッシュフローが潤沢であったがゆえに、かかるLBOのような手法を採ることができましたが、これはAの財務状況如何によると思います。


最後に、医療法人は制度や仕組み上も、また、M&Aにおいても、株式会社とは異なる点が多く、案件処理には相応の知識と経験を要します。また、医師の世界という、一般の事業会社とは違った一種独特の空気、そういった面の面白さもあります。当事務所としましては、今後も引き続き強化していきたい分野の一つであります。 

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執筆者:
清水有希子氏.jpg 清水 有希子氏
オーヴ綜合法律事務所
弁護士
農業経営アドバイザー




NPO関西事業支援機構 理事
2006年10月 弁護士登録(第二東京弁護士会)
国内外の大企業から中小企業まで、種々の分野にわたる幅広い企業法務の経験を活かし、多様な企業形態・ニーズに応じた的確なアドバイスを心掛け、案件に臨んでいる。


2017/09/19 17:57:02

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かつて、再生に関わる多くの専門家は破産処理一辺倒に終始していました。そんな中で事業戦略研究会(旧事業再生研究会)は生き残りをかけた経営者のニーズに応えるため、税と会計の専門家(会計人)を中心として平成14年に設立。事業戦略指導の研究会(研究の場・研究者のネットワーク作り)として、活動しています。平成17年以降は、事業戦略研究会会員を中心に「事業戦略コンサル受託団体」として、東京・埼玉・神奈川・大阪・名古屋・広島にそれぞれNPO法人を設立しました。 当該地域の案件はこれらのNPO団体に紹介しています。今回のコラムは、JSK事業戦略研究会と各地NPOの主要メンバーが事業戦略について執筆しています。

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