塾生の働きぶりをご覧になったお客さまから、「なぜ彼女たちはさわやかな笑顔で、あんなにも熱心に働き続けることができるのか」という質問や、はては「息子の嫁にぜひ」といったオファーをいただく機会が実によくあります。今回は塾生のモチベーションを高め、維持していくための私なりの方法について述べたいと思います。
と、いっても目からウロコの秘策があるわけではありません。私が行っていることは、塾生たちがチャレンジする場、つまり、自ら考えさせ、そのプランを実際に行ってもらうという、ごくごく平凡なことの繰り返しに過ぎません。えっ、それだけ? と読者の方にいわれても困ってしまうので、私自身、もう少し掘り下げてみたいと思います。

1.WHEN:いつチャレンジさせるのか?
私は塾生に対し、定期的になにか宿題や課題を出すということはしません。塾生それぞれに、チームそれぞれに大きく成長できるタイミングがあり、その機を逃さないことを心がけています。具体的には、OL(雇われ人)から女将(経営者)に頭のスイッチがそろそろ切り替わってきたころ。日常業務に慣れすぎて、頭の回転速度が落ちてきたとき。やるべきことは頭で理解できているけれど、身体が動いていないときなどがあります。塾生自身に飛躍したい気持ちが育っていたり、成長曲線が踊り場となっている時期にチャレンジさせる環境を用意します。

2.WHAT:何をチャレンジさせるのか?
女将塾では身体で学ぶことが基本です。ただ、何を学んだのかということを、一度、頭でも理解させると、そのノウハウは応用がきくものとなり、仲間にも伝授できるようになります。たとえば、Aの旅館で身につけたノウハウが、Bの旅館でも通じるかどうか、配置換えを行うことがよくあります。このことは、以心伝心のチームをゼロから構築しなければならないという、ひじょう非常に難易度の高いチャレンジでもあります。
一番身近なのは、チームに共通の解題を与え、徹底的にコミュニケーションをさせるというチャレンジです。最近の例では、「私たちが大事にしたい銀花(ぎんか:城崎の旅館)の○○条」をつくってみなさいという課題を出しました。最初はメンバーの数×10個ぐらいあった思いを、議論により取捨し、集約させていきます。自分は何を大切にしていくべきか、仲間のこれまで気がつかなかった熱い思いなどをまのあたりにして、そのチームが理想とする組織を言語に落としていくプロジェクトになります。鉄は熱いうちにというように、日に2回もミーティングを行うこともめずらしくない日程で2週間ほど、集中的に行います。

3.HOW:どうチャレンジさせるのか?
環境のお膳立てをした後は、口出ししないというのが私の役目です。私がうっかり意見を出してしまうと、どうしても塾生はその意見に引きずられてしまいます。塾生が自分たちの頭で考え、自分たちで決めたことに徹底的に責任を持たせるということが大事なのです。
チームでサービスを提供する旅館業というものは、洗った茶碗の片づけ方から、電気のオンオフに至るまで、一人暮らしでは自由気ままに行っていたほんのささいな行為に対しても、チームの統一見解とコンセンサスが必要です。自分がちょっとがまんすれば、あるいは、ちょっと直してしまえば、その瞬間、その場はしのげるでしょう。しかし、24時間365日稼働する旅館では自分一人でがんばったところでサービスはまったく向上しません。
自分たちの頭で考え、チームでコンセンサスを導き、その決定事項に対し、絶対的な責任を持って日々の業務を行うようにすれば、塾生は自然と自発的になっていきます。マニュアルがなくても、何が正しいか、何をすべきか一人一人が理解しているのですから。