小さな会社が、自社の抱えている問題をコンピュータの利用によって解決しようと思うことは少なくないと思います。しかし、解決のためのITシステムの導入にどれくらいのコストがかかるのかは、小さな会社の経営者には見当が付かないことが多いでしょう。
毎月の財務状況を報告している私に、軽い気持ちで社長が聞きます。
「コンピュータを使ってこんなことやるとしたら、いくらぐらいかかりそうですか?」私が答えます。
「そうですね、独自のシステムを開発したら2000万円ぐらいですかねぇ...」

ここで小さな会社の社長は絶句してしまいます。ですが、これは中小企業の範疇に入る会社であっても、システム開発にかける費用として特に高額ということでは無い金額です。では、希望通りに問題を解決してくれるようなITシステムは非常に高価で、小さな会社はよほど資金に余裕がない限り手が出せないものなのでしょうか。あるいは、どうしても導入しなければならない場合には、高いコストを我慢すべきものなのでしょうか。
現実に小さな会社がシステムを導入する場合は、取引のあるソフト開発会社1社から提示された見積書を検討するか、あるいは数社から見積書を取って比較検討するということになると思います。そこからの経営者の意思決定の流れは、まず値引き交渉をし、最終提示金額が負担可能かどうか検討し、最後には高いか安いか分からないがそれだけかかると言うのなら仕方がないと決断する、というようなことが少なくないように思われます。これでは運任せのようなもので、運良くコストパフォーマンスの高いシステムを導入できることもあるでしょうが、高い買い物をしてしまったと後悔することもあるでしょう。あるいは決断しきれずにシステム導入を見送ってしまうかも知れません。
システム導入を考える場合には、自社の解決すべき課題を明確にし、システムで解決する部分としない部分を切り分け、さらにシステムで解決する部分を効果的に行うためにはどのように業務をシステムに合わせることが可能なのかを把握する必要があります。これらが把握できたところで、システム導入をどのような方法で行うかを検討しなければなりません。パッケージ中心の安価なものとするのか、より自社に合った機能を搭載するため高価でも独自の開発を行うのか方針が決まります。手作業で行っている作業をそのままシステムに載せたいとか、旧システムと全く同じ操作性やアウトプットを再現したいと希望するのは機能以外の部分にコストをかけてしまう全く愚かなことです。

また、先に費用を決めておいて、その予算内で実現できる機能だけに絞って開発するという方法もあります。私が所属する税理士会の関連団体がソフト開発を依頼した時には、わずか300万円の予算でしたが金額を先に提示し、実現して欲しい機能を優先順位の高いものから順に列記し、予算内で実現可能な内容を提案してもらうようにしました。インターネットで調べたソフト開発会社数十社にこの案件に興味があるかをメールで尋ね、興味を示した十数社に仕様書を送り、その中で提案があった数社の提案書を検討し、2社に絞って面接をして決定しましたが、最終的に選ばれた提案は300万円を大幅に下回るものでした。その提案は、機能を最も優先順位の高い部分だけに絞り、なおかつ汎用ソフトのテンプレートを使用するという非常に単純なものでした。もう少し高価で、魅力的な付加機能を搭載できる提案もあったのですが、採用した提案の機能は十分なものであり、我々は安価に調達できたことに大変満足しています。
コストの不安の根源は、ITシステムが絶対的に高価であることではなく、その機能に対する価格が適正かどうかを経営者が判断しようとしないことであり、それを計るものさしを持っていないことです。ある程度の判断基準を持てば、不安は大幅に解消されます。そのために必ずしもシステム開発の専門知識は必要ではありません。自社の課題を十分に把握して、大きなコストを投入するに値する重要な機能は何なのか、また、必須でない機能についてはどれくらいまでのコストをかけても良いと思っているのか、を明確にしておけば良いだけです。重要な機能にかかるコストを会社が負担できないのならシステム導入は見送りですし、必須でない機能に許容範囲を超えるコストが提示されれば、その部分はシステム化せずに別の方法を検討すれば良いのです。実現する機能の経営上の価値が判断できるのはシステム開発者ではなく、経営者自身でしかないのです。
コストの不安と書いていますがコストは金銭的コストだけではありません。システム導入の作業に多くの人員を割かねばならず通常業務に影響がでてしまうことがあるかも知れません。また、導入時のコストが少なくても、運用を開始してからメンテナンス費用や保守のための人員が負担になる場合もあるでしょう。そうしたことも含めて総合的なコストを見極め、実現する機能の経営上の重要性を把握できていれば、判断の不安や不確実さは減少されるのです。
ソフト開発会社の提案書の見積部分には技術者の作業時間に単価を掛けた金額が書かれているかも知れませんが、システム導入する側の経営者が、開発にかかる人件費等の積算を考えても仕方がありません。機能とコストのバランスを考えるべきであり、そのためには自社の経営に貢献する機能が何かを把握することこそ重要なのです。それが十分に把握できていてシステム開発者に明確に伝えることが出来た場合には、逆にシステム開発者側が希望を安価に実現する方法を提案してくれることもあるでしょう。現実には、システム開発者が発注側の経営者の意図を十分に理解できないまま作業をして、不必要に高価なシステムになってしまうこともあるようですが、それは伝えられなかった経営者の責任でもあるのです。