ITコーディネータの河合です。今回から3回連続で、小さな会社がITに持つ不安感を少しでも取り除けるように、私が税理士業務の中で見てきた小さな会社の現場を思い浮かべながらお話ししたいと思います。
5月27日ANAの航空券予約システムがダウンし130便が欠航、7万人に影響が出る事態となりました。これだけ影響のあるシステム障害が起きても人々がANAに乗らなくなるということは無いでしょうが、小さな会社でこれほどの事態を引き起こしてしまったら会社は存続できないでしょう。このようなIT事故が小さな会社で起こる可能性は低いと思われますが決してゼロではありません。経営者は多かれ少なかれITシステムに不具合が起こったらどうしようと不安に思っているのではないでしょうか。

では、ITシステムは会社存亡の危機さえ招きかねない危険なもので、小さな会社は近寄らないほうが良いのでしょうか?いえ、決してそんなことはありません。むしろ、小さな会社だからこそ、小回りのきく対応で上手にITシステムを運用することができます。
ANAのトラブルを、陶器の通販と卸売を行う小さな会社 Small Business社(SB社)に置き換えてみましょう。ANAではシステムを新しいものに入れ替えてから二日ほど経った週末に処理速度が低下し、予約・発券の業務がほとんどできなくなってしまったということです。SB社が販売管理システムを新しいものに入れ替えたところ、締め日が近づいてデータ量が増えてきたところで伝票1枚入力するのに何分もかかるようになってしまったというイメージでしょうか。
ANAのシステム障害は26日に兆候が現れ始め、不具合の原因を特定できないまま27日を迎えたとのことです。そして発券業務を滞らせながらも運用を続け、古いシステムに戻すことでほぼ復旧したのは27日の午後3時半、ここでANAは発表を行い午後6時までの羽田発全便を欠航にしました。結果として130便の欠航のほか306便に一時間以上の遅延が発生し、翌日の28日まで影響が残りました。

ちょっと大袈裟に置き換えてみましょう。SB社は地元のソフト会社に販売管理システムの新システムへの更新を依頼したところ、セットアップは無事完了しその場でのテストもOKでした。しかし3日後の締め日になって急に動作が遅くなり、請求書の発行を完了することができず、また即日出荷を謳い文句にしていた通販の出荷も止まってしまいました。事務担当者である社長の奥さんが慌ててソフト会社に電話しましたが連絡が取れず、翌日にやっとソフト会社が来社しシステムを調べましたが、十分な対応はできませんでした。その間も仕方なく奥さんは遅々と作業を続け、ソフト会社が古いシステムに戻してとりあえず動くようにはなったのは2日後のことでした。請求書の発行が数日遅れたことで得意先からは入金を一ヶ月先延ばしにされ、通販の顧客からはクレームとキャンセルの嵐となってしまいました。
さて、ANAとSB社はどうすべきだったのでしょうか?ANAがどうすべきだったのかは、ネットニュースを拾い読みしながらこのコラムを書いている私に分かる話ではありません。今頃はANA社内で検証が行われているでしょう。一方で、SB社がもっと上手に問題解決できた可能性はいろいろ考えることができます。まず、もっと早くソフト会社に対応してもらう術があったかも知れません。また、古いシステムへ戻す作業を自力で行うことも可能だったかも知れません。さらに、何れかの時点で手書きの伝票に切り替えて締め日に作業を完了させることも出来たかも知れません。
残念ながら、小さな会社の事務担当者は、こうした問題が起こると「コンピュータのことは難しくて分からないから」とお手上げになってしまい、専門家が対応に来てくれるまで問題解決の努力をしないことが少なくありません。しかし、対応の方法はあったはずです。不具合が発生した場合の緊急連絡方法を決めておけば、ソフト会社と全く連絡が取れないということは無かったでしょう。また不具合が起こった場合に古いシステムに戻す方法を解りやすいマニュアルにしてもらっておけば、マニュアルを見ながら自力で回復できたかも知れません。さらに、一時的に手書きで処理を行うことなどは、ANAでは物理的に不可能でも小さな会社では可能であり、コンピュータの知識を全く必要としない非常に有効な対応策であると言えます。問題はコンピュータが難しいことにあるのではなく、こうした適切な対応をするための準備ができていなかったところにあるのです。
十分な準備があれば、システム障害が発生しても「想定の範囲内」として粛々と対応策を行うだけで済む可能性があります。どんなに素晴らしいシステムであってもエラーが皆無ということはあり得ません。それゆえ十分な対応策の整備は不可欠です。ANAのシステムダウンにおいても、どういうエラーが出たらどのように対応し、どの段階でシステムを古いものに戻すのか、どのような代替策を行うのか、など手順が定められていたことと思います。ただ、ANAの発券を手書きで対応などということは不可能でしょう。それを考えると小さな会社は対応策の選択肢も多く、意思決定もシンプルでしょうから、十分な準備さえしておけば大企業に比べてシステム障害への対応も容易だと思われます。障害発生時の行動計画を定めておくことで不安感はかなり取り除けるはずです。